12話 コスモスという組織
「そろそろですかね?一週間スターダストたちを倒してきて、コスモスに入るかどうか決まりましたか?」
「ぼ、僕が……」
一週間も二人で一緒にスターダストを倒してきて、今更僕にこの誘いを断ることができると思ってるのだろうか?
命の恩人でとんでもない美少女だぞ!
それにこれまでの食事代を結構負担してくれているし……
これで断れる奴がいたら僕は尊敬するぞ。
「……僕がコスモスに入った場合って優衣さんと一緒に戦うということになるんですよね?」
ここで即答するというのも自分のこれからについてあまり考えてないちょろいやって思われてしまいそうでやだなぁ。
という考えのもと適当に返事を伸ばしてみる。
「ええ、もちろんそのつもりです。亜樹の単体の最大攻撃力は私のものをはるかに上回りますし、私が亜樹に重力をかけるとさらに重いパンチができるようになる。その破壊力が私の欲しいものでしたから」
「僕たちって相性いいですね」ということ言葉がのどから出かかったが、何となくだが、これを言ってしまうとキモがられてしまうと感じた僕は必死に言葉を飲み込む。
「――なりましょう!これからも一緒に平和を維持していきましょう!」
これなら僕も軽い男だと思われないだろう。
何となく満足する。
僕もこれからずっと優衣さんという誰もがうらやむような美人さんと一緒に過ごすことができるようになるんだ。
大満足!
「よかった~!ここまで強く身体能力を強化できる人って全然見つからないから断られてしまったらどうしようって思ったよ!」
優衣さんも満足してくれたようだ。
「そういえば最近自然災害の話題が毎年のようにありますけど、あれってどれくらいがスターダストによるものなんですか?」
スターダストが一体だけならまだしも、たくさんのスターダストが現れてしまったらさすがの僕でも厳しくなってくる。
僕ですら厳しいんだ。
ほかの人ならさらに厳しいものになるだろう。
僕たちは県をまたいでいたとはいえ、この一週間毎日スターダストと戦ってきた。
それでも僕たちがほかの能力者に遭遇したのは二、三回ぐらいしかなかった。
こんなにたるんだ組織なのにこんなにも僕たちの日常が平和であったのに驚きを隠せない。
「こういったらあれだけど、ここ最近の自然災害は大体がスターダストが暴れたせいだね。だから私もこれまで一人で戦ってたのを仲間を集める方針に変えたんだし」
まぁ、今日の戦いを見る限り、一人でもあの数を封殺できそうではあったなぁ。
だからといって何があるかわからない中で信頼できる仲間が欲しいというわけか……
それで人のために命を懸けれる僕を誘ったということかな?
「ここだけの話っていうか、コスモスの中では確定的な話なんだけどね、今ってこの惑星の周期的にスターダストたちの源流の惑星、ディオファントスと近づいて行ってるんだよ。だからここ最近はスターダストの数は跳ね上がっているし、十年前の大災害を引き起こしたような強力なスターダストも現れるようになってきたの」
あれ?
なんだかきな臭い話になってきたぞ?
僕としてはできるだけ多くの人の命を助けたいという気持ちで入っていることは確かだけど、なんだか重要そうなことを言ってるし僕がコスモスに入るって宣言する前にそういうことは教えてほしかったな。
「なんだかハンバーガー食べながら話す内容ではないくらい重要な話をしているように思えるんですけど……」
「まぁ、何を食べても話の内容は変わらないんで……ソフトクリームとシェイク追加で注文する?」
そういいながら財布をもって席を立とうとする優衣さん。
これは完全に僕はヒモだな……
僕はこれまでの人生自分が不細工ではないと確信しながら生きてきたけど、さすがに優衣さんに並び立つことができるほどかっこいいと思っているわけでもない。
だからだろうか?
優衣さんと一緒にいるところを周りに見られてなんでこんな男と?と疑問に思ってそうな人たちを見かけると少し足がすくんでしまう。
僕基準でなくてもやっぱり優衣さんはあり得ないくらいの美人さんだ。
それに気が利くというか他人を思いやる気持ちがすごいし……
ちょっと時々抜けてるところがあるけど、きっとワザとではないだろう。
優衣さんが追加の注文をしている間に僕は机の上に並べられた大量のハンバーガーのセットを急いて胃に詰め込む。
どれくらい食べただろうか?
何度追加で注文しただろうか?
僕にはとても思い出せないけど、机の上に散らかっている残骸は嘘はつかない。
周りに迷惑がかかるかもしれないと思いながらも六人で座る席を占領していたが、正解だった。
「……お待たせ、亜樹。もうこんなに食べたんだ。もうだいぶ体も元に戻ってきたんじゃない?すごい体だね」
いくら僕の容姿が優衣さんと釣り合わないからってそれが原因で僕が優衣さんと距離を取らないといけない理由にはならないか。
「ありがとう」
そういいながらソフトクリームとシェイクを受け取る。
ソフトクリームに関しては自分用にも買ってたようでおいしそうにほおばっている。
「まぁ、さっきの話の続きになるんだけどね、最近だとコスモスに所属する人たちでチームアップして今後くるって予想される十年前の大災害を引き起こしたスターダスト、カルナクスの螺旋に備えようって動きが盛んなんだよ。私もそのビックウェーブにあやかって仲間探しをしてたんだけどね。私たちがこれまで戦ってきたスターダストは知性のない獣だったわけでしょう。だけど、カルナクスの螺旋みたいに個体名がつけられたスターダストには人と同等かそれ以上の知恵があるらしくて、さらに重要なことなんだけど、私たちに大被害をもたらしたカルナクスの螺旋ですらディオファントスの先兵の可能性が高いってことだね」
…………?
