18話 帰り道
「終わりよければすべて良しだったね」
僕はレストランの帰り道そうつぶやくと莉緒が僕の頭を思いっきり殴った。
「何がすべて良しよ!あの人たちお兄ちゃんが満足いくまでハンバーグとワニ肉を食べて、デザートまで注文した後にお店を出たのにまだ、グラタンと格闘してたじゃない!食べれないものを注文して……」
そんなことを言う莉緒は少し嬉しそうだった。
ワニ肉には少し不満がありそうだったゆいぴょんもデザートには大満足だったようだ。
確かにデザートは大衆受けする食材ですごくおいしかったからもっと普通のメニューも増やせばいいのに。
「デザートは……まぁ、確かにおいしかったし、あのタランチュラのハンバーグがあそこまでおいしかったとは……複雑」
追加で注文したハンバーグを近くでヒィヒィ言いながらグラタンを食べてる声をBGMに食べるのは本当に気分がよかった。
ゆいぴょんとデザートの交換をしたりして結構仲が深まったのは実感できたような気がする。
「ゆいさんは普段からあんな感じでナンパされたりするの?」
「……うーん。私って実はあんまりナンパされたことないんだ。私ってあんまり人当たりがよさそうに見えないらしくて、それに誘われても断ったら大抵の人はすぐに引いてくれるからああいうのはめったにないんだよ」
ふーん。
だったら、ゆいぴょんって結構強めに誘ったら了解してくれるのかなぁ?
「それより莉緒はいいのか?さっきの子にクラスメートとかいたんじゃないのか?」
ナンパされてた時に誰よりも気まずそうだった莉緒に聞いてみる。
「ああ、早川君と大越君ね。別にクラスメートとかじゃないんだけどね。この前告白されたからちょっと覚えててね」
莉緒も人から告白されるような年齢になったのか。
……普段とは違う一面を見たような気持ちになる。
「付き合ったりしたのか?」
「いや、今のところあんまり男の子に興味がないから……いざとなったらお兄ちゃんに養ってもらえばいいしね。いいでしょ?」
「いや、まぁ、それでお前が幸せならそれでいいけど……」
当たり前のことであるかのように効いてくる莉緒に少し将来のことが不安になるが、もしも僕が結婚して莉緒を追い出そうとしたらどうするつもりなのだろうか?
「いいんだ」
「優衣さんも一緒にどうかな?優衣さんなら私も大歓迎だよ」
まぁ、ゆいぴょんと三人で暮らすことができるとしたら……ありだな。
僕が性欲を抑えきることができるかどうかが問題だけど。
「私は……でも、私も亜樹とチームメイトとして、いつ強力なスターダストが来ても対応できるようにできるだけ一緒に過ごす予定だったからある意味都合がいいのかな?」
「あれ?有りなの?僕としてはうれしいけど、僕のこと信用しすぎじゃない?」
「まぁね、亜樹は亜樹自身が暴力を振るわれても怒らなかったのに、莉緒ちゃんに、家族に手を出されそうになったら怒ったんだもん。私の中で亜樹の信頼度はいつくか上がったよ」
「なんか、気恥ずかしいや」
「それに勉強もしっかり頑張ってる努力家な一面もあるしね」
今度こそ僕は気恥ずかしさに顔を赤らめてしまう。
僕の人生で、ここまで面と向かって褒められたことなんてなかった。
「亜樹、晩御飯は普通のチェーン店で済ませよう。ご飯は早く済ませて勉強をもっと一緒に頑張ろう」
「いや、ゆいぴょん、今日の晩御飯はよかったら家で食べて行ってよ。なんだか家で一緒に食べたい気分になっちゃったかもしれない」
「いいの?何となく亜樹は嫌なのかと思ってたけど……ならお言葉に甘えて」
この日、優衣ぴょんが僕の家から帰っていったのは二十三時を超えたあたりの時間帯だった。
同じ机で同じ分野の勉強をして、同じ食卓で同じご飯を食べる。
夜は遅かったのである程度送っていった。
ただ、それだけだったはずなのにとても仲が深まったような気がした。
スターダストには様々な種類がある。
