核の卵
皆が言葉を失って黙り込んだとき、日廻永遠が別の視点を促した。
『人ではなく、場所から探るのも手かもしれません』
そこで私たちは、事故や現象が「どこで」起きてきたのかを整理することにした。
2018年──日廻永遠が乗っていたのは、前年度の核が設計した航空機《グランドエア1111》。
2019年──佐藤宙が竜巻に巻き込まれたのは、永遠が設計したタワーマンション《Medio del Mondo》。十一屋敷町十一丁目十一番地、十一丁目商店街の跡地に建てられていた。
2029年──土岐野廻が事故に遭ったのは《ジャックスマイル》という施設の中にある〈ニシムクサムライ零〉。
ちょうど十一周年記念の期間限定店舗であり、「ジャック」はトランプの11を意味する。
そこで使われたキーアイテムは、テンプラスワン社にいる佐藤宙が設計した士システム入りのタブレットだった。
2027年──貢門命架は霜月小学校の前で、不死原渉夢が描いた劇画の壁画を背に竜巻に巻き込まれて死亡。霜月とは旧暦の十一月を指す。
2028年──私たちが巻き込まれたのは《ELEVENタワー》4階にある喫茶店【Onze bonheurs】──フランス語で「11の幸せ」という意味を持つ店だった。
さらに裏で調べた情報もある。
2021年──レイフォード・ダインは《ニシムクサムライ11号店》にて事故死。
2025年──十一残刻は台風で飛ばされた《le onzième cadeau(11番目の贈り物)》の看板に当たり死亡。
2026年──不死原渉夢は《十一久刻像》の横で崖崩れに巻き込まれて死亡。
「こうして並べると、どのケースも“11”に関わる場所、あるいは物のある場所で起きているな」
私がまとめた資料を見ながら、土岐野廻が指摘した。
『称央子さん。あなたの作品に“11”を連想させるものはありますか?』
日廻の質問に、マイちゃんが私より先に声をあげる。
「《記憶の扉と十一の鍵》!」
胸の奥がざわつく。
「……確かに、タイトルとして明示されているのはそれだけです。
でも振り返ってみれば、十一に絡む物語は多いんですよね。
主要キャラが十一人だったり、十一の世界を旅していたり……無意識に“11”を織り込んでいたのかもしれない。
今となっては、少し気味が悪いです」
『ここにいる皆も同じですよ』
日廻が苦笑した。
『あのマンションは、俺にとって十一番目の作品だ。そして1111便に乗って、今こうしている。──俺らは常に“11”に翻弄され、誘導されている気がしてならない』
『では、この《記憶の扉と十一の鍵》から紐解いてみましょうか』
フランツが資料を見ながら事務的に話を戻す。
『こちらでは《The Eleven Keys and the Gate of Memory》と記載されているものですよね? そしてコミカライズもされているようですが?』
私は頷いた。だが同時に、胸に冷たいものが走る。
タブレットを取り出し、クラウドにおいてある資料を開いた。
そこには《記憶の扉と十一の鍵》アニメ化計画の詳細があった。幹元さんがまとめてくれた、脚本家や主要声優のプロフィール。
私がスタッフとの会話に困らないよう、普通の紹介に加え、SNSのURLから趣味や家族ペットのことまで記された資料だった。ネットにない情報までそこにある。
誕生日欄に目を落とした瞬間、息を呑んだ。
「ナオコさん、大丈夫ですか?」
マイちゃんが心配そうに声をかけてくる。
「……実は、この作品、まだ情報解禁前ですが、すでにアニメ制作が進んでいます。……シリーズ構成を担当している脚本家と主演声優が、どちらも11月11日生まれ。そして監督とプロデューサーは“11日”生まれでした」
皆が一斉に驚愕の表情を浮かべた。
フランツが口を開く。
『その二人の詳細をいただけますか? 外部に漏らすことは絶対にしませんので』
私は二人の簡単な情報を入力し画面に表示させる。
11月11日生まれの制作陣
時田 悠久(Tokita Haruhisa) 1985年11月11日生まれ/シリーズ構成・脚本家 代表作:「ミラクルコード」「悪役令嬢と11人の詐欺師」「ファイヤーイレブン」
月代 零(Tsukishiro Rei) 2000年11月11日生まれ/声優 代表作:「ワオンとニヤン」「悪役令嬢と11人の詐欺師」「11番目の側妃、後宮でド派手に草生やす」
『月代さんは、先ほどの11月11日生まれのリストにも出てきましたね』
冷静な声でフランツがコメントを返す。
日本人メンバーがその内容に、低く唸る。
『トワ、この二人の名前の意味は?』
フランツが永遠に振った。
日廻は少し考え、英語で説明した。
『トキタは“ユウキュウ”と読めて、俺の“トワ(永遠)”と同じ意味合いを持つ。ただ、俺が“Forever”だとすれば、彼は“Eons”に近い。
ツキシロは“零”で数字のゼロを意味する。始まりとか原点のニュアンスでも使われる。ニシムクサムライ零がそうなように』
自動翻訳された文を読みながら、私は感心した。日本語の“永遠”と“悠久”の違いを、英語で説明できるなんて、とても自分にはできない。
「……核が二人、なんてことがあるのでしょうか?」
問いかけると、皆が黙り込んだ。
永遠が考えた末に口を開く。
『我々も現象を完全に理解しているわけではない。だから否定はできない。ただ、これまでそんな事例は確認されていない』
フランツが頷き、言葉を引き継ぐ。
『もしくは、二人は異なる年に巻き込まれるのかもしれない』
背筋が冷えた。──来年を逃れたとしても、危機は消えない。全く違う人がルーパーになる可能性もゼロではないが、あまりにもこの二人は条件が揃いすぎている。
「《記扉》(記憶の扉と十一の鍵)はワンクールでは終わらないんですよね?」
マイちゃんの言葉に、私は小さく頷いた。
今年の秋から放送予定で、すでに制作は進んでいる。視聴率次第ではあるが来夏には続編という話はいただいている。私の事故がどう影響するかは分からないが、ファーストシーズンの放映が中止になることはないだろう。ないと思いたい。
マイちゃんがハッとした顔をしてスマホを操作し、「……やっぱり」と小さく声を上げた。
差し出された画面を見て、私はため息をつく。
そこには作家・天環のX投稿が映っていた。
《今日は悪詐欺のアフレコスタジオにお邪魔しました! 零ちゃんの誕生日だったのですが、同じ誕生日の私も便乗してお祝いしてもらいました》
天環と月代零がケーキを前に笑って写っている写真。
天環の誕生日も、11月11日。
私たちの様子を気にした土岐野廻が視線で問いかけてくる。私はマイちゃんからスマホを借り、画面を見せた。私が触れていると土岐野廻も視認できるから。
「こちらの投稿は《悪役令嬢と11人の詐欺師》の作者・天環で、一緒に写っているのが月代零です」
土岐野の目が大きく見開かれる。
「そして《悪役令嬢と11人の詐欺師》のアニメは、まだ完結していません」
私の言葉に土岐野は悩むように目を伏せた。そして皆の視線を受けて、再びレンズに向き直る。
「来年ではなさそうですが、もう一人、核の候補がいました」
そう言って英語で報告を始めた。




