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26話

 止めないけど、虎鉄(こてつ)にもおじょーのことわかってほしい。

 そう言った鰐刀(がくと)を残して、俺は自室へと戻る。話しながら見せてくれた鰐刀の体は、確かに硬い鱗で覆われていて、信じ難い過去が事実だと伝えられた。

 俺がここにいること。それは誰の役にも立たないし、いるべきだとも思えない。

 そもそも、なんで俺はこの組に入ったんだっけ。知らずに新鋭(しんえい)組に手を出して、助けられて、自分の身を守るためにもここの方が安全だと思った。だけど、それだけじゃない。あの達観したようなお嬢を、俺みたいにもがく所までおろしてやりたかったんだ。

 そして、いつかのように「助けてやろうか」って、あいつに言ってやるつもりだった。

「やっぱり、なんも出来てねぇじゃん」

 きっとお嬢は、俺がもう護衛をしないと思ってる。もしそこで俺がまた護衛をやり出したらどう思うだろうか。動かない表情筋がフル稼働して、びっくりするんじゃないだろうか。

 今まで、何もかも中途半端にやってきた。勉強をやりきって、高校に合格できた時、初めて安堵と達成感を得た。お嬢の護衛も、やり遂げたらまた味わえるだろうか。

 お嬢の気持ちなんか理解できない。

 でも、お嬢だって俺の事理解してない。ならお互い様だ。俺から歩み寄るつもりなんてない。お嬢から心を見せない限り、俺から心を傾けてなんかやらない。

「しかたねぇな」

 どうせ、俺も行くとこなんかないんだから。



鷹槻(たかつき)

「なんの用だ。ガキはさっさと寝ろ」

 声をかけただけなのにこの言い様。鷹槻はいつもよりご立腹のようだ。こいつ、お嬢大好きだもんな……。

「護衛、続ける」

「冗談を言うのはやめろ」

「冗談じゃない。本気で言ってる」

 書類と向き合っていた顔が、俺に向けられる。俺の部屋と違い、少し広めの鷹槻の部屋。黒や白などシックな感じでまとめられていた。いつも1番遅くまで明かりがついているから、ずっと仕事をしているんだろう。

「お前をここに入れるのは反対だった」

 パソコンを閉じて、足を組み静かに告げる。

「1人、また1人とお嬢が自分から誘う人間が増える度、反対する気持ちが大きくなった。なぜかわかるか」

「さぁね。俺はあんたじゃない。あんたの気持ちなんてわからねぇよ」

 今度は眼鏡を外した。眼鏡を外すと、いつもより目付きが悪く見える。

「お嬢は、私たちに心を砕きすぎる。お前のようなクソガキにもな」

 本当にイラつく。腹が立つ。そう言うように、語尾が強くなった。鷹槻が立ち上がって、俺の方に歩いてくる。熊井(くまい)よりも背は低いのに、目の前に立たれると威圧感は数倍あった。

「お前一人が消えたところで私にとってはどうでもいい。だがお嬢はそうじゃない。お前はここを去るにはお嬢と一緒にいすぎたんだ」

「だから?」

「だから私はお前を殺したくても出来ない。お嬢を……小夜様を悲しませることだけは出来ない」

 鷹槻の右手が俺の肩に乗った。ぎゅっと力を入れられる。悔しさや憎しみ、いろんなものが混ざっているように思えた。

「次にお嬢を傷つけたら、私はお前を殺す。事故に見せかけてお嬢が仕方がないと、自分を責めないようにじっくり計画を立ててやる」

「やってみろ。普通になんか死んでやらない。這いつくばってでも、お嬢の顔拝みに来てやるよ」

 そうすれば、最後の足掻きにはなるだろう。

「クソガキが」

「なんとでも言え」

 クソガキでも、野良犬でもなんだって構わない。自分の殻に閉じこもったあのガキが、俺という存在に動揺して、俺があいつを笑ってやれるなら。そしていつか鷹槻にも、俺がいたことに感謝するよう、務めるだけだ。

 鷹槻の部屋を出る時、そうだ、と言って引き止められる。

「虎鉄、しばらくは背後に気をつけろ」

「は? なんで」

「うちのアサシンは背後からターゲットを狙うからな」

 初めて見る鷹槻の笑みが、こんなタイミングだとは思わなかった。不敵に笑う鷹槻に文句のひとつでも言えればよかったが、俺は背後に警戒しながら自室に戻ることで精一杯だった。


ここまで読んでくださりありがとうございます

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