第二話 王さまの困りごと
「困った……困ったのう……」
それから十日ほどがたった後の話です。
ここ北の王国のお城では新たな問題が起こり、王さまの頭をなやませていました。
「王さま、いかがなさいましたか?」
うろうろと右へ左へ歩き回る王さまを見かねて、大臣がたずねました。
王さまはぴたりと足を止め、大臣に向き直りました。
「決まっておろう。わしのかわいいタツコ姫のことじゃよ」
大臣はまゆをひそめました。思い当たることがあったのです。
「もしや……」
王さまは暗い顔でうなずきます。
「さよう。あの日から全くこたつの外に出ておらんのじゃ」
それを聞いた大臣はびっくりして、目を大きく見開きました。
「ま、全くでございますか! ……失礼ながら、シモのご用や、湯あみについてはどうなさっていらっしゃるので?」
大臣の問いはもっともなものでした。
人はふつう、こたつの中だけで生きていけるようにはできていないのです。どんなにものぐさな人間でも、おふろやトイレは外で済ませると思うでしょう。
王さまは深いため息をつきました。
「それがな、姫は例の職人にいろいろと注文をつけおってな。全てこたつの中でできるようにしてしまいおったのじゃ」
そんな言葉を聞いた大臣は、飛び上がっておどろきました。
「えぇ〜〜っ!! 信じられません。いったい、いかなるしかけがあればそのようなことができるのですか?」
王さまは頭がいたいようすで、こめかみに手を当てながら答えます。
「わしもくわしくはわからぬのじゃが、シモの方については空間をねじ曲げてこたつの中と城の中のトイレをつないでおるらしい……」
どうやらこたつを作った魔道具職人は、ものすごいうでまえの持ち主だったようです。
大臣は、ぽかんと大きく口を開きました。
「お、おそるべき魔法ですな……」
「まったくじゃ。もっと他にいくらでも使い道があろうに」
王さまは、あきれ果てたようすで言いました。
ちなみに、おふろの問題もこたつの新機能によって解決しました。姫の注文によって、こたつに入ると体がせいけつに保たれるという魔法の効果が付けられたのです。
ドヤ顔でそんなこたつのすばらしさを語る姫を前にしたとき、王さまは思わず苦虫をかみつぶしたような顔になりました。
王さまはそのときのことを思い出しつつ、何もないかべを見上げました。
「家庭教師も困っておる。あと二週間以内に、姫がまともな生活をできるようにせねば……」
家庭教師というのは、王さまが姫のために手配した者たちのことです。
姫がこたつにすわっていてもできる授業は続けられていましたが、ダンスやれいぎ作法のレッスンは中断状態になっていました。
「あと二週間」――王さまのその言葉を聞いて、大臣の顔がさっと青ざめました。
「たいへんなことになりますな……」
「うむ……」
二人ともけわしい顔をしてうつむきました。
ややあって、王さまが顔を上げます。その表情からは決意のきざしが見てとれました。
「……こうなれば、やはりまたふれを出して、姫をこたつから出せる者をつのってみるか」
大臣はポンと手を打ちました。
「名案かと思います」
大臣の賛成を得て、王さまの意志は固まりました。
「よし! そうと決まればさっそくふれを出すぞ!」
「はっ!」
こうして、また国中におふれが出されることになったのです。