数字に引き寄せられて
四人で再集合したのは、ファミレスの「サムライ」。
ニシムクサムライと同じ会社が運営している店舗で、同じシステムをベースにしていた。
こちらの店舗なら、土岐野廻と直接関係のある社員がいる可能性は低い。
九時過ぎという中途半端な時間のせいか、店内は空いており、席も自由に選べた。
私とマイちゃんが並んで座り、向かい側に佐藤宙と土岐野廻。
それぞれタブレットをテーブルに置き、話し合っているのだが、干渉することはないのでテーブルの上も混み合っていない。
「しかし、俺が携わったシステムが、そんな時代まで使われてるとはな」
佐藤が感慨深げに言う。
「テンプラスワンさんのシステムは、うちの基幹部分に組み込まれてますから。そう簡単には変更できませんよ。
根本的な部分がシンプルだから、カスタマイズもしやすくて、汎用性もあるし」
「システム構造そのものは、シンプルであることが鉄則だよ。特にここみたいに大量のデータを扱うなら尚更。
メンテナンスも大変になるし、複雑な設計は引き継いだ人間が可哀想になるからね」
「ビジネスに限らず、何事も複雑になっていいことなんてない。
余計なものが増えて、それに囚われると、目的すら見失いかねない」
土岐野は、目の前にいる佐藤と直に会えているのが嬉しいのか、少しテンションが高い。
「それにしても、飛行機、建造物、店舗運用システム……そして本。核に関わってるものの幅、広すぎませんか?」
もうすぐ0時。強制解散まであと2時間ちょっと。無駄話をしている場合ではない。私は話を本題に戻す。
マイちゃんは隣でスマホを操作しながら、何かを調べている様子だった。
「少なくとも、サムライ系のレストランなら、全国どこでも佐藤さんに会える可能性はありますけど……
他のルーパーと偶然会えるなんて、もう奇跡のレベルですよね」
スポット自体は全国にあるけれど、同じ時間に、同じ場所に、偶然居合わせて、しかも気づけなければ意味がない。
「その奇跡、もう一度使っちゃってますしね〜」
マイちゃんの言葉に、三人が苦笑する。
確かに佐藤と偶然出会えたことも、奇跡だった。
命華のときは、彼女の地元だったとはいえ、やっぱりあれも奇跡。
そして、あの謎の外国人は?
ふと土岐野と目が合い、私はにこりと笑い返す。
するとマイちゃんがツンツンと私の膝をつつく。
彼女のスマホには、2021年に沖縄のニシムクサムライ11号店で起きた事故のニュース。
被害者はライフォード・ダインというプロサーファー。その顔を見て──声には出さなかったが、私は驚いていた。
考え込む私に、佐藤が怪訝そうな表情を向ける。
「ところで佐藤さん。どうして、ニシムクサムライ零のあの席に座ってたんですか? 予約? それとも案内されたのがたまたま?」
私の質問に、佐藤は首を傾げる。
「予約だったよ。あの席、見晴らしもいいし、本当は人気な筈なのに、なぜか空いてたんだよね」
「たしか11番テーブルでしたよね? 案内されるとき、店員さんがそう言っていたのを思い出して」
私の言葉に、目の前の二人が驚いたように私を見る。
マイちゃんがナプキンに何かを描き始める。見ると、スタバの見取り図だ。
「命華に遭った席、入り口から右回りに数えて11番目が私たちのテーブルで、左から数えて11番目のテーブルが──あの女の席だ!」
マイちゃんが声を上げる。
私も、テーブルにふと目を落とす。そこに刻まれた数字は──やはり「11」。
「そしてこのテーブルも11。偶然にしては、できすぎてますね」
私は思わずつぶやく。
「……奇跡、だけじゃなく、何かの作為すら感じるな」
佐藤が顔をしかめる。
「俺が事故に遭ったときに手にしてた端末も、11番だった」
土岐野が重ねるように言い、場に静かな重みが落ちる。
だが、私は少しだけ笑って返す。
「でも、これがRPGだったら──優しめの設定が組まれてるってことかも」
「奇跡的な出会いも、少し起こりやすくなる……なら、それはそれでアリですね」
土岐野も軽く応じた。
佐藤は、私たちの言葉を受けて、少し黙り込む。
「つまり、俺たちは──無意識に誘導されているということか?」
私は少し考える。
だが、2018年のルーパー・日廻永遠は、飛行中の航空機の中にいた。
その前のルーパーはニューヨーク……。
積極的にルーパー同士を交流させようとしている意思は、正直感じない。
「どうなんでしょうね。
もしこの現象を何者かが意図して起こしてるなら……その存在、けっこう雑ですよ。
巻き込まれる人数も場所もバラバラで、私たちに何をさせたいのかも見えない。
リアルな脱出ゲームだとしても、ヒントが少なすぎます」
「でも現に、こうして異常な現象が継続している事実はある」
佐藤は真剣な表情でそう返す。
その隣で、土岐野が少し嬉しそうに彼を見ていた。
私は横目で、マイちゃんが常世村の地図をネットで調べているのを確認する。
本当に彼女は優秀な調査員だ。ネットから必要な情報を引き出すのが抜群にうまい。
「もしかして、誘導されてるというより、“11”を介して引き寄せられている……そんな感じかもしれません?」
私はふと思ったことを口にする。
「つまり、誰かの意図ではなく、ルーパー自身が“11”に関係する場所へと自然と向かってしまう。
その結果、同じ空間に居合わせて、条件が揃えば会えると──?」
土岐野の言葉に、私は頷く。
「もしかすると、今まですれ違ってたのに“見えてなかった”だけかもしれないですね」
考え込む佐藤。しかしその表情は、初めて会ったときよりもずっと生気に満ちていた。
「ルーパー同士が接触できる“キーアイテム”の条件、調べなきゃな。今わかってる情報だけじゃ限定的すぎる」
佐藤が独りごとのように呟く。
私は、常世村で出会った外国人のリュックに揺れていたサーフボードのキーホルダーを思い出した。
「佐藤さんと土岐野さんは会社で、そういう“持ち歩けるグッズ”って何か作ってませんか?」
佐藤は苦笑する。
「俺は、廻くんと違ってそんなのは持ってないよ」
「まあ、ニシムクサムライのキーホルダーやTシャツならあるけど、それも俺がデザインしたわけじゃなくて、プロデューサーとして承認しただけだしね」
まずは、ルーパーが関わる“モノの概念”が何なのかを探っていく。
そう決めて、その夜は解散することにした。




