13話 些細な会話
「よし!ようやく書き終わった!」
「じゃあ、これを出してバッチを受け取ったら晴れてコスモスの仲間入りだね。パーティー申請は私のほうでしておくね」
実技とかそういったものは一切なかった。
ちょっと思ってたよりも登録に時間がかかってしまってすでに午後十時を過ぎてしまっている。
この時間帯にいくら強くても美女一人で歩いて帰すわけにもいかないか。
「そろそろ帰りますか?」
「まぁ、そんなとこでしょうね。亜樹も私も受験生ですしね」
優衣さんに出会ってから僕の一日の勉強時間は格段に減ってしまったけど大丈夫かな?
僕って地頭がいいわけでもないし、一応地元の国公立大学を目指しているわけだけど……
もともと放課後に友達と一切遊ぶことなく勉強してようやく受かるか受からないかのレベルだったのに……
優衣さんの受ける大学がどこかはわからないけど……大丈夫なのかなぁ?
「亜樹って理系ってことだから国公立大学を受ける感じ?」
僕が受験生というワードに敏感に反応していたことから何かを感じ取ったのだろうか?
「まぁ、そうですね。一応僕って進学校ですからそこに入れてくれた両親的にそこがボーダーラインかなって思ってます」
一応地元の国公立大学を第一志望にしている。
「反応を見る限り、そのボーダーラインも怪しいってことかな?」
優衣さんは片眼をつむりながら当てちゃったかな?って表情をする。
あれ?僕、煽られてる?
「それは受験生には禁句でしょ」
てか、僕、優衣さんの口車に乗って一週間学校を休んでスターダストが来るのを待ってたけど、僕の学校、明後日からテストじゃん!
定期テスト、それは受験生にとっては模擬試験には劣るものの、試験本番の練習にもなる貴重なイベントであり、自分の理解ができてない内容や苦手分野を明らかにしてくれる大切なイベントだ。
年に三回から四回しかないテストに本気を出せない奴の受験がうまくいくはずないとクラスで最も成績の悪い竹中君が言ってた。
竹中君が言うんだから間違いないはずだ。
「……僕、明後日からテストだけど、優衣さんはこんな時期に一週間一緒にいたけど大丈夫なんです?」
まぁ、優衣さんから誘ってきたことなんだし、優衣さんは勉強ができる人なのだろう。
テスト勉強をしなくてもいいくらい。
羨ましい限りだ。
「テスト勉強か……私は大丈夫だけど、亜樹ってずっと私と一緒にいたけど、テスト勉強大丈夫なの?」
逆に聞かれた。
「僕の今の表情を見て大丈夫だと思います?」
できるだけ絶望に満ちた表情を作ってみる。
「亜樹っていつもそんな表情じゃない?」
あれ?
僕っていつもそんなに精気のない表情をしてた?
「いや、僕は普段はいつも笑顔ですよ!」
「――えっ……あっ、ごめん」
謝るな!
まぁ、テスト勉強をしなきゃいけないって言っても僕の高校は進学校で、もう受験までに進めなきゃいけない内容は一周終わってるし、何とかなるかな?
「……そういえば、私がスターダスト毎日倒そうって誘ったんだっけ?あっ、なんだか悪い気がしてきた……勉強今からでも見てあげようか?私の教え方はスパルタだけど」
「えっ!いいの!」
スパルタだなんて本当に?
すごくうれしい!」
「まぁ、私たち、もうチームだし、これくらいの交流くらいあってもいいんじゃない?ついでにもうチーム組んだんだから敬語じゃなくていいよ。命を助けたことなら、亜樹だって人の命を助けることができる立派な人なんだから」
「そっか、じゃあ、さんをつけないほうがいい?」
「まぁね。社会人のチームならチームメイトでもさんとかつけるのかもしれないけど、私としては仕事仲間じゃなくて一緒に戦う仲間が欲しいからね」
「じゃあ、ゆいぴょん……明日いつから勉強始めようか?」
「ゆ、ゆい……ぴょん……」
なんだかゆいぴょんの表情が険しくなったが、きっと僕のせいではないだろう。
「なんだかんだ今日は疲れたでしょう?集中のできてない状況での勉強の効率は悪いから明日八時に集合しようか。定期テストでしょ?科目も多いだろうし私が亜樹の家に行ってもいい?」
ぼ、僕の家にゆいぴょんが?
確か明日は両親も妹もいたはずだ。
大丈夫かなぁ?
