表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/53

第5話:なぜごねるのですか?

 お父様もお母様も、ホッと胸をなでおろしている。出来ればディノス侯爵家と、あまり揉めたくないのだろう。穏便に済ませるのが、一番だものね。


「それでは早速、婚約破棄届の紙にサインを…」


「待って下さい!どうして勝手に話しを進めるのですか?どうして僕とジャンヌが、婚約破棄をしないといけないのですか?僕は絶対に嫌です。婚約破棄なんてしません!」


 ん?今なんて言った?


 ビックリしてシャーロン様の方を皆が向いた。いつも穏やかなシャーロン様が、こんな風に大声を出すなんて。


「シャーロン殿、あなたは娘を嫌っているのですよね。妻から聞きましたが、夜会などに参加しても、娘の事は知らん顔で、いつも令嬢たちと仲良く過ごしているそうではありませんか。申し訳ございませんが、娘を大切にしない男に、私の可愛いジャンヌを差し上げる事は出来ません!」


 鬼の騎士団長と言われているお父様の気迫に押されたディノス侯爵と夫人が、固まっている。シャーロン様も顔を引きつらせていた。ただ、次の瞬間、シャーロン様と目があったのだ。すると


「ジャンヌ、君は僕を捨てたりしないよね。僕と婚約した時、言ってくれたじゃないか。“シャーロン様にふさわしい令嬢になれる様に頑張ります”って。そうだ、いくら騎士団長が僕たちの仲を引き裂こうとしても無駄だよ。そもそもちょっとジャンヌに冷たくしたくらいで、婚約破棄なんて出来る訳がない。そうだろう?ジャンヌ。君は今でも僕を愛してくれて…」


「…いません…」


「え?」


「だから私は、あなた様の事を愛してなどいません!確かについ最近まで、あなた様をお慕いしておりましたわ。でも、この写真を見た瞬間、百年の恋も一気に冷めたのです。私は不貞を働く男は大嫌いです!そもそもあなた様は、私の事をずっと避けていましたよね。もしかして、私を苦しませて喜ぶタイプの人間なのですか?それなら尚更願い下げですわ!」


 あまりにも頭に来たので、あの写真を机の上に置いた。あれだけ私を避けていたのに、どうして婚約破棄するのを嫌がるのよ!本当に理解できないわ!


「この写真は…シャーロン、お前はなんて事を…」


「どうしてこんな写真が…違う…何かの間違いだ。だってあの場所には、当事者しかいなかったはずだ。誰が一体こんな写真を…ジャンヌ、この写真は一体どこで手に入れたのだい?」


「この写真は、匿名の方から届いたお手紙の中に入っておりましたの。当事者しかいらっしゃらなかったのでしたら、ここに写っていらっしゃる誰かが、私に手紙を送って来たのでしょうね。まあ、誰が送っていらしたものでも、私には関係ありませんが」


 にっこり微笑んで、そう答えてやった。


「シャーロン殿、この写真を見てもまだ、ジャンヌとの婚約破棄を認めないつもりですか?不貞行為は立派な婚約破棄理由になります。どうしても嫌だとおっしゃるのなら、こちらはこの写真を証拠に、裁判をしてもよろしいのですよ」


「マリアーズ伯爵、お待ちください。裁判だなんて。婚約破棄します、それに慰謝料も支払います。ですので、どうか穏便に」


 ディノス侯爵が必死に訴えている。


「父上、僕はジャンヌと婚約破棄はしません。こんな写真で脅してくるだなんて。それに僕は、彼女たちとは単なる遊びだったんだ。決して本気ではない。僕が愛しているのは、ジャンヌだけだ。ジャンヌ、僕が悪かったよ。ちょっとした軽い気持ちだったんだ。これからはジャンヌの事を大切に…」


「いい加減にしてくださいませ!どこまで私をバカにすれば、気が済むのですか?単なる遊び?あなた様は、好きでもない人と、口づけをしたり抱き合ったりできるのですね。でも私は、そんな人は無理です!はっきり言って、気持ち悪いですわ。シャーロン様、このまま婚約破棄を受け入れていただければ、あなた様の不貞は黙っています。慰謝料もいりません。お互い話し合って穏便に婚約破棄したという事で構いません。でも、これ以上抵抗するのであれば、その時はこの写真を証拠に、裁判を起こしますわ!」


「ジャンヌ、何を言っているのだい?それじゃあ、ジャンヌが報われないじゃないか?きちんと不貞行為を行った事を、皆に公表すべきだ」


「お言葉ですがお父様、その様な事をして、シャーロン様の評価を下げても、私は何も嬉しくはありません。それに私は、婚約破棄出来ればこれ以上何も望みません!」


 正直貴族社会で何を言われようと、もうどうでもいい。それにわざわざシャーロン様の評価を下げる必要もないと思っている。とにかく私は、一刻も早く婚約破棄して、自由になりたいのだ。


「ジャンヌの気持ちは分かった。シャーロン殿、あなたの名誉のためにも、この場で婚約破棄をなさってください。どのみちこちらには証拠があるのです。全てを公にして、裁判をしたとしても、あなたが裁判で勝てる見込みはありませんよ」


「シャーロン、もう婚約破棄するしか道は残されていない。いい加減腹をくくりなさい」


「そうよ、あなたの為にも今、婚約破棄をするべきだわ」


 ディノス侯爵夫妻も、必死にシャーロン様に訴えている。ただ、シャーロン様は俯き、拳を強く握って動かない。往生際の悪い男ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