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ペトリコールに融けるふたり  作者: 白い黒猫
神のチェスゲーム

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50/60

駒をセットする

 マイちゃんの提案で、続編に登場する人物の名前を意図的に入れ替えることにした。

 日廻(ヒマワリ)永遠(トワ)を元にしたキャラクターを、藤原メグルとした。主人公を時野廻と書いて「カイ」と読ませるようにしたので、名前の響きのズレ具合が心地よく思えた。

 そして飛行機メンバーの名前も、ライフフォード・ダインなど、マイちゃんや加留間監督が見つけたルーパーの名前を匂わせるものにしておいた。

 2018年から2029年までの“核ルーパー”は、ほぼ全員の情報を把握している。名前のストックには困らない。

 調べていくと、別の年の11:11:11関係者の名前も次々と出てくる。ある意味、検証好きの読者にヒントを与えてしまっていて、難易度を下げてしまっているのかもしれない。

 最初の本は、時野廻がループ世界の中でもがき、最後に佐東央と出会うことで心の平穏を手に入れる物語。

 続編では飛行機メンバーと合流し、現象の解明と脱出を共に図る――前回よりも派手で、ドラマの多い内容だ。

 日廻永遠の名前をあえて「藤原」にしたのは、それに対してどんな反応が返ってくるのか、興味があったからだ。

 日廻永遠は、飛行機事故に遭った世界的な建築家。

 一方、不死原渉夢は画家で、美大の客員教授でもあった。

 作中の藤原渉は、彼らとは全く異なる人物だ。

 そして、日本では【藤原】は珍しい苗字ではない。

 不死原渉夢と、作中の藤原渉の共通点は亡くなった日だけ。

 これで訴えてくるとなれば、さすがに難しいと思う。


 今回の件も含め、慎重を期すため、編集者の幹元さんとも相談しながら執筆を進めた。

 私には珍しく、時田のアドバイスももらった。彼は優秀な脚本家で、物語にメリハリをつけ、派手に魅せることに長けている。

 ブームに乗って調子に乗った作品だと思われないよう、誰が読んでも面白い作品を作る必要があった。

 そうして書き上げ、入稿したのが五月。ゲラが戻ってきたのが七月。


 校正作業に集中したかったが、この日はそうも言ってられない。

 マイちゃんに誘われ、太陽がギラギラ照りつける中を連れ出された。

 寝不足気味だった私は、促されるまま日傘をさして歩く。

 ギリギリまで喫茶店で身体を冷やしていたのに、圧のような熱気で気力も体力も溶けていく。

 到着したのは、池袋駅から歩いて七分ほどの場所にある【池袋三丁目公園】。

 住宅街の真ん中にあり、滑り台と鉄棒、スプリング遊具だけが置かれた小さな公園だ。

 スプリング遊具は、よくあるパンダやゾウではなく、黄色い帽子を被った謎の生物。

 羽のような手をしているから、一応鳥らしい。


「この子は“としまななまるくん”っていって、豊島区のフクロウのマスコットなんです。

 作者は非公開みたいですけど、名前も誕生日も安全でした。

 今までの流れだと、キーアイテムは“十一”に関係するものですから。

 月代さんとも関係はなさそうです。

 とはいえ油断できないので、五メートル離して置きましょう。周囲の家に怪しい苗字の人はいませんでしたが、月代さんの作品を所蔵している可能性がありますので、公園の真ん中に!」


 何が何でも私を守ろうとするマイちゃんは、優秀なSPのように周囲に鋭い視線を走らせながら私を誘導する。その姿が頼もしくて、少し緊張がほぐれた。

 暑すぎて、公園に遊ぶ子どもの姿はない。

 植木の影で猫が陽を避けて眠っているだけだ。

 時間は11時を過ぎる。

 私たちは、日差しの下、公園の中央で現象の起こる瞬間を待った。

 秒単位まで表示させたスマホを、肩を寄せ合って見つめる。


 11:11:00。


 その瞬間、マイちゃんが私に縋りつくように抱きしめてきた。離れる気配はまったくない。

 私もスマホを握ったまま、彼女の背中に手を回す。


『1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11……』


 画面が見えなくなった私は、心の中でゆっくりと数を数えた。

『30』に達したところでゆっくり離れ、私たちは視線を交わして微笑んだ。

 スマホの画面は『11:11:47』を示している。


「無事、乗り越えられましたね!」


「なんか、マイちゃんには救われてばかりだね」


 守りたいと思っているのに、いつも助けられている。


「何言っているんですか! 私のほうがナオコさんに元気もらって、救われているんですよ!

 そうそう、近くにカレーとシフォンケーキの美味しい店があるんです。行きません?

