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ペトリコールに融けるふたり  作者: 白い黒猫
新しい局面

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52/60

ひりつく対話

 マイちゃんは同行を望んだが、必死に宥めて私の部屋で待ってもらった。

 私は“戦闘服”とも言えるスーツに身を包み、覚悟を決めて待ち合わせ場所へ向かった。

 会場は高級ホテルのエグゼクティブフロアにあるティーラウンジ。

 足を踏み入れた瞬間、息をのむほどゴージャスな空間が広がり圧倒される。

 周囲を観察する暇もなく、ひとりの男がまっすぐこちらへ歩いてきた。

 予めネットで顔を確認していたので、すぐにわかった。

 この男が、眞光(サネミツ)崇裕(タカヒロ)

 逞しい体つきを高級スーツで包み、整った髪と太い眉、鋭い眼光。

 弁護士というより精鋭の刑事のような迫力がある。


「時雨様。お会いできて光栄です」


 口角は上がっているが、目はまったく笑っていない。

 差し出された手を握り返すと、想像以上の熱と力がこもっていた。


「眞光さん、初めまして。お会い出来て嬉しいです」


 私がそう返すと、隣にいた幹元さんも名刺を差し出した。


「私は時雨先生の担当、ナイトムーンベルズの幹元と申します」


 眞光は名刺を丁寧に受け取り、洗練された所作で自分の名刺を返す。

 三人はティーラウンジ奥のプライベートルームへ案内された。

 高級感あふれる広々としたソファ、壁に設置された大きなモニター。

 商談やプレゼンに使われるのだろう。

 脅しのために数人で来るのかと警戒していたが、ここにいるのは眞光ひとりだ。

 コーヒーが置かれ、ホテルスタッフが下がると、眞光は私を正面から見据えた。


「お越しいただき、ありがとうございます」


 私は微笑みを返す。


「普通の会議室でも良かったのに……わざわざ場をご用意いただき、恐縮です」


 そこで一度言葉を切ったが、彼が口を開く前に続けた。


「まず最初にこれだけは言わせてください。不死原渉夢さんを侮辱するつもりは一切ありません。

 まして、貶める意図など全くございません」


 眞光の眉が不快そうに寄った。


「なら、なぜ。不死原氏を明らかに連想させる名前の人物を登場させた?」


 視線が鋭く突き刺さる。

 私は静かに深呼吸した。


「怒りを抱えているからだと思います」


 眞光の目が細くなる。

 彼が私について徹底的に調べたことはわかっていた。


「いろいろ調べられたんですよね?

 なら、もうご存じのはずです。……私の周囲で起きた出来事、全部」


 彼は黙っている。その沈黙は肯定だった。


「才能があり、多くの人から愛されていた三人が、なぜあんな不条理で不可解な死を迎えなければならなかったのか」


 私はゆっくり観察しながら言葉を選んだ。


「身近な方のご不幸についてはご同情申し上げます。しかし――」


一旦言葉を切り真っ直ぐ眞光を見つめる。


「眞光さんも同じ気持ちなのでは?」


 私はそう言葉を続ける。

 眞光の目が大きく見開かれる。


「不死原渉夢さん。十一残刻さん。

 彼らの死を、“納得して”受け入れられているのですか?

 それだけじゃない。2020年、2021年に起きた社員さんたちの不幸も」


 眞光の瞳が揺れる。

 その警戒はより強く、より鋭くなった。


「それらすべてを、“たまたま”“偶然”と割り切れるんですか?

 そういう運命だったと諦めて、もう忘れられているんですか?」


 眞光の拳がわずかに震えた。


「納得できるはずがないだろう!

 渉夢様は、あんな去り方をする人じゃない!」


 感情が爆発する。


 私は対照的に、意図的に落ち着いた優しい声で返した。


「私もそう思います。それなのに意地の悪いとしか言いようのない何かが私たちの大切な人を奪っていった。

 許せないと思いませんか?」


 眞光はじっと私をにらむ。その目に、探りと苛立ちと、わずかな共鳴が混じっていた。


「ほう。すると貴女は……ご友人の死への憤りから、あの小説を書いたと」


 やはり弁護士、簡単には誘導されない。

 私は肯定も否定もせず、黙って見返す。

 横で幹元さんが心配そうに視線を送ってくる。相手の圧が強すぎるだけに、横にいる幹元さんの存在に救われる。

 眞光にとっての不死原と十一は、単なる“顧客”などではない。

 深い情がある。それが確信に変わった。


「なら、なぜ天環や月代零を主人公にしなかった?

 彼女らの死にも納得できていないんだろう?