ここ最近僕たちが戦うことが多かった。十二星座をモチーフにしたようなものに加え、星座をモチーフにしたもの、ソロモン王の七十二柱の悪魔をモチーフにしたもの、ドラゴンのようなファンタジーに出てくるような魔物をモチーフにしたものなど様々ある。
この中だと、めったに出てくることはないが、夏と冬の大三角形がモデルになったものとソロモン王の十二柱の悪魔の中でも地獄の公爵以上の悪魔、ドラゴンがかなり強力なスターダストとなってきて、これまでもたくさんの被害をもたらしている。
それに加えてカルナクスの螺旋のような超強力な個体があり、僕たちはここ最近何体ものスターダストを倒してきて気づいたことがある。
「僕たちってもしかしてめちゃくちゃ連携が下手?」
とある戦いの後に僕が不意に発した一言、ゆいぴょんも何となく気になってたらしい。
戦闘後の反省会という名目の僕のエネルギー補給のために近くの喫茶店にやってきた僕たちは今日の反省点を出し合っていた。
「なんていうか……これを言ったら責任転換になってしまうかもしれないけど、私たちの連携は確かに下手糞だけど、その根底にあるのは亜樹の戦い方が下手すぎることだと思う」
僕たちが出会って一か月ほど、絶賛夏休み中。
僕たちは勉強の合間の休憩のような感覚でスターダストを倒し続けていた。
市役所で手続きをしてた時、職員の人が言っていたが僕たちほど精力的に活動しいている人なんてほとんどいないらしい。
いや、むしろ、活動できないらしい。ネックになるのが一時間という制限時間でそれほど早く移動できる手段を普通の人は持ってないらしい。
一見順調そうに見える僕たちの活動だがどこか暗雲が立ち込めているようだ。
「私の目的というか、私たちの目的ってカルナクスの螺旋のような超強力なスターダストが現れた時に被害なく討伐することができることじゃない」
「そうだね。僕もそのためにしっかり頑張ってるつもりだけど……」
「亜樹の問題点と利点って表裏一体なのよね。亜樹の利点はその圧倒的すぎるパワーでしょ?それで不利な点はエネルギー切れを起こしやすい」
今日の戦闘でもガリガリに近い状態まで痩せこけてしまった僕はゆいぴょんの話をBGMにしてご飯をかきこんでいた。
「それにもう一個あるでしょ?」
ゆいぴょんは顔を僕のほうにグッと真剣な表情で近づける。
それに関しては僕も理解はしている。
「亜樹は、本当に私と出会うまで極力力を使わないようにしてたんじゃない?だから亜樹は力の扱い方に慣れてない。これまで問題なくスターダストを討伐できて来てたのはその強すぎて制御することができてないパワーのおかげ、でもそのパワーに振り回されて今日もこうやってたくさんご飯を食べないといけない状況なわけでしょ?」
ゆいぴょんは席を立ち、僕の隣に座ると僕の戻ってきている腹の肉をつまみだす。
「とにかく強い力になれること、正しい形で攻防を繰り広げる技術を身に着けること、そしてさらに強い力を身に着けることこれが今の亜樹に求められてることなの。わかる」
「ぐ、はい。わかります」
優衣ぴょんの腹をつまむ握力が強くて辛い……
「受験勉強に関しては確かに重要だけど、それに関しては私がつきっきりで面倒を見てあげてるんだから次のスターダストが現れた時からは四十五分間、みっちりと力をコントロールするための修行にあてるわよ」
「わかりました」
「次、空手教室か、ボクシングジムに通いなさい。亜樹がこれからどんな武器を使うか知らないから何とも言えないけど、技術を身に着けることは力の制御にも大きく関係するわ」
「……かしこまりました」
「最後に、ジムに通いなさい。見てみなさいよあなたのこの体。情けなくないの?筋肉なんて全然ないじゃない。前にレストランで簡単に投げられてたじゃない?いくら能力で力をあげられるからといっても、元の筋肉量が上がれば上がるほどその効率もよくなるはずよ。力の制御ができなくて人を傷つけることが怖いならなおのこと力を押さえつけるだけじゃなくて力を完璧にコントロールすることができるように努力なさい」
「……う、はい」
さようなら僕の第一志望。
というわけで修行パート。