「もちろん。ってか、僕のために朝からすごくありがたい」
「まぁ、もしもいつかカルナクスの螺旋みたいな強敵が現れたとしたら前線で体を張ることになるのは亜樹なわけだし、今くらいは前払い分だと思って私の厚意を受け取ってよ」
「まぁ、僕の命救うっていう対価ってものをその時はゆいぴょんに教えてあげるよ」
「それはどうも」
僕は家に帰った後コスモスに正式に入ったことを伝えた。
コスモスという組織の存在については事前に伝えていた。
普通に考えたら僕たちの普段の生活に地球外生命体が存在してそれを退治している人たちがいることを聞くと驚くか信じずに頭がおかしくなったなどという反応をすると思っていたのだが、僕という超能力者が普段身の回りにいるせいで感覚が麻痺しているのかあまり驚いてくれなかった。
まぁ、実感がわいてないだけで、実際に戦ってるところとかを見たら驚くのだろう。
「亜樹、俺はお前がやりたいと思ったことを止めるつもりはないし、お前がやりたいことに対するサポートはいくらでもやっていきたいと思っている。お前の両親にお前を託された身として亜樹、お前は絶対に死んだらダメだぞ」
「……父さん」
まるでコスモスとして戦うことがどのようなことか言っているような話し方だった。
僕の実の父と今の父さんは親友だったらしい。
実の父が亡くなった際、親戚に預けられる手前で父さんの遺書により今の父さんのところに転がり込むこととなり、とてもよくしてもらっている。
その次に母さん、妹の莉緒とも話した。
受験や身の安全などの話などをしたうえで納得してくれたと思う。
僕はこれまで自分を犠牲にしてでも人を助けて行かないといけないと思ってたけど、やっぱり家族と一緒にいるとそんな覚悟が鈍ってしまう。
いい話なんだけど、覚悟が鈍ってしまうのはやっぱりよくない気がしてならない。
「そういえば、それで僕をコスモスに誘ってくれた優衣さんが家に来て一緒に勉強することになったよ。朝に来客が来たらたぶんそうだから僕が出るね」
僕はそう言い残して夜食の準備を始めた。
「――ふぁぁぁああ!」
クジラの遠吠えのような欠伸とともに僕は目を覚ます。
今日はゆいぴょんが僕の部屋で勉強を教えてくれるらしい。
活発というわけではないし、根暗である僕にもある程度友達はいるし、クラスメイトとの大体とは良好な関係を築いている僕ではあるが、どういうわけか全く放課後一緒に遊んだりしたことがない。
高校生の放課後といえば友達と一緒にカラオケに行ったり、おしゃれなカフェに行ったりするものだと思っていたけど、そのようなことをするには事前に約束をする必要がある。
根暗な僕には楽しく会話をすることがあってもそこまで会話が発展することはなかった。
まぁ、友達にわからない問題を質問することならこれまでにもたくさんあったけど、人を僕の部屋に上がらせるのは初めてなんだ。
舞い上がってもいいだろう。
「あ、もう七時半だ!」
八時にゆいぴょんが来るらしいので残り三十分しかない。
慌てて部屋から飛び出して顔を洗って、歯を磨いて髪をセットする。
普段の生活では全くセットなんかしない僕の髪ではあるが、こんなこともあろうかと調べて練習だけはしていた。
やはりもしもの時のことを考えて準備をしておくことは大切だなぁ。
僕位適当な人間だとここまでの準備に十分かからない。
「おはよう!」
ドアを開けてリビングに入ると僕よりも早く起きていたらしい家族全員が心ここにあらずといった様子でこれから外出するのかというくらいにはびしっと決めた格好をしていた。
今日は日曜日だし、どこかに遊びにでも行くのか?
まぁ、僕は受験生だし誘われてなくても傷ついたりはしないけど……
「おはよう、亜樹」
莉緒が挨拶を返してくれる。
すごいな。
莉緒は数年分のお年玉をはたいて買ったといっていたブランド物の服を着て、母さんから借りでもしたのか、センスの悪くないネックレスをつけている。
かわいいやつだ。
必死に背伸びしている子供ほどかわいらしく見えてしまうものはない。
「莉緒、どうしたの?今日、完璧な恰好じゃん。キマッてるよ」
「そりゃ、どうも……まぁ、今日はゆいぴょんって人が来るらしいじゃん。見定めないと……」
なにやら燃えている様子。
「え?ゆいぴょんと話すつもり……?」
「いや、話させないつもり?」
確かに僕と一緒に僕と一緒に命を懸けて戦う関係なんだ。
気になっても仕方がないか。
適当に食事を済ませているが、内心心臓バクバクだ。
ゆいぴょんとは勉強するとしか言ってなかったし、急に家族と話さくちゃいけない状況なんて迷惑だろ。
ここはみんなにあきらめてもらいたいところであるが、この気合の入れ方といい、難しそうだなぁ。
「いや、でも今日は一緒に勉強するだけのつもりで急に友達の家族と会話なんて重くない?」
「大丈夫よ。私たちだって気合こそ入ってるように見えるかもしれないけど、そんなに長く会話するつもりはないから」
安心できねぇな。
「ホントォ?一応命の恩人でもあるんだから困るようなことは言わないでね」
みんな思い思いの様子で優衣ぴょんが来るまでの時間を潰している。
莉緒とかはさっきからつめの手入れにすごく集中している。
ピンポォ~ン!
家の緩い感じのチャイムが響いてきた。
思わず体がビクッ!と震えるが、それはみんな同じだった。
僕が対応するからと昨日言いはしたがこの様子だとどれだけ気持ちを制止してくれたものか分かったものじゃない。
僕は走って玄関へと向かう。
「――ようこそ。僕の家まで迷いませんでした?」
ドアを開けると少しかしこまった様子のゆいぴょんが立っていた。
普段は戦いをする可能性を考慮しているので動きやすい服装しか見たことがなかったが、今日は花柄のワンピース姿だ。
一応、僕としては家から出ずに感ず目で勉強するつもりだったけど、もしかしたら、一区切りついたら遊ぶつもりなのかな?
それともただ僕だけのためのおしゃれ?
「うん、前もって人工衛星で撮られた家の画像とかいろいろもらってたしね。迷わなかったよ」
「よかった。さぁ、上がって。何もない部屋で悪いけど、今日は頑張ろうね!」