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私が殺したのは?

 私が殺したのは出産したばかりの乳児だ。


 父親は誰かわからない。おそらく客の一人だろう。妊娠に気がつくのはかなり遅かった。気がついたときにはもうで堕胎できない時期まで来ていたと思う。どうしたらいいのか誰にも相談出来ずどんどん胎児は成長していった。


 やはり私は「世間知らず」だったのだろう。

 学生が仕送りもなしに都会で生活なんか出来ないのが現実であった。

 父親の病院代も工面しないといけなかった。奨学金を借りてアルバイトを入れても全く足りない。都会は時給が高いと聞いていたがアルバイトと学業との両立はとにかく難しかった。新しく出来た友人たちと遊びに行ったりサークル活動など当たり前の学生ライフもお金がないとできなかった。


 電気が止められた時に風俗で働く事を決めた。短時間で効率よく働くには風俗や援助交際しか道がなかったのだ。ソープやデリもやった。だから生活は大幅に潤った。初めて充実した学生ライフを送ることができた。


 ところが妊娠して一転した。

 妊婦でも一部のマニアには需要があるとは聞いていたが私の場合は妊婦であることは隠していたので出産までは風俗の仕事は全く出来なかった。貯金はほとんどしていなかったのですぐに困窮した。

 最終月経の日にちもわからないので出産予定日の計算すらできなかったのだ。

  

 *


 三日前の明け方にのアパートの狭い浴室で子どもを出産した。

 産声を上げようとした乳児に対して恐ろしい気持ちしかなく気がついたら手で乳児の口を塞いでいた。それだけで死んでしまったのだ。恐ろしくて震えたが、それは自分が犯罪者になってしまった事に対してだった。

 

 大きなターミナル駅のコインロッカーに死体を捨てようと思いついたのは過去にそういう事件をニュースで聞いたことがあったからだ。

 死体遺棄ができると思ったのは私が妊婦であったことを誰にも気づかれなかったからだ。

 もちろん妊婦検診など行っていなかった。

 

 体形もほとんど変わらなかったので大学の友人も私の妊娠に気がついていなかった。もちろん私にはこれまで前科はない。

 だから乳児の遺体をどんなに調べても私に容疑がかかることはないと思った。

 コインロッカーに入れるところを防犯カメラで撮られても変装さえしていれば大丈夫だと思った。

 

 そして今朝、自宅を出た私はまずショッピングセンターでロングヘアのウイッグとサングラスで変装した。着替えはショッピングセンターのコインロッカーに入れて、ボストンバッグだけを持って電車に乗ったのだ。


 ***


 鍵を開けて自宅に入った。空気がこもった室内には死臭が漂っている気がした。カーテンは日中でも閉めたままで窓を開けて空気の入れ替えする気にはなれない。


 ――お金欲しかったな。


 自分の子どもを殺したくせにお金を持ち返る事が出来なかった方が悲しかった。


 ――自分は何のために大学進学したのだろう。大学に入り勉強して給料の高い会社に就職したら幸福になれると思っていた。都会は良いところだと幻想を抱きすぎていたのかもしれない。

 

 また生活のために風俗の仕事をしなければならない。大学の秋学期の学費も納入しないといけない。お父さんの治療費も送金しないといけない。

 


 闇バイトをしているあの少年に対して、一度堕ちたらもう這い上がれないと侮蔑したが、私の方がよっぽど這い上がれない罪人だと思った。




 了  

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