第四話 挑戦・こたつ脱出②
「――ありがとうございました」
二番めの挑戦者、武器屋のトルネオは一礼をして広間から去って行きました。
トルネオのチャレンジは、残念ながら失敗に終わりました。
「ああ、びっくりした」
とは、相変わらずこたつに入ったままのタツコ姫の言葉です。
「なかなかおもしろい男じゃったのう」
「ええ。あのふしぎなつえにはおどろかされました」
王さまと大臣も口々に感想を述べました。
先ほどのことです。
トルネオが最初に取り出したつえをひとふりすると、なんとタツコ姫とこたつの姿がかき消え、広間の別の場所に現れました。
『そ、そんな……! まさか、こたつと一体化している……?』
そのとき広間のだれもが目をまたたかせておどろきましたが、トルネオは別の意味でおののいているようすでした。
その後もトルネオは別のつえをふったり、巻き物を読み上げたり、なぞの草をタツコ姫に投げつけるなどしました。それらはときどきなぞの効果をはっきしましたが、多くは全くの無意味でした。
終いにはトルネオがおおばさみを取り出したので、近くの兵士があわててかれを取り押さえました。
トルネオの後も、何人もの挑戦者がタツコ姫をこたつから出そうと試みました。
†
「続いて十三番。狩人、ロビンフット!」
「ねらったえものはにがさない――百発百中のロビンフットとは、このぼくのことさ!」
十三番めの挑戦者は、羽根つきぼうしをかぶったキザな狩人でした。
「お調子者のようじゃの」
「弓のうでまえは確かのようですぞ」
王さまと大臣はそんな会話をしました。
さて、ロビンフットはこたつに近づくとかまどを取り出し、その場で魚を焼き始めました。
パタパタパタパタ……
ロビンフットはこたつに向かってうちわをあおぎ、もくもくと上がるけむりがタツコ姫の方に行くように風を起こしました。
広間の中にはけむりと魚の焼けるニオイがじゅうまんし、ひどいことになりました。
「……ゲホッゲホッ! あやつは何をしておるのじゃ!」
「ゴホゴホッ……。どうやら、姫をけむりでいぶりだそうとしているようですな」
王さまと大臣は、けむりでなみだ目になりながら話しました。
「……姫は、とっくにこたつの中にかくれておるではないかっ!」
そう。広間にいた人々の中で、姫だけはいち早くこたつの中にかくれ、事なきを得ていたのです。
「そうですな……。もはや、けむりを送る意味はなさそうです」
「そやつは失格じゃ! さっさと火を消して片づけよ!」
王さまがそう言ったことで、ロビンフットのチャレンジは失敗に終わりました。
「……まさか、このぼくがえものに手も足も出ないとはね」
†
「二十九番。町娘、アユミ!」
「あたしだって、みんなのやくにたてるんだから!」
二十九番めの挑戦者は、十歳のタツコ姫よりもさらに小さな女の子です。
「……なぜ、あんな女の子が事前のテストをパスしたのじゃ?」
「えーと、担当した役人によると、『私にも同じ年ごろのむすめがいる。目に入れてもいたくないむすめだ。無限の可能性を感じた』とのことです」
「……よもや、その役人のむすめではあるまいな? まあ、ここまで来たのじゃ。どういどむのか見せてもらおう」
アユミはトコトコとこたつに近づくと、タツコ姫にたずねました。
「おひめさま、あたしもおこたつにはいってもいい?」
「ええ。いいわよ」
タツコ姫はほほ笑んでうなずきました。
タツコ姫とアユミがこたつでならんでいるようすを見て、王さまは目じりを下げました。
「おぉ……。女の子が姫と同じこたつに。なごむのぉ〜」
アユミはポケットからトランプを取り出しました。
「おひめさま、いっしょにトランプをしませんか?」
「いいわね。こたつに入っててもできるし」
アユミはにこにこと笑いながら、勝負の条件をつけました。
「じゃあ、あたしが勝ったら、こたつからでてくださいね」
「それはイヤ」
しかし、姫はきっぱりとそれを断るのでした。
そのあと二人は、しばらくトランプで仲良く遊びました。
ですが、姫がこたつから出ることはありませんでした。
「……なごみはしたが、ダメじゃったのう」
†
「四十五番。かいりきむそう、ラスプーチン」
「やっとおれさまの出番か!」
四十五番めの挑戦者は、毛むくじゃらの大男でした。
「むさくるしい男じゃのう」
「事前のテストでは、すでで岩をくだいたとか」
「……ばけものじゃな」
タツコ姫はラスプーチンが近づくと顔をこわばらせました。おそろしい男だと、本能的に理解したのかもしれません。
「……力ずくで引っぱり出しちまっていいのかい?」
ラスプーチンは王さまに向かってたずねました。
「むむっ! 姫を傷つけることはまかりならんぞ」
「そんなヘマはしねぇよ」
王さまはタツコ姫がけがをしないか心配でしたが、背に腹は変えられないとラスプーチンに許可をあたえました。
タツコ姫は、王さまのその判断に不満を上げました。
「パパ、ひどい!」
「ぐはっ……」
王さまは姫に「ひどい」と言われたことで、むねをいためました。
「――いいわ。わたし、にげるから!」
タツコ姫は、カチリとこたつに取りつけられたあるスイッチを押しました。すると、こたつの四本の足の下に車輪が現れました。
「なにぃっ! ……こいつ、動くぞ!」
ラスプーチンが近づくとこたつは床をすべるように動き、遠ざかります。なお、タツコ姫のすわる床は、こたつの足の下部と一体化した一枚板となっておりました。
ラスプーチンはとうとう走り出しましたが、こたつの速度はかれを上回っていました。ラスプーチンは姫のたくみなこたつさばきにすっかりほんろうされてしまいました。
「はぁっ……ひぃっ……。ぜ、全然追いつけねぇ……」
十分後、つかれ果てたラスプーチンは地面に大の字になっていました。
「足はそれほどでもなかったようじゃの」
王さまはそんな感想を告げました。
†
「七十七番。そうりょ、イッキュー!」
「あわてない、あわてない」
七十七番めの挑戦者は、頭を丸めたそうりょでした。