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37話

 テストを無事に終え、短めの冬休みが始まった。三橋の部活動は夏に比べてかなり少なくなるらしく、いくつか遊びに誘われたが気軽に遊びに行くような身分でもないから、全部断った。さすがに悪い気がしたけど、今は仕方がないと思う。

 年末に向かうにつれて、本邸の人間が数人出入りをするようになった。今年の仕事の整理だとか言ってたな。

 俺もお嬢も本格的にそっちの仕事に関わっているわけではないからなにをしているのかはあまり把握できてない。

「まぁ、メインは不動産ね。あとは病院とかギャンブルもうちの組の手が入ってるのよ」

「なんか怪しいな」

「あら、けっこうあるのよ。そりゃ強奪や詐欺はれっきとした犯罪だけど、うちはクリーンな方よ。むしろ、クレーマー処理とか用心棒的な仕事もあるの」

 狐由貴(こゆき)から簡単に説明はされたけど、実際にそんなに稼げるものなのか。

「そんな表向きなイメージの裏で、殺しとかもあるけどね。あんたはしばらく関わらないから気にしなくていいわ。ずっと関わって欲しくないってのが本音ね」

「誰の?」

「さあ、誰でしょうね」

 まとめ終えた資料を机に2、3回トントンとぶつけると狐由貴はパソコンを閉じて立ち去ってしまった。それと入れ替わるように、お嬢が姿を見せる。

「虎鉄、いま大丈夫?」

「ああ」

「よかった、ちょっと来て」

 お嬢について行くと、着いたのは馴染みの応接室。ここはこの家で1番防音設備が充実しているのだと最近知った。ここを客以外に使うのは、仕事に関わる話など重要性が高い内容を伝えるときだ。

 そこにいたのは鷹槻(たかつき)犬太郎(けんたろう)、それから久しぶり姿を見る貂矢(てんや)だった。貂矢の表情は一段と苛立っており、威圧感が倍に感じられる。

 お嬢が椅子に座ると、それに合わせて俺達も腰かけた。お嬢はひとりがけにその左側の2人がけにはお嬢の近くから鷹槻と貂矢、反対側には犬太郎と俺が座った。

「テンが鬼龍(きりゅう)組について調べてきてくれた。それで、今は内部のほとんどを蛇水(じゃすい)組が仕切っていることがわかったんだ」

「しのぎの管理も蛇水組の人間だった。知らないうちにほとんどを入れ替えたみたいだね」

 犬太郎も調査に協力したのか、お嬢の言葉を補足するように告げる。鬼龍組は現組長を含めた数人の幹部以外は、蛇水組の人間で構成されたようだ。それでも鬼龍組を名乗るのは、単に蛇水組が物理的な入れ替えを行っていないからだ。

「幹部の1人に張り付いたけど、そいつも蛇水の若頭の言いなりだった」

 貂矢の言う若頭は、蛇水廉の事だとすぐわかった。

「お嬢、蛇水は鬼龍を取り込んで組を大きくするつもりですよ」

「うん。でも、鬼龍組はそんなに力があるわけじゃないよね」

「鬼龍をとれば、この組に近付きやすくなります」

「どういうことだよ?」

 俺の疑問に鷹槻は資料から顔を上げて答えた。

「鬼龍組のしのぎ場が帷組と隣合ってるところがある。それが私たちが管理している場所だ」

 他の組とのいざこざを起こさないため、自身の組や傘下の組が仕切る場所以外には極力手を出さない。それが暗黙のルールのようだ。他の領地で問題を起こした場合、自分の組に被害を出す場合があるため、下手に動く人間もいないということだ。

「鬼龍組は帷組に対して明らかな敵対行動を取ってはいませんが、蛇水組は何をするかわかりません」

「組長にこのことは伝えた?」

「それについては俺から。昨夜すぐに伝達をしました。組長からは待機と指示を頂いています」

 犬太郎が手を挙げた。犬太郎はお嬢のところ以外でも仕事をしてたから、本邸とのやり取りが多い。あくまでもこの組の頭はお嬢の祖父である組長。お嬢が自らできることは限られていた。何をするにしても組長の指示が絶対ってことか。

「蛇水の動きを警戒するのはわかったけど、貂矢はなんでそんなに機嫌が悪いんだよ」

 俺の中では、どんな仕事や事情があっても感情を表に出さない。そんなイメージが貂矢にあった。唯一動くとしたら、お嬢になにか関わることがあった時だ。

「内部の奴らの噂話」

「どんな話だったの?」

「……蛇水の若頭が、お嬢と婚約するって」

「はあ!?」

 1番でかい声を出したのは間違いなく俺だった。しかし、鷹槻も犬太郎も同じ顔をしていたはずだ。

「なんだそうなんだよ!!」

「貂矢知らない、うるさい」

 貂矢は両手で自分の耳を塞ぎながら俺を睨みつけた。犬太郎は俺の横で頭を抱えているし、鷹槻は何か考え込んでいる。そこで、俺はハッとした。あの日、蛇水に呼び出された日だ。

「私と婚約すれば帷組と蛇水組の友好関係がアピールできるね」

「その通りです」

 混乱する俺たちの中で、お嬢と鷹槻は意外と冷静だ。

「蛇水に会った時、鬼龍組は大きい組に参入したいって話してた……それで、ここらで1番大きいのは帷だからって。組長の周りはガードが硬いから、自分からお嬢に近付きたいとか」

「何故それを早く言わない」

 鷹槻の目がぎらりと光った。目を合わせなくてもよく分かる。めちゃくちゃブチギレてる。

「蛇水組がただ傘下になって大人しくするとは思えないねえ。それに加えて婚約の噂だ」

「お嬢、蛇水廉はこのまま帷組を乗っ取る気です」

「あくまでも噂話でしょ、組長がどう判断するかわからない」

 お嬢はそう言うと、話は終わりだと言うように立ち上がった。

「おい、放っておく気かよ!」

「そういうわけじゃないよ。組長に報告する」

「あんたはどうしたいんだよ」

「組長に従う。蛇水を殺さなきゃいけないならそうするし、婚約するならそうする」

「何言って……」

 お嬢を止めようと伸ばした腕は、貂矢に掴まれた。そして、気がつけば俺の体は床に倒れていて天井を眺めていた。

 いつもなら貂矢に注意をするお嬢。しかし、1度心配そうな視線を向けて、そのまま退出してしまった。

 

ここまで読んでくださりありがとうございます

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