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ペトリコールに融けるふたり  作者: 白い黒猫
神のチェスゲーム

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49/60

パズルを作る

 ネット上では【11:11:11】現象が俄かにオカルトネタとして盛り上がり続けている。

 年末に向かうクリスマス前で忙しい季節だと思うのに、まだ祭りは続いている。

 天環と月代零の死亡時刻は 11:11:11 であったという認識は、すでに共通の事実として広まっている。

 テレビでも超常現象の特番のネタとして扱われるらしく、取材依頼も来たが丁寧に断った。

 監督も同様で、あくまでも創作物というスタンスを崩していない。

 私は話題の中心になりたいわけでも、世間に11:11:11現象の情報を公開したいわけでもない。

 ただ、世の中がどんな反応を見せるのか、静かに観察していたいだけだ。


 その番組とやらを、今マイちゃんと一緒に見ているのだが――茶番でしかなく、対して面白くもない。

 超常現象肯定派と否定派に分かれて討論しているものの、馬鹿騒ぎしているだけ。

 どちらの言動も薄く、相手の話を聞かずに自論を展開しているだけで、チープなバラエティに成り下がっている。

 グダグダのままUMAユーマの話題が終わり、今最もHOTなネタとして【7月11日の怪】が取り上げられた。


「これは時雨結先生が、小説という形で示した預言書なのです!」


 私の本を掲げながら叫ぶオカルト研究家。


「その本は私も読みましたが、この物語の舞台は2020年。

 どこが預言書なんですか! 過去が舞台の話なんですよ!」


 勝ち誇った顔の否定派の教授。誰もが思ったであろう疑問を、なぜそんなに得意げに語るのか。


「7月11日。この数字には特別な意味があるのが分からないのですか?」


 バカにしたように言う否定派の博士の言葉を丸っと無視して、額の広い超常現象研究家は語り出す。


「7は【完全】や【神の秩序】を示す数字。そして11は【逸脱】、【神性を超える人間の意志】を示す数字です。

 つまりこの日自体が、神の秩序から逸脱する危険性を孕んでいるとも言えます」


 その言葉に、怪しげな魔女のような格好の女性が頷く。


「さらに言うと――7月11日11時11分11秒。

 試みにこの現象を数式的に表すと、次のようになります。

 7 × (11³) = 7 × 1331 = 9317

 この数列を分解すると、

 93(意志・Thelema)+17(死と再生) となる。

 すなわち、11:11:11現象とは “意志と死の同調” であり、

 生者と死者の意志が融合する瞬間と考えられるのです!」


 フリップを高々と掲げ主張する占い師とオカルト研究者。

 私は苦笑するしかなかった。

 二人とも言っていることはズレているのに、なぜ分かり合えている風なのか。喜劇でしかない。

 この謎の方程式は何なのか。西暦の数字は完全に無視されている。

 ただ、用意された数字を使って無理やり解を「93」に合わせただけの数式だ。

 女子が好きな運命数の計算ならまだしも、彼らの中では西暦という前提が消失している。

 もしそうなら、現象の起こる日時も、被害者の誕生日も、年が変わるたびに数字が変わるはずなのに。

 殆ど参考にならない内容を捏ねくりまわして、話は武将の怨霊へと脱線していった。


 スマホが震える。時田からのLINE電話だ。

 マイちゃんは露骨に顔を曇らせる。

 私は仕草で「ごめん」と示し、電話に出る。


『こんな時間に申し訳ない。大丈夫かな』


 時間が時間なので、スッピンを理由に音声のみにして、さらにマイちゃんも一緒に調べ物をしている「仲間」と紹介し、スピーカーフォンにした。


「時田さん、こんばんは。アオイネミです。

 先日はお恥ずかしい姿を見せてしまって、申し訳ありませんでした」


 声色は可愛いが、表情は少しも笑っていない。


「いやいや、気にしないで。

 でも君みたいに可愛いお嬢さんが一人で飲むのは危ないよ。悪い奴がいるかもしれない」


 彼は、マイちゃんが酔ったふりをして乱入したことに全く気付いていないようだ。

 良識的な年長者として、優しく諭す。


「はい。結さんにもあの後、散々怒られてしまって……反省しています。

 締め切りが終わって開放的になっていたんです。以後気をつけます」


 声だけは殊勝な様子だ。


「ところで、時田さん。この番組をご覧になってどう思われました?」


 小さな笑い声が漏れる。


『もう少し調べようがなかったのかと呆れるくらい酷い内容だったね。

 逆に、変な奴らだけがこの話題を好んで盛り上がり、変な方向に行かないか心配になった。

 時雨さんの本も持ち出してのことだから、気にしていないかと思って電話したんだ』


「ありがとうございます。予言本と言われたのには笑うしかないですよね」


「前に結さんと取材で占い師を回ったことありましたけど、同じくらい酷かったですものね〜

 オカルト系はロクな人がいないのがよく分かりました」


 マイちゃんはため息をつく。


「あと、7月11日に亡くなられた方のリストも、私達の調査の半分も調べられていないなんて。

 マスコミも大したことないですね! 十一関連を強調できる一番楽な材料を、まるっと抜いているなんて!」


 マイちゃんがいつになく饒舌なのは、私と時田を会話させないためだろう。

 意外と彼女は嫉妬深い。


『それはテレビ局としての政治的配慮だろう。

 十一(トカズ)不死原(フシハラ)関連企業はテレビ局にとって大スポンサーだから、敵に回せない。

 怒らせないためにも話題に出すこと自体がNGになったのだろう。

 このオカルト研究家は、実は“ニシムク サムライ”の二年連続の事故と、十一氏と不死原氏の事故について言及した論文をネットで公開していた。

 だがすぐに取り下げられた。なにか横槍が入ったのだろう』


 なるほど、土岐野廻の仕事内容と事故シーンに、幹元さんがらしくなく口出ししてきた理由も、それで分かった。

 だから私の小説の主人公はイベント系の会社の社員で、その業務中の事故として描いている。

 現実世界を創作として描く場合、たとえ「フィクションです」と明言しても、関係者に騒がれるとややこしい。

 現代社会の困ったところだ。

 今の段階では、土岐野廻と佐藤宙しか登場していない。

 どちらの家族からもクレームは来ていない。

 土岐野は 土岐野(カイ)(カイ) として、佐藤宙は 佐東央(サトウヒロシ) として登場させている。

 土岐野は漢字と名前の読み方を変えると印象が大きく変わるため、家族としてもモデルとは言いづらいだろう。

 佐藤は珍しい漢字だが、「さとうひろし」というポピュラーな読みのおかげかもしれない。

 しかし、日廻永遠や、飛行機事故のメンバーはどう書くか。


「今後はより慎重に描く必要があるのかもしれませんね」


『かといって、あまり現実から離すと世間へのインパクトも減るしね。悩ましいところだ』


 沈黙が落ちる。


「だったら、今後登場する人、名前と職業をバラバラにして入れ替えたらどうです?」


 マイちゃんの明るい声が響く。

 面白いかもしれない……。

 職業や立場という個性と、名前という個性を分離して組み直す。

 11:11:11の謎を追う人にとって、魅力あるパズルを提供できるだろう。

 私は親指を立ててみせた。

 マイちゃんは無邪気に、嬉しそうな笑みを返してきた。

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