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第2話 ~互いに一致しない常識~

「異世界、接続、実験……駄目だな……どのサイトもニュースも消されてる……」


 窓の中の彼女が準備をしている間、俺は朝食の準備をする傍らで昨日の実験に関する情報の収集に勤しむ。


 海外で行われていた実験の結果が、たった一カ所だけに反映されるはずがない。 世界のどこかで全く同じ現象が起こっているはずだと目星を付けて、世界中のニュースサイトやSNSを回るが、それに関する記事や話題は一切無い。


 それどころか、昨日以前に掲載されていた大手の電子記事や、クラウドファンディングのページが尽く削除されており、何かよからぬことが水面下で起こっていることを俺に予感させた。


 ……とはいえ、たかが民間人一人に出来ることなどなく、今はただ目の前で起こっている現実を直視する他ない。


「なぁ、さっきから声がしないけど大丈夫か?」

「ごめんなさい! もうちょっと待って!」

「急かしてるわけじゃないから心配しなくていい。 今日は休みだからいくらでも待てる」


 着る服に悩んでいるのか、ああでもないこうでもないといくつもの上着が窓の向こうを飛んでいくのが目に入るが、俺は気にせず皿をテーブルに並べ、コーヒーに口を付けながら相手を待つ。


「どこの世界でも、年頃のレディってのはそんな感じなんだろうよ」

「ううん多分違うわ、私が特別鈍臭いだけだと思うの。 私は皆と違ってドジだから」


 俺が零した独り言に対し、彼女は耳ざとく反応してみせると満を持して窓の前に現れた。


 その瞬間、俺は咄嗟に身体から視線を逸らして尋ねる。


「……それがそっちでのカジュアルな格好なのか?」

「うん! 素敵でしょ?」

「あぁうん、野郎の俺からしてみればすげぇ魅力的に感じるよ」

「本当? お世辞でも嬉しい!」


 決してお世辞ではない。 ただ、独り身の野郎が見せ付けられるには暴力的なほどに悩ましすぎる姿だった。 華奢な鎖骨とふくよかな胸、そして艶やかなボディラインが強調される可憐な衣装は、彼女の女としての美しさをより強く際立たせていた。


「どうしたの?」

「気にするな、そんなことよりもまずは自己紹介が先だろう? 俺の名は怜二。 鷹見怜二という者だが君は?」


 挙動不審になってしまったことを内心強く恥じ、彼女の問いかけから逃げるように名乗りを強行すると、窓の向こうの乙女は長い耳をピコピコと動かしつつ、大きな目をキラキラさせて屈託のない笑顔を返しながら応える。


「私はリーリア。 リーリア・シャミナっていうの! 貴方の名前が聞けて良かった! ちゃんと自分の口で意志を表明できる大人の男を見たの初めてよ!」

「そりゃ流石に言い過ぎだろ……、世の中そんなコミュ障ばっかじゃ……」

「私は真面目に言っているの、だって私の世界の男は皆大人になると化け物になっちゃうんだから」


 言ったことを疑われたことが不服だったのか、リーリアはフクッと頬を膨らせると、また窓の下へと姿を消し、そこから何かを持って再び現れる。


 彼女が手にしていたのは剥製に加工された生首。 それも、寄生植物に食い荒らされたかのように無惨な姿に成り果てた人間に似た種族の頭だった。


「うおおお!?」

「一定以上の年齢に達した男性はこんな化け物に成り果てて私達を殺しに来る。 だから新鮮なのよ、こうやって貴方みたいな人とお話を出来るのが」


 驚きのあまりに思わず立ち上がった俺の醜態を眺めながらも、リーリアは変わらず笑顔を見せながらねだってくる。


「ねぇ、もっと貴方のお話を聞かせて? 私が知らない世界のお話を」

「お……おう…任せろ……」


 グロテスクな物体を抱えながら窓のそばまで寄ってくるリーリアの姿に、俺は内心恐れおののくが、同時に何故か一抹の寂しさを感じ取っていた。


 微かに必死さが感じられるような、どこか固い声色と表情に。



今回も最後まで読んでいただき、まことにありがとうございます。


もし少しでも気に入っていただけたのであれば感想、ブクマ、評価を頂ければ幸いでございます。



たとえどれだけ小さな応援でも、私のような零細作家モドキには大きなモチベーションの向上に繋がり、執筆活動の助力となりますのでどうかよろしくお願いします。


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