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こうして聖女はさらわれた

 こうして、私はシュヴァルツ様がこの国を経たれた経緯を知りました。


 魔王がこの地上に現れてから約500年。

 聖女を擁立できなくなった国は、例外なく魔王によって滅ぼされております。

 国による魔王討伐隊が幾度も編成されたこともありましたが、何の成果もあげられていないのが現状です。


 ……そんな魔王に単身で挑みに行く。

 それがどれほど無謀なことなのかは語るまでもありません。

 話し終えた女中は、恐る恐る私の顔を覗きました。


 愛する殿方が死地に向かった。

 そんな事を聞かされたのですから、本来ならば卒倒してもおかしくはありません。

 彼女たちが私のことを心配に思うのも当然のこと。


 けれどその話を聞いた私は、自分でも驚くほど落ち着いておりました。

 そのことをうまくは言葉にできません。


 ……ただなんとなく。


 なんとなくこの話を聞いた時、私はシュヴァルツ様らしいな、と思いました。

 なにせ彼はどうしようもなく私のことを愛してくれている。

 私が泣いていることに気付いたのなら、黙っていられないのも無理はありません。


 そして何よりも、私はシュヴァルツ様が魔王に殺されてしまうなんて微塵も思ってはおりません。

 彼は必ず生きて帰ってきます。


 なぜなら彼は少し……いえ、笑ってしまうくらい嫉妬深い方だからです。

 彼はよく私の笑顔を独り占めにしたいと仰っていました。

 もし私が他の男性に笑顔を向けたとしたら、彼はちょっと不機嫌になって甘えてくるタイプです。

 もちろん、ずっと神殿にいる私がそんな経験をすることはないでしょうけどね。


 ……ああ、でも。

 もしシュヴァルツ様が魔王を倒して、この国が平和になったら……聖女の制約も少しくらいは緩和されるかも?


 そうなったら、ちょっとくらいは外出が許されるはず。

 楽しみだなぁ。そんなシュヴァルツ様の可愛い一面を見られる日が来るのが。


 ……でも、流石に魔王がいなくなっても、国が聖女を簡単に自由にすることはない。

 だから……そういったことが許されるようになる頃には、シュヴァルツ様も私も、おじいちゃんとおばあちゃん。

 それでも彼のことだから、老いた私の笑い(しわ)まで愛してくれと言ってくれそう。

 ……ふふふ。それはそれで楽しそう。


 話が逸れました。

 そんな独占欲の強い彼が、私を残して死んでしまうなんてことはありえないのです。

 たとえどんなに時間がかかっても、シュヴァルツ様は魔王を倒して必ずこの国に帰ってきます!


 ……でも、できるだけ早く戻ってきてくださいね、シュヴァルツ様。

 

 女は寂しがり屋な生き物なんですよ。

 表面に出さなくても、いつも愛されたいと思って生きているのです。

 それにあなたと関わるうちに、私は欲張りになっちゃいました。

 私はあなたという世界で一番の男性に愛してもらいたい。


 ……だから、帰ってきたらたくさん私のことを愛してくださいね?

 それまでの間、この国は――あなたの帰るべき場所は、ちゃんと私が守りますから……。


 ◆


 こうして月日は流れ、シュヴァルツ様が旅立たれて一年が経ちました。

 季節は春。桜が綺麗に色づく季節です。


 相変わらず私は神殿にいます。

 いつものように変わらない朝……と言いたいところですが、私の足は宙に浮かんでおりました。

 なぜなら私は今、シュヴァルツ様にお姫様抱っこをされているからです。


 ……ああ。

 これが世の乙女たちが憧れる夢の光景なのですね。

 大好きな殿方の胸の中で宝物のように抱き抱えられるこの感覚。


 嬉し恥ずかし……ではありません!!!


 なぜこうなったのかは、私にもわかりません。

 お客様が来ていると伝えられ、客間に通されるや否や、そこにシュヴァルツ様がおられました。

 そして驚く暇もなく、私はシュヴァルツ様にひょいと持ち上げられ、今に至るというわけです。


 もしかしたら、魔王を倒してご帰還されたのでしょうか?

 ……いや、流石にいくら何でも早すぎます。

 仮にそうだとしても、聖女は魔族に対する強力な抑止力。

 この世から魔王がいなくなっても、私の役割が解かれるはずがない。


 なのに周りの女中たちは誰もシュヴァルツ様の行動を止めようとはせず、むしろ困惑する私を微笑ましいものを見るような目で見ております。

 一体全体、何がどうなっているのでしょうか!?


「シュヴァルツ様!? 落ち着いてください! お気持ちは嬉しいのですが、私とあなたが触れ合うことは許さません。どうか、お手をお離しに――」


「――安心しろ。お前を溺愛する準備ができた。拒否権はない。さらっていくぞ、お前の全てを……」


 そう仰り、私を腕に収める手に力を込めるシュヴァルツ様。


 状況が飲み込めないまま、私はシュヴァルツ様の抱えられながら外へと連れ出されてしまいました。

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