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46話

「くそ、痛え」

「虎鉄、虎鉄!」

「死なないから落ち着け、お嬢」

 純太(じゅんた)が言った通り、傷は浅かった。狐由貴から渡されたタオルで傷を押さえれば、血は止まったようだ。

「悪いけど、すぐに医者には行けそうにないわ」

 新鋭(しんえい)組がどこまで見張りなど手を伸ばしているかわからない今、(とばり)組が関わっている人間の元には行けない。車に積んである救急セットを見つけ、知らないなりに手当をしてみる。

「虎鉄、ガーゼ貸して」

「お嬢?」

 お嬢は俺から消毒など、治療道具を取ると血で汚れるのも気にせずに手当を始めた。

「慣れてんのな……」

「ガクとかよく怪我してたから」

 そう言う割には今にも泣きそうな顔をしている。

「謝んなよ」

 お嬢は今にも謝りそうな顔をしていた。何に対してなのかも知らないし、知る気もない。

「他に言うことあんじゃね?」

「え?」

 お嬢はそんなことも知らない。背中はまだ痛むが、お嬢に笑ってみせる。お嬢はこんな状況で笑ってる俺が不思議なのか、首を傾げていた。

「俺らは今、お嬢のために動いてる。あんたのじいさんでも、組のためでもない」

 誰かを助けるってことは、誰かが助けを求めてるってことだ。それなら、お嬢に言って欲しいのはただひとつだけ。

「言えよお嬢、助けてって。そしたら俺、死んでもお嬢のこと守ってやる」

 お嬢は自覚がないだけで、本当は怖がっている。ここには、小さい頃から一緒にいた鷹槻も、父と親しかった犬太郎もいない。不安で仕方がないはずなんだ。

 少しでいいから、お嬢が自分の気持ちを自分で表現出来たなら、俺の心配は軽くなる。

 手当てを終え、少し血が着いた手でお嬢は俺のシャツを掴んだ。

「虎鉄……、虎鉄」

「おう」

「助けて、虎鉄。怖いよ」

「大丈夫、俺がついてる」

 すがりついてきたお嬢を抱えるように抱きしめた。お嬢は泣いているのか、呼吸が小刻みになってくる。

「ありがとう、虎鉄ちゃん」

「おう」

 狐由貴もお嬢が心の鎧を解いたことが嬉しかったんだろう。ミラー越しに狐由貴が微笑んだ。

 さて、ここからどうするかだよな。

「狐由貴、裏口にいたのは蛇水廉の近くにいた奴だ」

「わかってるわ。あたしが外に出た時にはいなかった。上手く隠れてたみたいね。今回の件に蛇水組が関わっているのは濃厚だわ」

「たぶんあいつ、あそこで俺を殺すつもりだったんだ」

「無事に失敗したわけね」

「おー、ざまぁみろだ」

 あそこで俺を殺し、狐由貴にも手をかける。そしてお嬢も攫うか殺してしまえば、蛇水組への足がかりはほとんどない。それに、あの場に純太しかいなかったのは何かあった時に切る首が、純太ひとりで済むようにするためだろう。あいつのことだ、自分が死ぬ可能性があっても笑ってるはずだ。

 狐由貴はなるべく慎重に道を選びながら、帷組本邸の方に向かっているらしい。数十分車を走らせた時、狐由貴のスマホがなった。後部座席から手を伸ばし、それを受け取ると、画面にはメガネと書かれていた。

「鷹槻さんよ、出て」

 お前、そんな名前で登録してんのかよ。


「虎鉄だ、狐由貴は運転中だから代わりに出た」

『お嬢は?』

「無事だよ」

 携帯から漏れ出る声に反応して、お嬢がようやく俺の胸から顔を上げた。

『カワイマンションに行け、狐由貴に伝えろ』

「狐由貴カワイマンションだってさ」

「わかったわ」

 俺はまだ行ったことがないが、そのマンションの数室が帷組の仮事務所になっているらしい。緊急時や仕事関係で使用する。

『お嬢に代わってくれ』

「おう」

 お嬢にスマホを渡すと、俺と話した時よりも優しい声色が微かに聞こえる。お嬢は鷹槻の声を聞いて、止まっていた涙をまた流し始めた。

「うん。待ってる」

 その言葉を最後に通話は切れた。お嬢もかなり安心したようで、座席に座り直す。

「タカも、みんな無事だって。怪我はしたけど、誰も死んでない」

「そっか」

「よかった……。本当によかった」

「ん」

 スマホをぎゅっと抱きしめる。ようやくお嬢が年相応に見えてきた。


 マンションは街中にあり、かなり階数が多そうだった。

「逆に目立つんじゃねえの?」

「ここはお金持ちも多いから、治安には厳しいの。あたし達だからここにいられるのよ」

「ふーん」

 1番上は16階。狐由貴が押したのは真ん中の8階だった。狐由貴がいうには、本邸の人間が確認した結果、ここまで新鋭組の監視は及んでいないようだ。

 シンプルにまとめられているが、部屋にはひと通りのものが揃っていた。

「このマンションは部屋数も多いから探すのは困難よ。ダミーもあるしね」

 狐由貴は部屋に置いてあったパソコンをつける。そこには廊下やエレベーター、駐車場の映像が映されている。

「確認したけど、駐車場にある車のナンバーも住人のものと一致したわ。怪しい人影もないし、とりあえずは大丈夫そうね」

「監視カメラか」

「ええ。それに鷹槻さん達が来た時に確認できるわ」

 時計をみると、時刻はもうすぐ7時。緊張が取れてきたのか腹が減ってきた。

 棚には非常食が常備されており、その中の飯を拝借した。

「あんたよく食えるわね」

「怪我したら腹減った」

「単細胞」

「あ?」

 

ここまで読んでくださりありがとうございます

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