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20話

更新頻度上げられるように頑張ります。

 背後から声をかけられた。振り向くと相手はずいぶん近くにいたようだ。全く気配を感じなかったから、目の前の相手を警戒する。

「はじめまして、八坂(やさか)くん。蛇水 廉(じゃすい れん)です」

「三橋、先行ってろ」

「お、おう」

 数少ない選択授業、そしてさらに少ない移動教室時間に蛇水とか言う男は現れた。たまたま見かけたから声をかけた、という訳ではないのだろう。

「なんの用だ」

「君のとこのお嬢さんに取り次いで欲しいんだ」

 やっぱりな。伊達にヤクザに囲まれて過ごしていない。表と裏の人間の違いくらいはわかる。お嬢に用があるってことはこっち側だ。

「悪いが、俺じゃ無理だ」

「へぇ、やっぱりそうなんだね」

「やっぱり?」

 クスリと小さく笑う姿は馬鹿にしているように感じられる。蛇水は、いかにも女性が好みそうな用紙をしている。染めているのか分からないが、灰色の艶がある髪。俺よりも少し高い背は、スラリとして見える。切れ長の目は色っぽいと言う人間もいるだろう。

「君、最近(とばり)組に入ったんでしょ?」

 なにが言いたい。そういう思いを込めて蛇水を見つめ続ける。

「ただの下っ端には無理だよねってこと」

「ああ!?」

 大きい声が出てしまった。周りが気にして俺たちの方を見つめる。

「ここで喧嘩は良くない。君の主人にも迷惑になっちゃうしね。僕も彼女には嫌われたくないから、この辺にしておくよ。じゃあまた」

 両手を小さく上げ、ヒラヒラと振ってみせる。目を細めうっすらと笑う姿は不気味さを感じさせた。踵を返し背を向けてからも、冷たい気配が残る。恐らく同業者。そして俺よりも遥かに長い間、その世界にいる。俺は最後まで、握りしめた拳を開けなかった。



「蛇水廉……、確かにそう言ったのか」

「ああ」

 帰りの車内。さっそく男のことを鷹槻(たかつき)に報告した。鷹槻とお嬢は複雑な表情を浮かべる。

「なんかまずいのかよ」

「そこまでは。でも警戒は必要かな」

狐由貴(こゆき)に連絡を入れておきます」

「うん、お願い」

 鷹槻がすばやく動き出す。やはり何かあるようだ。お嬢の顔が一段と曇っていく。あいつは真っ先にお嬢のことを聞いてきたから、面識があるのか? なら俺を通さずに直接お嬢の元に行けばいい話だ。

「何なのか、聞いていい?」

「もちろん。詳しくはまた調べてからだけど」

「いいよ、さらっとで」

 予想通り、蛇水はヤクザの家系だった。鬼龍(きりゅう)という大型組織の傘下だが、行動や組織はほぼ独立していると言っていい。その動きもここ数年で始まったようだ。

「ちょっと前に組同士の縄張り争いが激化したの。鬼龍組はいろんな組を取り込んでたから、裏切りの嵐。蛇水組は側近として動いたみたいだけどね」

 鬼龍組からの信頼があるのだろう。今では蛇水組が先頭に立つことが多いようだ。

「蛇水廉って人は蛇水組の跡取り。個人的な交流は無いけど、見かけたことならあるよ」

虎鉄(こてつ)、お嬢には絶対に近付けるな」

「わかってる」

 この情報を聞いてなかったとしても、お嬢には近付けなかっただろう。あいつに見られていると、常に刃を向けられているような感じがした。

「虎鉄が入る前に確認したはずなのに……。タカ、ユキのせいじゃないから怒らないでね」

「わかりました」

 どういう家系の子供がいるか、部活はなにか、交際関係はあるか、様々なことを調べ尽くし重要人物だけを叩き込まれた。確かに、その中に蛇水という人間はいなかったと思う。

「俺みたいに転校とかしてきたのか?」

「その可能性はあると思うよ。でもそうすると、目的が気になる」

「お嬢に会うためだろ?」

 実際、あいつはお嬢に会いたがっていた。会うためだけに入ってくるなら大したもんだ。

「会うだけなら彼に利益は何もないよ。私はただの顔見知りの仕事を引き受けたり、話を聞いたりもしないから」

 だから目的がわからないってことか。

「蛇水組は鬼龍組の忠犬とも呼ばれてた。だからあいつらが動くってことは、鬼龍組になにかあるかもしれないな」

 鷹槻が付け足すように助手席から話す。鬼龍組には若いのがいないのか、お嬢と接点を持つのは難しいんだろう。お嬢は学校以外だとほぼ外にも出ないし、組同士のやり取りに顔を出すことも少ないから余計に難しいだろう。

「お嬢の警護、増やした方がいい?」

「クマありがとう。まずは様子見がしたいから、準備だけしておいてくれる?」

「は〜い」

 家に着くと同時に、熊井(くまい)が運転席からひょっこりと顔を出す。

「俺だけじゃ不十分かよ」

「そうじゃなくてー、だってお嬢が安全ならその方がいいから」

「大丈夫、虎鉄はちゃんと護衛してくれてるよ」

 冗談で言ったが、熊井は目じりを下げ焦りを見せた。それに対しお嬢も真面目にフォローをするから、少し笑ってしまった。

ここまで読んでくださりありがとうございます

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