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ペトリコールに融けるふたり  作者: 白い黒猫
宙に向かう道

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24/60

数字に引き寄せられて

 四人で再集合したのは、ファミレスの「サムライ」。

 ニシムクサムライと同じ会社が運営している店舗で、同じシステムをベースにしていた。

 こちらの店舗なら、土岐野(ときの)(めぐる)と直接関係のある社員がいる可能性は低い。

 九時過ぎという中途半端な時間のせいか、店内は空いており、席も自由に選べた。

 私とマイちゃんが並んで座り、向かい側に佐藤(ひろし)と土岐野廻。

 それぞれタブレットをテーブルに置き、話し合っているのだが、干渉することはないのでテーブルの上も混み合っていない。


「しかし、俺が携わったシステムが、そんな時代まで使われてるとはな」


 佐藤が感慨深げに言う。


「テンプラスワンさんのシステムは、うちの基幹部分に組み込まれてますから。そう簡単には変更できませんよ。

 根本的な部分がシンプルだから、カスタマイズもしやすくて、汎用性もあるし」


「システム構造そのものは、シンプルであることが鉄則だよ。特にここみたいに大量のデータを扱うなら尚更。

 メンテナンスも大変になるし、複雑な設計は引き継いだ人間が可哀想になるからね」


「ビジネスに限らず、何事も複雑になっていいことなんてない。

 余計なものが増えて、それに囚われると、目的すら見失いかねない」


 土岐野は、目の前にいる佐藤と直に会えているのが嬉しいのか、少しテンションが高い。


「それにしても、飛行機、建造物、店舗運用システム……そして本。核に関わってるものの幅、広すぎませんか?」


 もうすぐ0時。強制解散まであと2時間ちょっと。無駄話をしている場合ではない。私は話を本題に戻す。

 マイちゃんは隣でスマホを操作しながら、何かを調べている様子だった。


「少なくとも、サムライ系のレストランなら、全国どこでも佐藤さんに会える可能性はありますけど……


 他のルーパーと偶然会えるなんて、もう奇跡のレベルですよね」


 スポット自体は全国にあるけれど、同じ時間に、同じ場所に、偶然居合わせて、しかも気づけなければ意味がない。


「その奇跡、もう一度使っちゃってますしね〜」


 マイちゃんの言葉に、三人が苦笑する。

 確かに佐藤と偶然出会えたことも、奇跡だった。

 命華のときは、彼女の地元だったとはいえ、やっぱりあれも奇跡。

 そして、あの謎の外国人は?

 ふと土岐野と目が合い、私はにこりと笑い返す。

 するとマイちゃんがツンツンと私の膝をつつく。

 彼女のスマホには、2021年に沖縄のニシムクサムライ11号店で起きた事故のニュース。

 被害者はライフォード・ダインというプロサーファー。その顔を見て──声には出さなかったが、私は驚いていた。

 考え込む私に、佐藤が怪訝そうな表情を向ける。


「ところで佐藤さん。どうして、ニシムクサムライ零のあの席に座ってたんですか? 予約? それとも案内されたのがたまたま?」


 私の質問に、佐藤は首を傾げる。


「予約だったよ。あの席、見晴らしもいいし、本当は人気な筈なのに、なぜか空いてたんだよね」


「たしか11番テーブルでしたよね? 案内されるとき、店員さんがそう言っていたのを思い出して」


 私の言葉に、目の前の二人が驚いたように私を見る。

 マイちゃんがナプキンに何かを描き始める。見ると、スタバの見取り図だ。


「命華に遭った席、入り口から右回りに数えて11番目が私たちのテーブルで、左から数えて11番目のテーブルが──あの女の席だ!」


 マイちゃんが声を上げる。

 私も、テーブルにふと目を落とす。そこに刻まれた数字は──やはり「11」。


「そしてこのテーブルも11。偶然にしては、できすぎてますね」


 私は思わずつぶやく。


「……奇跡、だけじゃなく、何かの作為すら感じるな」


 佐藤が顔をしかめる。


「俺が事故に遭ったときに手にしてた端末も、11番だった」


 土岐野が重ねるように言い、場に静かな重みが落ちる。

 だが、私は少しだけ笑って返す。


「でも、これがRPGだったら──優しめの設定が組まれてるってことかも」


「奇跡的な出会いも、少し起こりやすくなる……なら、それはそれでアリですね」


 土岐野も軽く応じた。

 佐藤は、私たちの言葉を受けて、少し黙り込む。


「つまり、俺たちは──無意識に誘導されているということか?」


 私は少し考える。

 だが、2018年のルーパー・日廻永遠は、飛行中の航空機の中にいた。

 その前のルーパーはニューヨーク……。

 積極的にルーパー同士を交流させようとしている意思は、正直感じない。


「どうなんでしょうね。

 もしこの現象を何者かが意図して起こしてるなら……その存在、けっこう雑ですよ。

 巻き込まれる人数も場所もバラバラで、私たちに何をさせたいのかも見えない。

 リアルな脱出ゲームだとしても、ヒントが少なすぎます」


「でも現に、こうして異常な現象が継続している事実はある」


 佐藤は真剣な表情でそう返す。

 その隣で、土岐野が少し嬉しそうに彼を見ていた。

 私は横目で、マイちゃんが常世村の地図をネットで調べているのを確認する。

 本当に彼女は優秀な調査員だ。ネットから必要な情報を引き出すのが抜群にうまい。


「もしかして、誘導されてるというより、“11”を介して引き寄せられている……そんな感じかもしれません?」


 私はふと思ったことを口にする。


「つまり、誰かの意図ではなく、ルーパー自身が“11”に関係する場所へと自然と向かってしまう。

 その結果、同じ空間に居合わせて、条件が揃えば会えると──?」


 土岐野の言葉に、私は頷く。


「もしかすると、今まですれ違ってたのに“見えてなかった”だけかもしれないですね」


 考え込む佐藤。しかしその表情は、初めて会ったときよりもずっと生気に満ちていた。


「ルーパー同士が接触できる“キーアイテム”の条件、調べなきゃな。今わかってる情報だけじゃ限定的すぎる」


 佐藤が独りごとのように呟く。

 私は、常世村で出会った外国人のリュックに揺れていたサーフボードのキーホルダーを思い出した。


「佐藤さんと土岐野さんは会社で、そういう“持ち歩けるグッズ”って何か作ってませんか?」


 佐藤は苦笑する。


「俺は、廻くんと違ってそんなのは持ってないよ」


「まあ、ニシムクサムライのキーホルダーやTシャツならあるけど、それも俺がデザインしたわけじゃなくて、プロデューサーとして承認しただけだしね」


 まずは、ルーパーが関わる“モノの概念”が何なのかを探っていく。

 そう決めて、その夜は解散することにした。

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