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16話 食事会

「あっ!あの店だよ」


莉緒が指をさした先には、モデルハウスのようなおしゃれできれいな建物があった。


「え、結構いい感じのお店じゃん。結構高そうだけど、大丈夫だったのか?」


これならゆいぴょんもきっと満足してくれるだろう。

事前情報でおいしいと聞いていても育ちのよさそうなゆいぴょんに満足させることができるかどうか不安だったので、結構安心した。


「大丈夫だよ。ここは一応料理屋さんだけど、デザートを単品で頼んでただけだから」


 その時の味を思い出したのか、おいしかった~とつぶやく。

 とりあえず店に入ってみるとお昼時ということもあり、席は満席に近かった。

 行列になってないだけありがたい。


「いらっしゃいませ!三名様でよろしいでしょうか?」


 店に入ると各々のグループである程度騒がしかった店内が突然静まり返った。

 店に入ったことで少し注目された僕たちを目にした客たちの動きが突然止まったのだ。

 普段から人に注目されることに慣れてなくて、人前に出ることが苦手な僕と莉緒は突然集めた視線に気後れして足が止まってしまった。

 店のBGMとして流されていたクラシックミュージックが気まずい思いを増長させる。


僕たちの隣を歩いていたゆいぴょんが僕たちよりも三歩ほど前に出た時、店の中の喧騒は元より内緒話をするような声で戻った。

これがゆいぴょんの見る世界かぁ。

僕のものとは大違いだ。


「亜樹、莉緒、置いていくよ」


 ゆいぴょんに呼びかけられたことで一歩を踏み出す勇気ができた僕は僕と同じように小心者の莉緒の背中に手を回して歩く。

 ゆいぴょんと一緒にいることで僕を見定めるような視線にさらされた僕はそれだけで肩に力が入ってしまう。


「じゃあ、亜樹と莉緒はそっちの席に座ってよ……メニュー何にしようかな――んん?」


 メニュー表を見た優衣ぴょんが怪訝な声を出す。


 その声につられてさらに視線を集めてしまったが、僕もそろそろこの視線を気にしても意味がないことを悟ってしまった。


 せいぜい動画配信者にでもなったような気持ちで変な言動をしないように気を付ければいいや。


「優衣ぴょんどうしたの?」


「いや、メニュー……これ見てよ」


「どれどれ?……子羊の腸とコンソメジュレ ~アワビとともに~、バロット、鴨血……おい、莉緒!ゲテモノ料理ばかりじゃないか!」


 バロットというのは孵化する直前のアヒルの卵でどこかの国の伝統料理だったはずである。

 鴨血も結構高級料理として扱われるれっきとした食材だ。

 子羊の腸については何を考えて料理をしているのかわからないけど、これを頼むやつはいないだろう。


「――ゲテモノ⁉なんてこと言うのお兄ちゃん!ここはいろんな国の料理を楽しめるレストランだよ。失礼なこと言わないで!」


 わ、忘れてた!

 僕は小さいころから暴飲暴食を繰り返してきて、莉緒が小さいころとかは莉緒の皿からたまに料理をとったりしてた。


 そのせいで、莉緒は小さいころから大衆受けするような料理よりもあまり日の目を浴びないような料理を食べる機会が多くて、いつしかゲテモノ料理を好むようになったんだった。

 そのような経緯があるせいで、僕は莉緒のゲテモノ好きに関して強く言うことができないが、最近はそのようなこともなく、大衆受けするような食事ばかりとってたはずなのに……


 それも、こんな時に発揮しなくても……


「優衣さんもきっと気に入るよ。ここは普段扱わないような食事を引退した高級ホテルの料理長が趣味で開いたお店だからね」


 自信満々に言う莉緒に言い返すことができなかったのか、ゆいぴょんは気圧されたかのように一番被害の少なそうなワニ肉を注文する。

 莉緒はどうやって、そんなすごい人が経営するこんなゲテモノやを見つけたのだろうか?

 ゲテモノを扱ってるのにこの数の客がいるということはそれだけおいしいということなのだろう。

 最初ははずれを引かされた気持ちになったけど、優衣ぴょんがこれまで食べたことがないようなものを食べさせてあげたいとは思ってたし、これでよかった気がする。


「じゃあ、僕は何にしようかな……」


 メニュー表をしばらくめくっていくとハンバーグにピザ、シチューにグラタン。

 僕が日常的に見るようなレシピがしっかりと載っていた。

 なんだ、普通の料理もあるじゃん……


「じゃあ、ハンバーグとグラタンとシチューでもとりあえず頼んでみようかな」


 そういいながらタッチパネルを操作して注文を完了させる。

 優衣ぴょんがメニュー表の二ページ目以降に目を通して落ち込んでいるがそんなことは気にならない。


「……お、お兄ちゃん、勇気あるね。私でも、そこら辺を頼むのには躊躇したのに……食べることに関してはお兄ちゃんにはかなわないや」


 ン?