 彼女らを生き生きと描くほうが、読者はもっと二人愛し、もっとその死を悼むはずだ」


 全く引かない。主導権を握るのは難しい相手だ。


「……天環さんの死の現場にいた私に、それができると?」


 そう言った途端、体が震えた。

 演技ではなく、天環の亡くなった瞬間の記憶がよみがえったのだ。

 幹元さんがさりげなく肩を支えてくれる。その温かさで体の強張りが和らぐ。


「私が求めているのは追悼ではありません。“なぜ”の答えです。

 だから架空の存在を通し、現実と符合する部分を読者に気づいてもらい、真相を探る手助けをしてほしかった」


 眞光は冷たく笑う。


「架空? 明らかに、我が社の土岐野廻がモデルだろう」


 土岐野を使ったことに関したは、怒りよりも“攻撃の材料として使ってやる”という冷静さがにじむ。


「この作品の主人公は、読者と共に物語世界を歩く手助けをする存在。

 だから倫理的で冷静に世界を見つめ動くキャラクターにしました。

 名前も物語の中の役割をしめすもの。

 時というフィールドを廻り歩く存在」


 眞光は鼻で笑った。


「そのキャラクターが、たまたま土岐野廻と“同じ家族背景”だったと?」


「家族構成が似ている……という意味ですか?」


 私は惚けて返す。


「生まれつき重い病を持つ兄。兄中心の家庭で放置されるように育った……その生い立ちもだ」


 先に反応したのは幹元さんだった。

 眞光の視線が一瞬そちらにそれる。

 嘘を見抜く人間の目線が逸れたことに、私は密かに安堵した。


「我が社でもネットの噂を受け調べました。しかしそんな情報はどこにもありませんでした」


 幹元さんが冷静に補足する。

 土岐野の兄は葬儀にすら現れていない。


 自らのコンプレックスが強く、公の場に出なかったからだろう。補足すると母親も出なかった。父親が一人で式を取り仕切っていた。

 大々的に報じられたのは、若きエースプロデューサーの悲劇。それだけだ。

 事故の悲惨さによってニシムクサムライの企業イメージは大きな打撃を受けた。しかしトカズコーポレーションは、その矛先を土岐野への同情へと巧みにスライドさせ、印象の悪化を最小限に抑えていた。


「本当に知りませんでした。

 私に知りようがないですよね?」


 眞光は目を細め、私を刺す。


「そうですね。ネットのどこを探しても出てこない。

 調べても、貴女と土岐野に関係は見つからなかった。

 それなのに、貴女は土岐野廻を写すように描いた。……なぜです?」


 私は答えに窮した。

 そのとき、眞光は唐突に話題を変えた。


「杉田未来という女優をご存じですか?」


 元アイドルで、今は俳優の杉田玲士と結婚。

 ミライから杉田未来に改名した女優だ。


「ええ、好きな方です。美しいし、演技も――」


 私の返答などどうでもいいというように、彼は続ける。


「未来さんと先日会ってね。貴女の作品について話をした」


「未来さんに読んでもらえていたんですか! 嬉しい――」


 私が笑顔でそう口を挟むと、眞光は軽く睨んだ。


「気味悪がっていましたよ。貴女の本を」


 ……まあ、それはそうだろう。

 だが私は理由を尋ねるように首を傾げる。


「彼女は土岐野廻と最後に会話した人物なんです。

 そしてその“会話そのまま”が、貴女の小説に描かれていた。……これも偶然か?」


 私は大きなため息をついた。


「それこそ、私が知りようもない事実ですよね?

 誰かに聞いたとでも?」


 眞光は顔を横に振る。


「未来さんの証言では、会話が聞こえる距離には誰もいなかった。

 それなのに貴女はその会話を知っていた。なぜですか?」


 部屋の空気がひりつく。

 幹元さんまでが、興味深そうにこちらを見ている。

 私はわざと深く息を吐いた。


「眞光さん。貴方は、私が何を言っても信じませんよね。

 最初から否定のスタンスで話している相手に、これ以上説明しても意味がないと思います」

 その瞬間、眞光の表情から感情がすっと消えた。

今回出てきた眞光崇裕氏は【優しくて美しい世界】の中で不死原渉夢の秘書をしている眞邊樹里の婚約者として名前だけ出てきた人物です。

ソレがコチラの物語とどう関係するかというと、それだけなのですが、不死原渉夢、十一残刻と幼馴染でも彼らと近しい関係にある人物です。


そしてプチネタなのですが、杉田玲士とミライはこのシリーズの裏でメインではないのによく出て来ている人物で。

【過ぎた0時】【未来】ととして現実世界で、出会い、結婚して、子供が誕生と変化する時間を生きています。

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