表現
「ねえ、私あなたのことがよく知りたいの」
幼馴染のハルはこれをよく言った。当時の僕があまり人に笑顔を見せなかったからか、彼女は僕に興味を示した。同じ幼稚園に通っていた僕たちは親同士の中の良さも相まってよく一緒に遊んだり、家族ぐるみで食卓を囲んだりしたこともあった。
僕たちは成長していくにつれ、それぞれの性別のグループに溶け込むようになり、以前ほどの関わりもなくなっていった。
19歳の大学生となった現在では、彼女との関わりはほとんどなく、昔なじみのよしみで元旦や誕生日に送られてくる定型文のメッセージだけであった。昔と変わらないことは一つだけ、僕が他人に自分を見せない点のみだ。ただ、正確には昔の僕が万人に等しく感情を見せなかったのに対し、現在の僕はあらゆる人にその数だけの仮面を使い分け、あらゆる表情を他人に見押せていた。ある時からこちらのほうが楽に過ごせることに気づき、楽な気持ちに甘えて数年間身の回りの誰にも本心からの笑顔は見せなかったし、怒りの色を見せたこともなかった。他人に合わせて生きてきたといえばそれまでであるが、まぎれもなくこの数年間で僕は僕を殺してきたことになる。
ある日、彼女から珍しくメッセージが届いた。
「今度会えないかな、久しぶりに顔を合わせて挨拶したくって、」
何年ぶりだろう、こうして顔を合わせるのは、昔は彼女と一緒にいるときは純粋な心でいられたのだが、今は違う。
「君、なんだか変わったね、そんなに笑顔見せてくれる人だったっけ」
「普通のことさ、君はむしろ変わらないね、純粋なところとか」
僕は彼女の純粋さを肯定する意味で言ったのだが、なぜだろう、僕の本心が声のトーンや表情に出ない。
「そっか、それでね!今日呼んだのはね、詳しくは言えないんだけど、もう会いたくなっても会えないようになっちゃうから……」
彼女から先ほどまでの元気が少しばかり失せたように思える。
「そう、それは少し残念だな。」
またしても声色が暗くなる。彼女は少しうつむいて口を閉ざす。
「ちがうんだ、ネガティブな空気を作るつもりはなくだな……」
「君ってさ、ずっと嘘ついて生きてるよね、本当の自分なんてない、いつだって人に合わせてばっかりだから自分の気持ちもうまく表現できないんだ!」
彼女が声を荒げる。確かにそうかもしれない。いま彼女に自分の発言の真意を伝えよう、気持ちを伝えようと思考を巡らせてみるがうまく思考が回らない。
しばらくの間ののち彼女がぽつりと言い放つ
「私あなたのことが分からないよ……」
入り込んでいた役から我に返った男は、ハル役の女に話しかける。
「いやあ、今回俺この役あんまり理解できてなくって、あんまりうまくできなかったかも。どうでしたかね。」
「あら、とっても上手にできてたわよ。それにこの役まるで普段のあなたみたいじゃない。いいえ、あなたそのものといっても過言ではないわ。」
長い文章書けねぇ