14話
なんだ。なんでこいつは俺の前でベラベラと喋ってんだ。
「そんでさ、入ってみたら金持ちばっかで正直文化の違いというか、常識の違いを感じたわけよ」
入学して2日目。お嬢に合わせて登校してみれば、朝練終わりの三橋が俺の席まで真っ直ぐやってきた。
「そうだ。八坂は昨日どこで飯食った? 食堂の場所わかったか? なんなら俺が案内するぜ」
「なんでそんな気にかけるわけ?」
三橋は見た感じ、友達がいないわけじゃないように思える。さっきも教室まで、部活仲間と騒ぎながら来てたしな。
「いや、ほら。八坂は途中入学だし……それに」
話も途中で、三橋は言葉につまる。その先になかなか進まない。
「それに、なんだよ」
「気、悪くすんなよ。なんか、八坂って金持ちに見えないって言うか。俺と同じく普通の家庭で育ってそうだなって。仲間意識ってやつ」
確かに俺は金持ちじゃない。でも、普通の家じゃない。俺より不幸な家庭は山ほどあるだろうが、こいつが想像しているような家庭では無い。それを言う必要はないな。
「ま、金持ちではねえよ」
「だよなー! はああ、よかった」
本当に息苦しかったんだろう。学生っていう同じ立場だとしても、生まれ持った権力、財力によって人の価値観ってのは違ってくるし。その中で三橋は笑顔で過ごしていたんだ。少し尊敬できるかもしれない。
「八坂、俺と友達になってくれよ!」
「は?」
「寄り道とか、なんか買いに行ったりとか。周りの奴らにそういうの出来るやつ少なくてさ」
いわゆる普通の高校生のように遊びたいということか。この学校に通うほとんどが金持ちの子供。放課後は習い事だの、家の迎えだの、うちのお嬢と同じように自由があまりない。それがここの生徒の普通なんだろう。
「悪いけど、俺も自由に使う時間は少ないんでね」
「あ……護衛、か?」
「そういうこと」
「たまに遊ぶのは?」
「どうだろうな」
そもそも1人で出歩くのはまだ許可されてない。新鋭組のことがあるからだ。それに俺のトラブルに無関係の三橋を巻き込むわけにはいかない。
「八坂も大変なんだな」
「かもな。けど、話ぐらいはしてやるよ」
「うわ、上から目線」
HRが始まるまで続いた三橋との会話は、緊張感の欠片もなくてただ単純に楽しかった。
自分がただの男子高校生のように思えて、生活も立場も何もかも忘れて、頭空っぽにして、ただ笑えた。
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「じゃあその三橋くんって子が、虎鉄の初めての友達だ〜」
「いや別に、友達ってわけじゃ……」
夕食後の皿洗い。今日は熊井と当番が被っていた。熊井はおっとりとした話し方で、今日は何をしたのかなんて、世間話をする。熊井は食材の買い出しでおまけをしてもらった話、俺は学校での話。今日は必然的に、三橋の話が多くなった。
「友達じゃないの?」
「……どっからが友達なのかわかんねえんだよ。熊井はいんの? 友達」
「いたよ〜。もう名前も忘れたけど」
「それって友達って言えんのかよ」
顔も出てこない人間なんて、赤の他人に等しいだろう。熊井のことだから、すれ違っても気が付かないんだろうな。組にいることに違和感を覚えるぐらい、のんびりとした奴だ。だから、友人はかなり多いと思ってたけど、本人はあまり他人を友人だとか、ライバルだとかそういう風に認識しないのかもしれない。
「なんで友達やめたんだよ」
「ん? うーん……」
熊井が最後の1枚を流し終わり、俺はそれを受け取ってタオルで拭く。今日は揚げ物だったから少し油に手こずった。くまは台所にある小さな窓を見つめ、寂しそうにため息をついた。
「僕ね、昔お花屋さんだったんだ」
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