【第5章】ミッションクリア!ありがとう!リセッターズ!
「かんぱーい!」
赤提灯が揺れる、駅前の居酒屋。焼き鳥の煙と少し懐かしい昭和ポップスの中、6つのグラスが軽快な音を立てた。
「いや〜、肩の荷が下りたってもんだ! 本当に、ありがとうリセッターズ!」
マサノリ(56)が大ジョッキを片手に満面の笑みを浮かべた。
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「責任から、やっと自由になれた気がするんだよ。朝起きて、あの忌々しいネクタイを締めなくていいってだけで、天国だ」
と、マサノリはどこか誇らしげに語った。
「次のお仕事の方は……?」
「ん〜……まぁ、正直、なかなか見つからないんだよね。退職までに何とか見つけておきたかったんだけど。年齢がね、やっぱり重いらしくて」
苦笑いを浮かべながらも、ジョッキをあおる。
「でもさ、それでも“自由”って、やっぱりいいよ。少なくとも今は、誰にも叱られずに生きてるわけだし」
少し間を置き、視線をテーブルの炭火に落とす。
「……だけど、たまに思うんだよ。“自由”って、結局なんなんだろうな、って。楽にはなった。でも、生きがいって……何だったんだろうなって……考えちゃう」
タツオが何か言いかけて、やめた。
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「でもさ〜、やっぱ人生、もっと輝けなきゃダメだよね!」
とユキナ(35)が割り込んだ。ハイボールを片手に、テンション高めに笑う。
「仕事辞めてさ、肩の荷は降りたけど……なんかキラキラしてる感じが足りないの。お金がないと、人生って輝けないじゃん? 美容も、旅行も、全部お金じゃん?」
「それはそうですね……」
「だけど、“キャリア=稼ぎ”って風潮? あれってどうなの。キャリア積めば金になるって言われても、そんなのあたしに向いてないよ。楽しく働きたいだけなのに」
そして、ふっと表情が曇る。
「……でも最近ちょっと思うの。今のあたしって、ただ旦那に頼ってるだけで、果たして“輝いてる”って言えるのかなって」
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「輝き……俺にも欲しいな」
とレン(22)がぽつりと呟く。
「第二新卒って、もっと売り手市場って聞いてたんすよ。けど、応募しても全然通らなくて。自信、なくなってきてて……」
ハイボールを見つめながら言葉を続ける。
「正直、もうちょっと“思いやり”ってやつが欲しかったなって。あの会社にも、上司にも……そしたら辞めずに済んだかもって」
「レンくんは思いやりがあるから、きっと伝わるとこに出会えるよ」
とユキナが優しく言った。
「……そう、だといいっすけど……なんか、俺、会社に必要とされてなかったんじゃないかって思うことあるんすよ」
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居酒屋の喧騒の中、テーブルの向こうで静かに聞いていたリセッターズの3人。
「……これでよかったのかな」
カイトがぽつりと呟く。
「私たちは彼らの背中を押しただけよ。リセットするチャンスを、与えた」
リミコが優しく続けた。
「うん、結果はどうあれ、前に進もうとしてる。それだけで、価値がある」
タツオの声に、3人はグラスを掲げた。
「彼らに、未来がありますように」
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店を出ると、空はオレンジ色に染まっていた。夕陽が街を照らし、影が長く伸びる。
「にしても、居酒屋って案外ドラマあるよね」
「人間くさくて、嫌いじゃない」
「……次の“リセット希望者”も、きっとどこかにいるよ」
茜色の夕暮れの中、リセッターズの3人は微笑み、街の雑踏へと歩き出した。