【第1章】労働者のヒーロー ータツオ(61)・カイト(40)・リミコ(27)ー
「……で、エレベーター使えないの?」
「非常階段しかないんだってよ。セキュリティ厳重らしいぜ、デスワーク社」
「はぁ!?14階まで階段!?!」
3人のヒーロー、リセッターズは今、デスワーク社の非常階段を上っていた。
重たいアタッシュケースを抱えたカイトが、汗をぬぐいながら怒鳴る。
「カイト、君はまだ若い。俺なんてな……血圧の薬が切れてるんだぞ……」
タツオ(61)が手すりに手をつき、ゼェゼェと息を整える。
「ヒーローがそんなことでどうする!」
カイト(40)は肩で息をしながらも、虚勢を張る。
「自分が一番息切れしてんじゃん!」
「俺は階段じゃなく、社会に怒ってるんだ!!」
「黙って登れ」とリミコが一喝。
「はーい」
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ようやく14階にたどり着くと、そこには重厚な扉と、社名が書かれた金属プレートがあった。
【株式会社デスワーク】
「まさか本当にこんな名前で登録されてるとはな……」
カイトが目を細めてつぶやく。
「さて、まずはターゲットA、マサノリ。課長、56歳。サービス残業歴12年。土日出勤率90%。部長に逆らえず、退職希望が通らない状況」
リミコがタブレットを見ながら読み上げる。
「典型的だな」
タツオがうなずく。
「じゃあ、分かれて動こう。俺はマサノリのとこ行く」
タツオが手を挙げた。
「OK。私はレンって新人のほう。カイトは事務のユキナをお願い」
「了解!お局は任せろ!」
「じゃ、救出は今日!各自、連絡はアプリで」
3人は頷き合い、社内へと散っていった。
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《作戦チャットログ:リセッターズ内専用》
カイト:お局たちの雑談って愚痴ばかりで非生産的〜。声もうるさいし、もしかして嫌がらせか?
リミコ:新人の部署の雰囲気ピリピリしてる。緊張感やば。
タツオ:部長、強敵。老害力MAX。
カイト:頑張ってタツオさん。心は共にあります!
リミコ:うまくいったら焼き鳥おごってください!
タツオ:よし、やる気出た。お前らが頼りだ!
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“労働者に自由を”
“働く場所は選べる社会にすべきだ”
“辞めたいと言える勇気に、正義を!”
退職は敗北じゃない。
生き方の再設計だ。
リセッターズの3人は、それぞれのターゲットの元へ向かい、静かに扉を開けた——