……あれ?
僕には理解できなかった。
言いたいことは理解できるんだけど、もう少し情報を整理してほしかったな。
「……それで、結局言いたいことは?」
「強い敵が攻めてくるかもしれないから、一緒に協力して倒そうよ!」
「うん!頑張ろう!」
音速を超える速さで県外まで移動した僕たちにとってここは見知らぬ地。
帰りも走って帰りたいところではあるけど、帰り道は壊したものはもとに戻らないのであきらめて公共交通機関を使う必要がある。
僕たちはバスを利用して帰ることにした。
幸いなことに席に座ることができたし、それからはコスモスについての存在や、確認されてるスターダストについての情報をいろいろ教えてもらった。
僕としてはコスモスの敵対組織が少し気になった。
敵対組織といっても、正面切ってバチバチにやりあってるわけではなくヤクザと警察のような関係だ。
その敵対組織としている人たちは江戸時代まで幕府に仕えてスターダストと戦っていたらしいが、明治時代にまで時代が進み、民主主義の世の中となると本当にその存在が定かか把握することができない役人たちが彼らに渡す報酬を渋って払わなくなっていった。
命の危険もある戦いに身を投じているにも関わらず、報酬が出されなくなると当然怒る。
本来ならスターダストとわざわざ戦わなくても適当に強盗すれば証拠を残すことなくできるような連中だ。
彼らは仕事をボイコットし始めるようになり、新たな職業としてヤクザの護衛やヤクザの事務所を立ち上げ始めるようになった。
すると当然のようにこれまでにない大規模な自然災害が頻発するようになり、国家予算から報酬が支払われるようになり多くの人がもう一度コスモスとして戦線に戻ったが、それでも一部の人たちはその事業を辞めずに現在に至るというわけだ。
僕がこれから関わることはないだろうけど、やはりそういう存在はいるのかと思った。
さすがにしばらく移動を続けていくにつれてとっさに思い出す話題も少なくなってきたらしく、僕も受験を控えた身としてバスの中で暗記物を覚えていた。
優衣さんも同い年で受験生勝つ理系だったので科学の問題を出し合ったりして何気に有意義な時間だったと思う。
「それじゃあ、これからでもコスモスに入る手続きでもしに行こうか」
乗り換えを何度かしたところでようやく僕たちの実家近くのバス停に止まると優衣さんが突然言い出す。
「……?今ってもう八時過ぎてますよ……さすがに市役所も閉まってますよ」
「ああ、あれよ。あれ。……婚姻届けって二十四時間受理されるじゃない。それと同じでスターダストはいつ現れてもおかしくないから二十四時間受付されてるのよ。もちろんこの時に住民票を移したりするような手続きも頼めばやってくれるよ」
僕が不思議そうに言うと優衣さんは知識の乏しい僕に楽しそうに教えてくれる。
僕のこれまでの生活で全く知らなかった組織ではあるけど、思ったよりも世間に浸透してある組織であるようだ。
「へぇ……じゃあ、今度から順番とか気にせず手続きをやってもらえるようになるんだ」
「まぁ、そうね。営業時間が終わった後に来てマイナンバーカードを作ってたコスモスの人たちもたくさんいるし」
そうはいってもわざわざ市役所に行かなきゃいけないような用事なんて学生の僕にはめったにない。
僕たちは夜間受付用の窓口へと向かう。
夜間窓口にいる人にコスモスのバッチを見せると市役所の地下に連れて行ってもらえて、様々なサービスや手続きができるらしい。
これでも一応命を懸けることにはなるんだ。
対価として何がいただけるかはしっかりと確認しておかないと……
「亜樹、こっちよ」
優衣さんが指をさす方向に行くと結構広い、窓口が見える。
「ここがコスモス専用の窓口よ。これからはここにきたら報酬の受け渡しから武器の発注、支援金の申し込みにパーティーメンバーの募集とかいろんなことができるからね」
優衣さんに言われるがままに受付へ進んでいくと四十代くらいだろうか?
くたびれたおっさんが暇そうに座っていた。
「すみませーん」
僕が話しかけるとくたびれたおっさんは僕を視界に収め、新顔だからだろうか?僕の頭のてっぺんからつま先まで油断なくなめるように見つめる。
僕何かしたかな?
「健司さん、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。私の推薦で今日からコスモスに入って私とパーティーを組む橘亜樹君です」
僕を警戒していたようだ。
それもそうか。
確かにここに来る人間ということは超能力が使えるということだ。
どんな人間か警戒してなくてはいけないと考えるのも当然だろう。
「はぁ、ならいいか。……推薦ってことは今日加入するってことでいいんだよね?」
「はい、よろしくお願いします」
さて……加入するには何か条件でもあるのだろうか?
超能力者の集団だ。
ただ書類を書けば加入できるというわけではないだろう。
「じゃあ、ちょっと埋めるべき項目が多くて申し訳ないけど、あそこの机でこの書類を埋めて行ってもらってもいいかな?」
そういいながら二十枚くらいだろうか?
奨学金を申し込む際の必要事項よりも多いくらい書くべきことがありそうだ。
内容は命の保証ができないということから報酬の払い込み先まで多岐にわたる。
「よし!手伝うから一緒に書こうか」