表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/36

次の手は?

 報告書を読み終えた日廻永遠は、小さく溜息を吐いた。


 これは私がそれぞれとの接触を、マイちゃんの挿絵付きで小説風にまとめた記録を、佐藤宙と土岐野廻に読んでもらい、それを土岐野が飛行機メンバー用に報告書として整理し直したものだ。

 さすがに「小説調のまま翻訳」したわけではなく、きちんと事務的な体裁に整えられている。


『……まぁ予測はしていたけど、接触によって何の変化も見られないか。

 彼らが“核”なのかどうかも、まったく読めないな』


 フランツが発言の許可を求めるように日廻を見やり、口を開いた。


『後は……ループの情報をあえて与えた上で接触する、という方法を試すしかないか』


「でも、いきなりそんな話をしたら変人扱いされるだけじゃない?」


 マイちゃんは慌てたように反論する。


『君たちが事故前に接触、あるいは連絡を取れるのは――時田と(そら)か?』


 ミラーが問いかける。

 私は首を傾げ、それからうなずいた。


「時田さんには、タイミングを選ばずメールは送れます。

 ただ天さんの場合は事故の十数分前……かなり微妙な時間帯です。

 一応SNSでDMを送ることは可能ですが、相互フォローではありません。私は“時雨結”の名前ではSNSをしていないので、見知らぬ人から突然連絡が来る形になってしまいます。怪しまれる可能性が高いでしょう」


『それでも、未来を言い当てる内容なら何かしら反応はあるのでは?』


 ミラーの言葉に私は考え込む。


 もし私なら、怪しいDMを受け取って内容通りの出来事が起きたら……その後、送り主と対面して説明を受けることになる。果たして信じられるだろうか。奇行と思われるリスクは大きい。


「……報告書にどこまで書いてあるかは分からないけど、天環は何にでも大騒ぎする面倒なタイプ。

 一方で時田悠久は……ナオコさんに下心を抱いて、距離を縮めようとしてるっぽい!」


 マイちゃんの指摘に、佐藤は心配げにこちらへ視線を送る。


「……俺たちじゃ、直接助けに行けないしな」


 土岐野も悩むように呟いた。


「もちろん、二人きりで会わせるつもりはない。人目のある場所での対話にしてもらう。舞さんも一緒なら、さすがにおかしな行動はできないだろう」


 日廻がそう答える。そりゃ、個室で二人きりなんて選択肢ははなからない。

 時田さんは物静かなタイプで、以前の打ち合わせでも穏やかに人の話を聞いていた。悪い人ではないと思う。けれど、逆にそういう人の方が内面は読みにくいともいう。もし問題が起きたら、私とマイちゃんの二人だけで対応できるのか……マイちゃんを危険に晒すのは嫌だ。


『ふと思ったんだけど……その“核候補”って、ヒロシやメグルが見えるのかな?』


 リンダが疑問を投げかける。

 もし来年以降の核候補に、過去の核が視認できるのなら、この異常な状況を手っ取り早く理解させられる。試す価値はあるし、なにより面白そうだ。


「それも含めて試してみるべき……かな」


 そう返事をすると、マイちゃんは私の腕を掴んだ。時田の件にはやはり警戒をにじませているようだ。


『それはそれでいいだろう。仮に時田から二人が見えなかったとしても、ヒロシやメグルとスマホで繋げばいい。

 もし相手が強引に迫ってきたら、通話画面をそのまま見せれば警告になる。“知り合いに繋いでいる”と告げれば牽制にもなる。

 ループの話を信じても信じなくても、彼らならフォローできる』


 ウォーレンが助言する。


『まあ……左手薬指に指輪をしていくだけでも、口説く気は萎えるかもな。そこを気にするかどうかで、相手の出方もある程度読める』


 ミラーがのんびりと付け加えた。

 こうして、アプローチを変えつつ、再度の接触を試みるという方針が固まった。




 出来る限りリスクを下げるべきだという佐藤宙の意見で、時田さんとはWEBで話し合う方向に進めることにした。

 それなら隣で二人は見守れる。おそらくは二人の姿は時田には見えない。だからこそ見守りやすいということで、それはそれで私も心強いと思った。

 まずは2028年7月11日の出来事を綿密に調べておく。何時にどんな事が起きるのか、どういうタイミングでニュースが発信されているのか。

 そうすることで、私がこの一日の事をよく知っているという証明になる。

 準備を整えた上で、私は朝の六時に時田氏へメールを送った。


【ご無沙汰しております。突然のご連絡失礼いたします。

 時田さん、どうか落ち着いてお読みください。私がお伝えする内容は、事実に基づいた非常に重要な話です。

 私は、今日・7月11日をすでに体験しています。


 朝から、雨が激しく降ったり止んだり、日差しが差し込むと湿度が上がるという、異常とも言える天気の繰り返しでした。

 今朝のニュースでは、

 ・アメリカとロシアのトップ会談がテロにより中止

 ・沖縄諸島沖の高気圧が台風に変化し、九州地方に向かう

 ・7時37分頃、大阪のJR阪和線で雷による停電、電車の運行が停止

 ・占いは1位:山羊座、12位:天秤座。


 さらに9時過ぎ、メジャーリーグで大山選手がホームラン、NBAでは谷口選手がブザービーターを決めました。


 そして最も重要なこと……11時11分、ELEVENタワー4階の喫茶店[Onze bonheurs]で、工事現場のクレーンから吊るされた鉄骨が突入するという事故が発生します。

 なぜ私がこのことを知っているのか、なぜあなたに伝えるのか。

 それについて、12時頃に改めてご説明させていただきたいと考えています。どうか、その時に私の話を聞いてください。】


 さて、時田さんはどう反応してくれるのか。


 正午の約束に備え、私たちはカラオケボックスに集まり、ちょっとした「作戦本部」を設営することにした。

 対策本部はカラオケボックス佐藤と土岐野の三人で、同じカラオケボックスの同じ部屋を、お昼のフリータイムプランで朝十時から夕方十八時まで借りた。

 部屋の広めのソファーの上に私のパソコンを置き、そこから時田さんと対話する。

 さらに、新しく買ったタブレットをモニター代わりにし、時田さんとのやり取りをそちらでも表示。

 その画面をカメラで撮影し、日廻永遠が開いているWEB会議室へ中継する。

 私のパソコンの両隣には、佐藤と土岐野がそれぞれ自分のパソコンを並べて置き、二人もルーパーズ全体会議に出席する。

 一方、反対側のソファーに座るマイちゃんの前には、私のもう一台のパソコンを置いた。

 そこからマイちゃんがルーパーズ会議に接続し、飛行機メンバーと裏でやりとりできるようにする。

 必要に応じて時田さんとの対話にも加わってもらい、場をフォローしてもらう算段だ。

 こうしてやや複雑なセッティングになったのは、飛行機メンバーの要望があったからだ。

 私としては、これはこれで一種の体験型ショーのようで面白いと思う。

 ルーパーズ側で「時田さんとのやり取りをどう全員で共有するか」を工夫した結果、この形に落ち着いたのだ。

 ありがたいことに、時代が異なるせいで機器どうしは物理的に干渉しない。

 だから机の上がギチギチになることはなく、例えば私のドリンクを佐藤のパソコンのキーボード部分に置いても問題ない。

 十一時にはセッティングと接続を終え、皆で軽食をつまみながら緩やかな時間を過ごしていた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