 変なことを言う莉緒だなぁ?


 僕が普通の料理を頼んだことを怒ってるのか?


「あ、亜樹……ちょっと引くわ」


 え?なんで?

 



 料理が来るまでの間、周りから視線を感じるので、個人的な内容には深く触れることがなくなったが、それでも最近の流行について楽しく語り合えたと思う。

 最近の流行なら僕も莉緒と一緒に過ごす中で学ぶことができているから話題に入っていくことができたしね!


「お待たせいたしました」


 お?


 料理が来たのかな?


「こちら、ワニ肉のソテーとバロットと鴨血、あとタランチュラのハンバーグ、サソリのピザ、幼虫のグラタンでございます。……それでは失礼します」


 店員さんが愛想よく料理を提供してくれるが、料理を見る視線には怯えが含まれていた。

 きっとこの人はただバイトとしてここにいるだけで、ゲテモノ料理とか好きじゃないんだろうなぁ。

 賄いはどうしてるんだろ?

それはそうとして、今、なんていった?

タランチュラ?サソリ?幼虫?

食い物じゃないでしょそんなの!

丁寧なことに料理の横には調理する前だったタランチュラたちの写真が飾られてある。

趣味が悪すぎるだろ!

何だろう?

優衣ぴょんのワニ肉がとんでもないごちそうに見えてくる。

莉緒、あいつはだめだ。

あいつのバロットの孵化する寸前の生々しい肉体がそのまんまだ。


とても食えたもんじゃない。


僕と莉緒の料理に視線をやった後に自分の料理を見たゆいぴょんはとても満足気だ。


「わー!おいしそうだね。私、バロットを初めて知った時からずっと食べてみたかったんだ!」


 そういいながら莉緒が、アヒルの有精卵のゆで卵の殻を剝きながら話す。

 うーわ、生まれる前の足までどこにあるかしっかり見れるじゃん。


 こんなの見てよく笑顔でいられるな。


「早くお兄ちゃんもタランチュラ食べて感想教えてよ。一応はハンバーグとして出してるけど、タランチュラを焼いて味付けしただけの奴もあるから、頼んどこうか?」


「すまん莉緒、タランチュラとか僕の前で二度といわないでくれ」


「亜樹、早くそのタランチュラと幼虫とサソリを食べて次の料理でも頼みなさい。どうせお腹いっぱいにならないでしょ」


 テーブルマナーまでしっかりしているゆいぴょんが一口サイズにワニ肉を切り取りながら僕に語りかける。

 命の恩人で感謝し続けないといけない立場であることは自覚しているけど、ぶちのめしてやろうかと思った。

 莉緒は莉緒で、笑顔のままアヒルの有精卵を頬張ってるし、僕の味方はいないのか?


「あ、これ普通のゆで卵みたい」


 莉緒が鴨血にスプーンを伸ばしてるのを見ながら僕も覚悟を決めた。


「……クソ、食うしかないか――ウマ!」


 ゆいぴょんに倣って僕も一口サイズに切り分けたハンバーグを口に放り込むと想像して他のよりもずっとおいしい口当たりに思わず声が出る。


 鶏肉に近いのかな?

 正直ハンバーグとは合わないような気がするけど、これは見た目のインパクトを軽減するものだと思えばそれも納得できる。


「え?それおいしいの?」


 ワニ肉のソテーを頬張りながら驚いた表情でゆいぴょんが尋ねる。


「すごいよ!もしかしてここの料理人って天才なの?」


「えーいいな。私のワニ肉はソースはおいしいけど、肉の臭みっていうのかな?それがきつくてちょっと苦手かな」


 勝ち誇ったような表情をしてたゆいぴょんの料理がそこまで辺りではなく、僕の奴があたりだったことで、感じてた敗北感が一転して優越感へと変わる。

 こうなると見た目のインパクトに引きずられて手をつける気になれなかったほかの料理にも手を出す決心がつく。


「うーん、これも……甲殻類を食べてるなって感じはするけど、ピザ自体の味がおいしいから全然気にならないや」


 ハンバーグ、ピザと僕の想像してたものよりずっとおいしかったという裏切りがいつもより僕の咀嚼を早める。


「……じゃあ、最後はグラタンを――おぅえ⁉まっず!」


「――おお、三個目で落ちを作ったかぁ。さすがお兄ちゃん」


 莉緒が鴨血を頬張りながら感心したように言う。


ここら辺の話はかなり苦労しながら書きました。


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