11話
「制服は普通なんだな」
「まぁ変なの作っても学校の印象悪くなるだけでしょ」
玄関で鰐刀と犬太郎が話している。話題は俺が着ている制服について。新品のブレザーは少し固い。
お嬢の休みが開ける1週間前。俺はお嬢の通う、西才華学園の試験に合格し、入学することができた。犬太郎や狐由貴はやたらと喜んで、その日は熊井が豪華な料理を用意してくれた。何も言ってなかったけど、鷹槻が少し安心したような顔をしていたから、ちょっとだけ誇らしく思えた。
そして休み明け初日、今日からお嬢と一緒に通うことになる。
「虎鉄の分だよ」
のっそり現れた熊井からはお嬢の3倍はあるであろうお弁当を渡される。
「サンキュー」
パンフレットには立派な食堂が載っていたが、どうやらうちは弁当持参のようだ。熊井の飯は美味いから文句はないけど。せっかくだからと、お嬢が来ていないうちに聞いてみる。
「学食とか食べねえの?」
「……お嬢は、僕らの作ったものしか食べられないから」
「なんで」
「それはまた今度ね」
はぐらかされた。考える素振りを見せていたから、話していいのか熊井個人では判断が出来なかったのだろうだろ。それなら無理に聞くつもりは無い。
「行くぞ、カバン持て」
話し終わって数十秒後、鷹槻とお嬢がやって来た。今日の送迎は鷹槻と鰐刀だ。俺の制服と色味の似たスカートの制服。暗めのグレーで、白いリボンタイをつけている。スカートの裾にはさりげなく横ラインが入っていて、それとなく可愛さを演出している。高等部の方が地味な印象だ。
「お嬢、お弁当〜」
「ありがとうクマ。今日も残さず食べるね」
俺に渡したのとは別の弁当。やはり小さい。お嬢の体の大きさを考えても少なく感じた。
「足りんの?」
「うん。これで十分」
受け取った弁当を大切にリュック型のカバンにしまうと、背中にまわした。小さな背中には、黒いカバンが重そうに見える。
「それではお嬢、行ってらっしゃいませ」
「虎鉄! 頑張れよ!」
「はいはい……」
車内でも騒がしかった鰐刀は、別れる寸前でも騒がしい。
「迎えはいつも通りに。虎鉄、昼もお嬢の護衛を頼むぞ」
「わかってるって、昨日散々聞いたわ」
仕事内容は移動教室、屋外授業、昼食時の護衛。頻繁に小等部に出入りすることになるがそれは学校も了承済みだし、数えるきれる程度だが、同じように護衛を兼ねている学生もいる。初めての仕事らしい仕事。それなりに張り切ってはいた。
鷹槻と鰐刀と別れた後、まずはお嬢を教室まで送らなければならない。
俺が通っていた学校のように、屋内で上履きを使用する必要もなくお嬢と同じ小等部の玄関から入った。すれ違うのはみんな俺よりも小さいガキたち。金持ち学校だから、お嬢のように大人びたガキが多いのかと思っていた。しかし意外なことに、小学生らしくはしゃぎ回るガキの方が多い。
「虎鉄、ここまでありがとう」
「はいよ。じゃあ昼に来るわ」
「うん。初日、頑張って」
お嬢は誰にも挨拶せずに自分の席に着いた。それを確認してから俺は高等部の方へ向かう。学校が広い分、少し移動が大変だが小等部を中央に、それぞれが渡り廊下で繋がっているため、場所を把握しきれればそんなに苦ではないだろう。
だが、小等部のガキ共の視線が少しうざったい。確かに、小等部に高等部の制服を着た人間がいれば珍しがるだろうよ。はっきりと護衛です、とでも言ってやろうか。
高等部に着いて最初に見えるのは職員室。初日に立ち寄るように言われている。担任には少し前に挨拶をしたため、職員室に入ってすぐに見つけられた。
「十倉先生」
「ん? 八坂くんか。おはよう」
担任の十倉。40代そこそこの見た目をした男だ。俺も選択をした日本史を担当しており、穏やかそうな笑みが特徴的だ。身長は俺よりも低く、物腰も柔らかい。
そして、八坂というのは俺の偽名だ。八坂は帷組が使用する偽の戸籍のひとつらしい。お嬢の部下は全員この八坂を使用する。犬太郎曰く、裏社会には裏社会の常識があるらしい。つまり、これは常套手段というわけだ。
「今日は初日だね、緊張してる?」
「別に」
「ははは! そっかそっか」
ここの高等部の生徒数は500ほど。都会の学校にしては少ない方だと思う。そもそも金額的な問題で入れる人間が限られている。ほとんどは小等部からのエスカレーターで、高校から入るにはかなり入試が難しいらしい。俺、よく受かったな。実は頭が良いのかもしれないと合格通知を見て感動した。編入の方が入試よりは簡単らしいが。
「よし、じゃあそろそろ行こうか。1年A組が君のクラスだよ」
「うすっ」
基本は1クラス25~30人程度。俺の入るA組は俺を含め26人になるらしい。男女比はその年によってばらばらだが、この学年は男子の方が少し多いようだ。
高等部ともなると小等部のような騒がしさはなく、落ち着いた様子の生徒がよく見られる。育ちが良さそうに見える学生はすれ違う十倉に対し、1度止まってお辞儀をする。洗礼された動きに、将来お嬢もこうなるのかと想像をしてしまう。
「じゃあすぐHR始めるから一緒に入ろうか」
クラスメイトはどんな奴なのかとか、どんな反応をされるのかとか少しの緊張とワクワクを感じた。
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