 今日、緊張して朝食べられなくて、お腹空いてるんです!」


 明るい声に、胸の奥がふっと軽くなる。


「いいね。今日は私が奢るよ。色々調べてくれたお礼」


 二人の関係を平穏に保つために、私は“対等”を心がけている。

 どちらか一方が依存したり求めすぎると、均衡が崩れてしまう気がする。

 同性カップルだから、余計にそう感じるのかもしれない。

 私たちは、公園を離れ、歩いて二分ほどの食堂へと向かった。


 マイちゃんの連れて行ってくれたお店は公園から少し池袋方面に歩いたとこにある緑の看板のお店だった。

 冷房の効いた店内の席に案内されたことでホッとした。

 私はキーマカレー、マイちゃんは野菜ときのこのカレー、それぞれにドリンクとシフォンケーキをつけて注文して一息つく。

「折角池袋に来たから、記扉のグッズ買いに行きたいな〜♪

 一番くじも始まりましたよね?」

 今年も事故から逃げられた事でマイちゃんも安堵したのだろう。

 ゴキゲンな様子で私に話しかけてくる声が心地よい。


 ネットニュースで、何か事故が起こっていないからチェックはするがまだ何も上がって来ていない。

 加留間監督と時田に、私は無事であること、そして事故が何か起こっていないかという確認の連絡をした。

 カレーがテーブルに運ばれてくるタイミングで加留間監督からは返事がきた。


【俺も無事だよ〜!

今年の事故は小規模で、目立ちにくいのかな? まだニュース上がってこないな】


 一昨年は事故が大きかったこと、昨年は有名人が事故に見舞われた事で、比較的早くにニュースとなった。

 その為1時間もしない内にネットで話題になっていた。

 一方、時田さんからは返事は来ない。

 逆に心配して先に連絡をしてきそうなのに不自然にも感じる。

 そこから一つの可能性が頭に浮かぶ。


「誰から連絡ですか〜?」


 マイちゃんは自分のカレーを撮影しながら聞いてくる。


「加留間監督から。今日も元気に過ごしていると」


 あえてそういう言い方をしたが伝わったのだろう。

 納得したようにマイちゃんは頷く。


「それにしても、今年選ばれたのは誰なんでしょうね〜!」


 マイちゃんはそう言ってからカレーをスプーンで掬い食べてかれニッコリ笑う。

 美味しかったようだ。

 二人で穏やかなランチタイムを過ごしてから、また灼熱の外を歩いてアニメグッズショップへと向かう。


「ナオコさん、このフォルトゥナくんカワイイと思いませんか?」


「この表情最高よね♪」


 こういう時は、世間に顔出ししていなくてよかったと思う。 

 気ままに好きな作品のグッズや自分のグッズを楽しめる。

 二人とも本名で呼び合ってるから二人ともバレることもない。普通にキャピキャピしていても恥ずかしくない。

 二人でアニメショップを満喫して喫茶店で休む事にした。


【ガス爆発】そんなワードがSNSでトレンドに上がっているのに気が付いた。


【速報】千代田区神保町で爆発事故 雑居ビル1階 飲食店で爆発か

 午前11時10分ごろ、千代田区神保町二丁目の雑居ビルで爆発音との通報。死傷者がいる模様──


 クリックすると白い変哲もないオフィスビルの一階部分から炎が吹き出しており、消防車が消火活動をしている写真や動画が出てくる。

 ニュースでは具体的な住所ビル名は載っていなかったが、すぐに分かった。時田の所属しているアニメーション制作会社のクライアントオフィスのあるビルだ。

 中野区にある制作作業行う本社とは別に、クライアントとの打ち合わせや試写室などを独立させたオフィスだ。

 1階は応接室や会議室があり、地下に様々なサイズの試写室がある。

 私も何度か足を運んだことがあるからすぐに分かった。


「これDecim Animatio studioのクライアントオフィスのあるビルだよ」


 私は簡単にマイちゃんに説明した。

 マイちゃんは納得したように頷く。


「あぁ、時田さん彼方に行っちゃいましたか」


「みたいね。少し寂しくなるね」


 マイちゃんは私の言葉にウーンと悩んで肩をすくめた。


「ところでナオコさん、時田さんにキーアイテムの話はしなかったんですね」


 私は頷く。


「だって、そうしたらメッセンジャーとしての役割を果たせなくなるでしょ? シナリオが狂うのは困るし」

 時田さんの死。それに言葉にできない痛みが胸をかすめた。

 私はそれをそっと飲み込むように、いつも通りの声を出した。

 私の言葉に、マイちゃんは明るい嬉しそうな笑顔を返してくれる。

 まあ、現実世界では死んだのかもしれない。でも時田は彼方の世界で生き続ける。

 だから寂しさを感じる必要はない。私はそう思うことにした。

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