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ペトリコールに融けるふたり  作者: 白い黒猫
救いの手を求めて
7/29

何も変わってなかった

 マイちゃんとはすっかり意気投合し、そのままカラオケを楽しみ、軽く飲みに行ってから別れた。帰宅後、シャワーだけ浴びてベッドに倒れ込むように眠った……はずだった。


 だが、目覚めたのはベッドではなく、なぜかリビングのソファー。

 混乱しながらスマホを手に取ると、ロック画面に表示された時刻は【01:11】。そしてその上には、信じられない日付が浮かんでいた。


「七月十一日……?!」


 息を呑む。

 なぜ? 死を回避したのに、すべては終わったはずなのに……。

 念のためタブレットやAlexaでも確認したが、表示された日付はすべて「七月十一日」。どれもが異口同音に同じ答えを返してくる。

 手が震えながら、私はアオイネミのXアカウントにアクセスし、DMを開く。


【時雨結です。そちらの状況は如何でしょうか?】


 万が一、ループしているのが私だけだったときのことを考え、必要最低限の文面にとどめた。

 しかし、返事はすぐに届いた。


【時雨先生!!連絡ついて良かった!

 何故かまた戻っちゃってます!】


 私たちはすぐにオンライン会議室を開き、顔を合わせることにした。

 画面越しに現れたマイちゃんは、キャラクターTシャツに同じキャラクターのヘアバンドというリラックスホームスタイル姿のまま、動揺を隠せない表情だった。


「あの、今って……昨日ですよね?」


「Alexaにも何度も確認したけど、やっぱり七月十一日だった」


「どうして……」


 答えは出ない。出るはずもない。

 彼女のXにも、前日とまったく同じコメントがつき続け、朝になればそれぞれの担当編集者から、同じ時間にまったく同じ文面のメールが届いた。

 私たちは再び早めに駅近くの朝からやっている喫茶店で待ち合わせ顔を合わせて相談する。

 結論が出ないまま、悩みながらもELEVENタワーへ足を運ぶ。

 そして、あの光景。巨大な鉄骨が窓際の席を破壊する場面を離れた場所から再び目撃するだけだった。

 そしてそれは、三度だけでは終わらなかった。

 その後も、七月十一日は終わらないまま繰り返された。


 最初の頃は、事故の被害を最小限に抑えようと、周囲に警告をしたりもした。

 だが、「今日は危ないからタワーには近づかないで」などと訴えれば、奇異の目を向けられ、実際言っていたことが起こると気味悪がられただけだった。

 そして、次のループではまた同じ事故が起きる。

 結局、何も変わらない。

 他人を救うことは早々に諦めるしかなかった。

 さらに分かったのは、私たちが何の連絡もせずにELEVENタワーへ向かわなかった場合……。

 幹元さんが事故に巻き込まれてしまう、という事実だった。

 どうやら彼女は、来ない私たちを心配して、一階のエントランスに降りて探しに来るらしい。そこで落下してきた瓦礫に直撃し、亡くなってしまうのだ。

 そのため私とマイちゃんは、それぞれの担当編集者に体調不良を訴え、顔合わせイベントそのものを中止にさせた。

 そうして、二人で事故からは逃げて自由に動けるようになった。

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