バッグの中には大金が入っていた。
少年と私のバッグが入れ替わっている――そんな確信めいた感覚を抱いたのは、手に持って立ち上がった瞬間だった。
つまり目的地のO**駅で下車しようとした時だ。重さ自体はほとんど変わらないと思う。ただ何というか中身の張り具合が違うのだ。角ばっていて、固いものが入っている感触があった。
駅のホームにあるベンチの上にボストンバッグを置いて、少し考えた。
――もし自分のバッグならばここで開封したら大変な事になる。
どちらのボストンバッグか確認するために私は駅のトイレに行く事にした。
*
トイレに入った私は洋式便座のふたを閉めてボストンバッグを置いた。ジッパーを引き、中身を確認すると――。
札束が無造作に突っ込まれていた。バッグの容量からしたらもう少し入りそうだが、三分の二くらいはぎっしりと入っていた。
一束取り出すと一万円の束だった。ペラペラとめくっていたが全部一万円札だった。一番上だけが本物の紙幣で下は新聞紙とかいうものではない。
これは私のバッグではない。少年が持っていたものだ。
驚愕と困惑。
お金に困っていた私は、しばらくバッグの中の札束を眺め続けた。
束は10以上あり全部で1千万以上はあると思う。とにかくこんなにたくさんの一万円札を私は見たことがなかった。
どうしたらいいのだろうか。
ただ、これだけあれば――生活は助かる。大学の秋学期の学費の納入日も一か月以内にある。実家の父親の入院費もまかなえる。
しばらくの間、札束を眺めていたが、だんだんと現実に引き戻されて冷静に考えられるようになってきた。
――なぜ、こんな大金があるのか、だ。
最初に思いついたのは「闇バイト」の存在だ。
電車で乗り合わせたあの少年は「闇バイト」の一員で「運び屋」という仕事を請け負っていたのではないだろうか。そう考えればしっくりくる。
落ち着きがなく、やたらと周りを気にしていた態度。スマホで指示を受け取っていたのかもしれない。
そもそもこのボストンバッグは本来女性用だ。耐久性に優れたブランドなので男性でも持つ人はいるが少数だ。あんな幼い少年の持ち物とは到底思えない。
このお金はお年寄りから奪われた可能性がある。騙された被害者が大勢いるかもしれない。そして暴力団の資金源になるのだろう。
だが私は喉から手が出るほどお金がほしい。
そしてこれは警察に被害届が出るような類のお金ではない。
これは僥倖なのか。思案した。そして結論はでた。
私はこのボストンバッグの中身を頂くことにしたのだ。
そして少年に持ち去られた私のボストンバッグは――もう不要だ。
――なぜなら私がこのO**駅に来た目的は自分のボストンバッグを捨てるためだった。




