名前が示すもの
漠然と次年度のルーパーを探すのは難しい。
「ルーパー候補の著名度は高いとは限らない。だが、何かを作っている人がルーパーの核になりやすい。アニメ制作関係者や編集者の誕生日から探っていくべきだろう」
フランツの意見に皆が頷いた。まずは私のアニメ制作関係者や編集者——十一月十一日生まれの人物を洗い出すことから始めることにした。
だからアニメ制作者、私の本の表紙を描いたイラストレーター、コミック化した漫画家などから調べてみる。
私に関わるものがキーアイテムになるのは確かだが、だからといって次年度の核候補が「私の作品に関わった人」だとは限らない。
それでも、クリエイターや制作関係者は核になりやすい気がした。
貢門命架は兎も角、日廻永遠、私、不死原渉夢、十一残刻という流れも、関わっているのは主に“創作に携わる人物”であり、核になりやすい傾向が見えていた。
ざっくりとAIで調べると、私の作品関連の声優さんで「11日生まれ」の人は何人か見つかったが、11月11日生まれは一人もいなかった。
制作側も監督や助監督、プロデューサーあたりなら「作品の責任者」と言えるだろうと調べたが、誕生日を公表している人が少なく、そこからは手がかりを得られなかった。
漫画家も同じで、公表している人は見当たらない。けれど、私自身が顔を合わせ、SNSで繋がっている人はいるので……直感的に「違う」と思えた。
そこで面倒になり、AIに「11月11日生まれの著名人リスト」を作ってもらい、画面に表示させた。
それを見た瞬間、向こうのメンバーはざわめく。未来の技術に触れたことへの驚きと、少しのショックが入り混じった反応だ。
リストには俳優が六人、漫画家三人、ゲームクリエイター一人、投資家一人、選手六人、アナウンサー四人。
その中にデミ・ムーアとレオナルド・ディカプリオの名前を見つけ、マイちゃんが目を輝かせる。
「まさか、ナオコさんの作品が実写映画化されて、このどちらかが出演ってことはないですよね?!」
「ないないない」
私は笑って否定した。
「この漫画家は、どの程度有名なのか分からないけど……どうなんだい?」
フランツが画面越しに尋ねてくる。
「有名といえば有名ですが、大御所で……いわゆる“海外で人気のMANGA”というよりも、クラシックな作風の方です」
「もう書店では並んでないと思う」
マイちゃんがポツリと言った言葉を、土岐野が英語に直してくれた。
「あるとしたら理髪店か古本屋とかかな。あとは個人の家か」
佐藤が独り言のように呟く。
「称央子さんの作品の読者層からは離れているけど……家族はいるだろうし」
土岐野が補足し、それを英語で振り返す。
次の年、どこで起こるのか。そして誰が選ばれるのか。
探すのは、砂漠に落ちた石を見つけるより難しい気がした。
「他に……核の人に共通する特徴はあるのでしょうか?」
私が問うと、一瞬沈黙が落ちる。
やがてフランツが、少し考え込むように口を開いた。
「特徴と言えるほどのものではないけれど……名前に意味がある場合が多い。ディスティニーとか、永遠(eternity)、廻(Turn)とかね。
ただし日本人は漢字を持っているから、名前に必ず意味がある。それが難しいところだ。……ナオコさんの名前はどうなの? ネットでは“ポピュラーな名前”と出てきたけど」
「音としてはポピュラーですが、漢字は少し珍しいみたいです。……」
私は紙に【称央子】と書き、皆に示す。
「最初の【称】は“称する”という意味で、【央】は“物事の中心”。……そんな解釈で合ってますよね?」
日本人メンバーに視線を送ると、皆が頷いた。
フランツの声が少し低くなる。
「つまり……“中心を示す”名前、ということ?」
私は静かに頷いた。
「そうとも言えます。両親が意図して付けたのではなく、祖父が字画を気にして選んだだけのようですが」
会議室に一瞬、沈黙が広がった。
偶然なのか、それとも必然なのか。
皆の視線が、私の名前に吸い寄せられているように感じた。
私が物語を作る際、名前は特に気を使う。そのキャラクターの人生や特徴をそこに込めるように。
だからこそ、今ここにいる仲間たちの名前にも、つい意味を重ねて考えてしまう。
佐藤宙──「ヒロシ」という読み方としては珍しい字を使っている。
さらに日廻と土岐野を並べれば「永遠に宙を廻る」とも読めてしまう。
何とも嫌な言葉だ。偶然にしてはできすぎていて、背筋が冷える。
次の年のルーパーたちを思い出す。
レイフォード──その意味は「力強い平和」「平和な支配者」とも読めるようだ。
そして「命を架ける」「残す刻」「渉る夢」……確かにどれも、意味深すぎる名前だ。
日本の名前は自由に読めてしまうから、なおさら意識すると悩ましい。




