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24話

 俺の部屋と大差ない作りの部屋。鰐刀(がくと)の自室だった。起こしに来たことはあるが、中にまで入ったのは初めてだ。長い間住んでるから当たり前だけど、俺の部屋よりも物が多い。鷹槻(たかつき)とかに言われているんだろうが、思ったよりも部屋が綺麗に整理されている。机の上には、小学生や中学生が使うようなドリルが置かれていた。

「俺様、学校行ったことねーから、おじょーが買ってくれた。これで勉強してみろって」

「ふーん」

 机から棚に視線を動かすと、いくつもの薬が置かれていた。

「お前、どっか悪いの?」

「いや? ああ、それは生きるために必要なんだよ」

 病気じゃないのに生きるために薬が必要? わけがわからず、鰐刀を見つめた。元からこのことを話すつもりだったのか、鰐刀は躊躇わずに話し始める。



 5年前。まだ、おじょーのばあちゃんが生きていた頃だ。俺様はその頃、ある施設にいた。


 

 当時、(とばり)と敵対関係にあった組織がある。その組織は、人体実験を行い、人間兵器となる強化人種を生み出そうとしていた。俺は、その施設で生まれずっと施設ですごしていた。

 強化人種を生み出すために、施設では様々なことを行っていた。強い種同士の交配、薬の投与、過酷な訓練、別の生き物の血液などを組み込む。俺は、交配から生み出され、ある動物の特徴を得られるよう何度も手術がほどこされていた。

 その動物は鰐。皮膚の移植、輸血、臓器移植。やれることは全てやったという感じだ。俺と同じような手術をされる人間は大勢いた。そのほとんどが手術の途中で死んだ。手術が成功しても1日ももたずに死んだ奴ばかりだ。施設で話す奴なんていなかったけど、向かいや隣の部屋にいる奴がいなくなり、また新しい奴が入る。そしてまたいなくなる。それは少し寂しかった。

 俺は何度手術をしても、どんな薬を与えられても死ぬことはなかった。移植された皮膚は体のほとんどを覆うようになった。固く力を込めないと鋭い刃も通さない。銃弾は何度か打ち込まれた。最初のうちは貫通して何度も苦しい思いをしたが、ある日皮膚にめり込んで止まった。

 体だけなら、俺は最高傑作だと言われた。ただ頭が悪かった。施設の研究員の言葉を全く理解できなかったり、訓練で敵味方関係なく殺そうとしたり……。痛みで躾ようにも、俺の皮膚は固く痛みにも鈍くなった。

 俺は最高傑作から欠陥品になってしまった。そして、研究員たちの会話を聞いた。

「あいつはもうダメだ」

「処分する前に血液を採取しよう」

「では処分のこと、上に伝えておく」

 処分。その言葉は知っている。そう言われた奴はもう同じ部屋には帰ってこなかった。そんなの許せない。勝手に生み出されて、勝手に体をいじられて、死に場所も選べない。怒りで頭がいっぱいになった時、俺は目の前の鉄の格子に体当たりをしていた。2回ぶつかって壊れたそれ。警報が鳴るのと同時に、施設を抜け出そうと走り回った。警備の人間や、研究員をなぎ倒してどんどん前に進む。もう少しで出口だという所で、足に違和感を覚えた。

 まだ皮膚が柔らかい部分に、銃弾があたっていた。研究員たちが近付いてくる。こんな所で死にたくない。もっといろんなことを見たい。いろんなことをしたい。痛みや寂しさの他に、知りたいことがたくさんある。

 這ってでも外に出てやろうと、身を動かした時、目の前の扉が開いた。そこには黒いスーツを着た、気だるげな男が立っていた。

「おや? お嬢、どうやら取り込み中みたいですよ」

「責任者っぽい人いる?」

「んー、どうだろ。ねぇ、君誰が偉い人かわかる?」

 男は俺を見下ろしながら尋ねる。怪我が目に入っているのかいないのかわからないが、この状況をそんなに気にしていない様子だ。

(とばり)!? なぜここに……!」

「組長から連絡を受けて参りました。施設全体を組員が囲っています。交渉を希望されるのであれば、応じますが、どうしますか?」

 男の横から、小さな女の子が現れた。女の子の言葉に、警備員たちが武器を下ろす音が聞こえる。

「よかった。ケン、その人は?」

「足を撃たれてますね。君、立てそう?」

 ケンと呼ばれたのは横の男。しゃがみこんで俺を見つめてくる。扉からどんどんスーツの男たちが入ってきて、研究員や警備員を奥の部屋へと連れて行ってしまう。

「ケン、治療してあげて」

「わかりました」

「ねぇ、あとでお話ししよう。君に興味があるんだ」

 女の子は丸い目をしていて、綺麗な髪を持っていた。可愛くてびっくりした。

「お嬢、準備が出来たようです」

「うん、すぐ行くよ」

 研究員のようにメガネをかけた男が、女の子を連れて行ってしまう。でも、あとでって言われた。だからきっと、あの女の子は俺のところにまた来てくれる。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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