超常現象の専門家を探す
同じ日を、ひたすら繰り返す。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
「十二回くらいで元に戻るんじゃない?」
そんな希望を抱いた時期もあったが、今はすでに三十回目。それでも事態は何ひとつ変わらない。
変わったのは、私たち二人の関係だった。
繰り返す中で、互いのことを誰よりも深く知り、蜜のように濃密な時間を共にしてきた。今ではどんな人よりも親しい存在に感じられる。
検証の合間には、時には将軍と従者、キャプテンと副キャプテン、女王様と侍女などになりきって“ごっこ遊び”を楽しむ。そんなノリが、あまり深刻になりすぎず、この不可思議な時間をなんとか受け入れられている理由なのかもしれない。
おなじみになったカラオケボックスは、すでに私たちの「ループ現象対策本部」と化していた。
「一応、いろんなAIにも相談してみたんですよ」
と、マイちゃん。ノンビリした口調で、いつものように話し出す。
「それで、何て返ってきたの?」
「どれも“それは大変でしたね”って慰めてくれて。でもあとは、まるで精神科医みたいに“気の持ちようを変えて、新しいことに挑戦してみよう”って、そんなことばっかりです」
確かに……。私もAIに相談、いや、質問してしまっていた。
「私も“なぜループ現象が起きるのか”って聞いてみたの。そしたら……」
私はタブレットを開き、私が以前した同じ質問を投げかける。
画面に表示された返答をマイちゃんに見せる。
《時間の流れが歪むことは理論上あり得ても、同じ日を繰り返すループ現象が現実に起きる可能性は、限りなくゼロに近いと考えられます。
現在の科学では、時間のループ(タイムループ)現象を説明・観測した事例は存在していません。
理論物理学における仮説としては“閉じた時間的曲線”や“ワームホール”などが検討されていますが、実証されたものではなく、また人間の記憶だけが保持される形のループは現実的な仮説には含まれていません。
心理学の観点からは、“デジャヴ”や強い既視感が、記憶や感情の交差によって生じる可能性があり、それを繰り返しと錯覚することはありえます》
「だよね……」
創作世界ではよくある話でも、AIに聞いても現実では“そんなことはあり得ない”という返答ばかり。それが科学的な常識だ。
「じゃあ現実で、こういう異常現象に詳しい人って誰なんでしょう?」
と、マイちゃんが首をかしげる。
「ナオコさんが小説を書くなら、どんなキャラを登場させますか?」
「天才物理学者がまず浮かぶかな。もしくは天才数学者。事件の符号を繋げて解析して、数式で突破口を見つけるって展開もいいよね。ファンタジーなら……魔術師とか出てきそう」
「魔術師……。ってことは、現実だと霊媒師とか祈祷師?」
彼女のその一言が、私たちの霊媒師巡りのきっかけになった。
ネットで調べて、めぼしい人たちに片っ端から会いに行った。
占い師は意外にも真摯で、親身に話を聞いてくれる人もいた。しかし精神科のカウンセリング状態になるだけ。
祈祷師や霊媒師となると、もうカオスの世界。様々な言葉で脅し、お祓い料という名目でお金を巻き上げようとする者たちばかりだった。
最初に行ったのは、「下北沢の魔女」とSNSで呼ばれていた霊視占い師のもと。
マンションの一室に案内され、部屋の隅にはなぜか大量のぬいぐるみと、謎の仏像のような置物が並んでいた。
「お二人の背後には……とても強い“時の流れに抗う何か”を感じます」
その声は低く抑えられ、効果音でも入れたくなるような演出感満載だった。
「ですが安心してください。私の“時間封じの護符”をお持ちいただければ、災いは和らぎます」
そう言って勧められたのは、金色のキラキラした紙に筆文字が書かれた護符。お値段、一枚一万円。
「いや、ちょっと考えます」と断ると、態度は一変。
「……これ以上、時を舐めると後悔するわよ」
圧がすごい。一応買ってみたがもちろん効果はなし。
他に印象深かったのは高円寺の「異界カフェ」と看板にある不思議な店。
そこにいたのは、派手なゴスロリファッションの女性例の霊能者。
チャクラとか宇宙波動とか、言葉の意味は分かるのに話の筋がまったく掴めないセッションが繰り広げられた。
「あなた方のオーラは重なってる。まるで“逆行する星の導き”を受けてるのよ。……分かる? ねぇ?」
マイちゃんは「えっと……わかるような、わからないような……」と困った笑顔。
ここでは高いスピリチュアルジュース(レモン水)を頼んだだけでニ時間拘束されて、精神的に疲れただけだった。
何件かまわるうち、私たちは次第に“霊能者マニア”のようになっていった。
中には、真剣に寄り添ってくれる霊能者もいた。
鎌倉の老舗?のような祈祷所では、白装束の老人が私たちの手を握ってじっと目を閉じたあと、こんな風に囁いた。
「……お二人は、まだ“還る”べき場所を見失っている。だから、時間が巻き戻されてしまう」
「還る場所?」
「“導きの縁”を見つけなさい。それが鍵です」
この人だけは、お金の話を一切せず、それっきりそっと見送ってくれた。
マイちゃんは帰り道でぼそっと言った。
「今の人、ちょっとだけ本物っぽかったですね」
その人物は信頼できるかもしれない。
そう思って、次のループで私たちはもう一度その祈祷所を訪ねてみた。
ただ今回は、ループの話は伏せて「深い問題を抱えて困っている」とだけ伝えるようにした。
すると老人の態度は前回と異なり、今度はお祓いを強く勧められ、終了後には安くはない祈祷代をしっかりと請求された。
……もしかすると前回は、私たちの様子をうかがっていただけだったのかもしれない。
もしくは、下手に関わると面倒な客だと思われたから、何もせず帰されたのだろうか。
あの時の静けさが、本心ではなかったのかと思うと、少し残念だった。
そして私たちは、ついに「祁答院」の名前を知る。
マイちゃんが深夜のネット掲示板で偶然見つけた、ある投稿だった。
『事故の日から奇妙な夢を繰り返していた。何かに導かれるように訪れたのが“祁答院”。
あそこは何かを知っている。』
カラオケボックスでタブレットを挟んでマイちゃんと顔を見合わせる。
「……行ってみる?」
「もちろん! もう何でもやってみないと進まないもん」
私たちは次のループで祁答院を訪ねることを決めた。
ただ鎌倉の祈祷師の経験から、あえて具体的なことを知らせずにどういう反応が返ってくるか調べることにした。