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46 月明かり ⑦

 


 これは夢なのかと、夢のなかの登場人物に聞くというのもなんだか滑稽だわと思いつつ。ローズは、布団のなかで背筋を伸ばして、その登場人物であり、主役たるリオンの返事を待った。

 果たして夢のなかの登場人物が、ちゃんとした答えをくれるものだろうか。そう疑問に思いつつ、待ってみたが……しかし、やはり夢は夢なのか……。見つめ続けても、リオンは沈黙したままである。

 いつもよりラフな姿の青年騎士は、寝台の横で床の上に跪いたまま、コチリと氷のように固まってしまい、息もしていないように見えた。

 そのまるで置物のようなさまを見て、ローズ。


(……あら……やっぱり、夢……? なの……?)


 いくらなんでも、生身だったら息くらいはするはずと。まさか──それを止めさせたのが、自分だなんて思わない娘は、やはりこれは現実ではなさそうだと考えた。

 だが、そんなふうに思い当たってみると、確かに自分の様子も普段とは違う(気がした)。

 気持ちはドキドキ、そわそわ、ふわふわとしていて。寝台に座っているのに、まるで宙に浮いているようにおぼつかない。特にリオンの顔を見てからは、色々頭から吹き飛んでしまって。なんだか頭の中が真っ白なのだ。

 ローズはホッとすると同時に、自分が恥ずかしくなった。


(そ、それはそうよね……変だと思ったのよ……私がこんなところまで来てしまうなんて……いくらなんでも衝動的すぎるもの……)


 祖国の平和を背負い、大義を胸に生きてきた自分は、かなりしっかり者だという自負があった。

 そんな自分が、たった一人の異性に会いたいがために、部屋を抜け出し、彼の私室にまで押しかけるなんて。


(そんな──……夢みたいな羨ましい展開があるわけ……そんな素直な情熱を、この私が持ち合わせているわけが……)


 そもそも長年ハニートラップの危険に晒され、自分はかなり警戒心が強いはず。疑り深く、まだリオンのハニートラップ疑惑もはっきりしない今、自分が彼のもとに走るなんて。夢でなくては説明がつかないと思った。

 どうやらリオンのことを考えすぎて夢にまで見てしまったんだなと。そうかそうかと納得する王女に。


 ──そんなふわふわ状態は、騎士リオンを前にした姫様はいつもでしょ! ──と真っ当に指摘してくれる侍女はいない。


 だが、この思いこみもある意味仕方なかった。

 この時のローズはひどく動揺していて、まともな判断が難しかったのは言うまでもない。

 王女という立場ある身としては、男性騎士の隊舎内なんて視察ですら訪れることはないし、ましてやリオンの私室など──夢のまた夢。憧れても訪れることの叶わぬユートピア。

 王族のローズにとっては、国王の私室のほうがまだ気安い場所であった。

 そんなユートピアに、あろうことか、リオン本人の手で担ぎ込まれるなんていう夢のような展開は、考えるだけで正気を失いそうである。(※実際今、正常な判断を失っている)これが夢でなくて、いったいなんなのだろう。


 そうした熟考の末、ローズは悩ましげにつぶやいた。


「…………私(の夢)も、随分大胆になったものだわ……」

「………………」


 いかめしくもらしたローズの傍らで。

 リオンは未だ凍りついている。


 聞き間違いでないのなら──王女は自分に、『あなたに会いたくてきた』と言ったのである。

 その一言の破壊力たるや──……。リオンは己の耳を疑って、完全に機能停止中。


 ──こんな夜更けに? 王女がわざわざ? 自分に会いにおいでになった………………?


「っ⁉︎ っ⁉︎ っっっ⁉︎」


 考えた途端、リオンの顔がボッと燃え上がるように赤くなった。心臓は爆発しそうに暴れ出し、思わず身体が斜めに傾く。が、生真面目な彼はその考えをすぐに打ち消した。


(い、いや、そ、そんなことがあるわけない、不敬なことを考えるな!)


 ──と自分を叱咤したものの……疑問が次々に湧いてしまって呼吸すら忘れる有り様。

 しかしその時リオンは真顔でハッとする。


(……もしや──この隊舎には、“アナタ”という名の騎士がいる……のか……⁉︎)


 青年騎士はあくまでも真面目に、必死に考え込んでいる、が──……。


 ──いや、いない。いないぞリオン!


 彼の師、ギルベルトの幻のつっこみが聞こえてくるようである。




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