第五話 挑戦・こたつ脱出③
七十七番めの挑戦者は、イッキューというそうりょでした。
「このそうりょは、どんな人物なのじゃ?」
「とんちをもって、どんなむずかしい問題もたちまちに解決するとのふれこみです」
「ほう。それは期待できそうじゃの」
王さまと大臣はイッキューを見てそんな会話をしていました。
イッキューはこたつの前まで行くと、うでまくりをしてこう言いました。
「それでは、姫をこたつから追い出してください。私がすぐにつかまえてごらんに入れます」
「…………」
イッキューのセリフを聞いて、王さまはポカンと口を開きました。
ややあって、大臣がイッキューに言います。
「あ〜、イッキューよ。それができなくて困っているから、こうしてみなにたのんでいるのだが」
大臣の口ぶりは、まるでものわかりの悪い子どもに言い聞かせるかのようでした。
すると、イッキューはポンと手を打ちました。
「なんだ。姫はこたつから出てこないのですね。安心しました」
「「安心してどうする!」」
王さまと大臣は大声を上げました。
こうして、イッキューも失格となりました。
「とんちというよりも、とんちんかんな男じゃったな」
「ええ。まったく」
†
太陽は西の空にしずみかけていました。
この日の朝から始まった百人の挑戦もいよいよ終わりをむかえようとしていました。
最後に現れたのは、燃えるような赤いかみと目の色をした青年です。
「……続いて百番! 王宮魔法使い、エース!」
「みんなの願いを炎に乗せて! ファイヤー!」
タツコ姫をこたつから出すための挑戦の行方は、この若い魔法使いの手にゆだねられました。
「ボクのこの炎で姫をこたつから出してみせる! フレアバースト!」
エースという若い王宮魔法使いは、メラメラとやる気に燃えているようでした。
「エース……いつもながら、熱い男じゃのう」
「知っての通り、わが国最強の炎魔法の使い手ですな。やっと真打ちが登場した……と言えましょうか」
エースは魔法でいくつかの大きな火の玉を生み出すと、タツコ姫が入ったこたつを取り囲むように配置しました。
「フフフ……。そろそろ暑くなってきたでしょう? がまんしないで、出てきていいんだよ。――ヘルフレイム!」
「…………」
タツコ姫の返事はありませんでした。
実は、エースが火の玉を出した時点で、タツコ姫はこたつの中にかくれてしまっていました。
「……かなり暑くなってきたが、姫は大丈夫かのう?」
王さまはハンカチを取り出して汗をぬぐいながら、姫が入ったこたつを心配そうに見ていました。
「ハッハッハッ! 何の問題もありませんよ!」
そのとき、広間の中で一人の男が高笑いを上げました。
男は王さまの家来ではありませんが、王さまは男のことを知っていました。
「お、おまえは、こたつを作った魔道具職人!」
そう。その男は、姫のこたつを作った張本人でした。
男は自らつくったこたつの機能について、得意げに語り出します。
「こたつの中はいつでもすごしやすい温度と湿度が保たれるようになっております! いくらこたつの外を温めたところで無意味! 私のこたつに死角はありません!」
その言葉を聞いて、魔法使いのエースはショックを受けました。
「そ、そんな……。ボクの炎が通用しないなんて……! うそだと言ってよ、バーニング!」
これ以上続けても効果がないとわかったエースは、魔法の火の玉を消し、床に手をついてくやしがりました。
「ぬう……。もう挑戦者がいなくなってしまったではないか」
「まさか、だれにも姫さまを出すことができないとは……」
全ての挑戦者が退出し、王さまと大臣はそろって下を向きました。
――そのとき、広間の中にさっそうと一人の女性が入って来ました。りっぱな身なりをした貴婦人です。