8.決着
―――U歴350年5月21日―――
サランの体調はすっかり良くなったので、出発した。
体力的には少し不安が残るが、進むペースを落として、早めに休憩をとることにした。
体力を回復させるには動き回る方がいいし、俺の土魔法で、安全なテントを作ることができるようになったから、ここに残る必要がない。
この2日間、リハビリしながら、サランと戦闘訓練を続けた。
あの2体のホーンボアを倒すためだ。
約1時間ごとに休憩しながら森の中を走っていると、5回目の休憩の時に、サランが何かを感じたようだ。
「2体が追ってきているよ。あと1分くらいで遭遇しそう」
俺は頷くと2人で決めた作戦通り、木に登り足場を確保し、土魔法で武器を生成して準備する。
左手にストーンレールガン、右手に投げやり。これがサランと研究した俺の戦闘スタイルだ。
俺がけん制と槍でダメージを与え、サランが敵を引きつけつつ、すきがあればストーンキャノンでとどめを刺す役だ。
木々の奥から2mを越える高さのイノシシ型の魔物ホーンボアが2体、勢いよく飛び出してきた。
視界にサランを捕らえると、一直線に突っ込んでくる。
サランは木の周りをまわりこみながら、うまく突進をかわしている。
俺はストーンレールガンで2体が近づきすぎないようにもう1体をけん制する。
ここ数日の特訓でストーンレールガンの威力、精度も向上し、命中するとホーンボアは軽く悲鳴を上げて突進を止め、回避行動をとる。
サランが引き付けている1体は、サランを仕留めようと突進を繰り返すが、うまく躱されてバランスを崩す。
「今だよ!」
サランが叫ぶと同時に俺は渾身の力で魔力を乗せた槍を投げる。
一直線に飛んでいった槍は見事にホーンベアの首のあたりを貫通し、地面に突き刺さった。
ホーンベアは血を流しながら、地面に倒れこんだが、すぐに起き上がろうとする。
「させない!」
俺は少し太めにした槍を力いっぱい投げ込むと、立ち上がろうとしていたホーンボアの尻に突き刺さった。
後ろ脚に力が入らず、うまく起き上がれなくなったホーンボアにサランがストーンキャノンを頭部に食らわせて、とどめを刺す。
「やったよ!」
大声をあげて喜ぶサラン。
「もう1体が右手から向かってきているぞ!回避だ!」
サランはすぐに俺の登っている木の方に走ってきた。
俺はストーンレールガンを乱射すると、嫌がって突進の勢いが弱まってきた。
サランは俺のいる木の後ろに回り込み様子をうかがっているが、ホーンボアは、俺に注意を向けているようで、サランを追いかけて来ない。
さらにストーンレールガンを連射すると回避しながら木から距離をとって膠着状態になった。
サランが、木から離れて、ホーンボアの死角にうまく移動できたようだったので、槍をホーンボアの足元に投げつけると、警戒して、さらに距離を取ろうとした。
サランはそのタイミングを見計らって、ホーンボアにストーンキャノンを打ち込んだ。
うまく胴体の下の辺りを貫通し、血が噴き出す。
後ろを向いて逃げ出したが、サランが2発ほど追撃を打ち込むとその場にズーンと倒れこんだ。
「やったよ!」
「サラよくやったよ。すごい!」
「コースケのけん制のおかげだよ。ホーンボアが突進を止めるほど嫌がってたから、かなり有効だったよ。でもお肉を全部持っていけないね。すごくおいしいのにもったいないよ」
「俺が空間魔法を使えれば収納できるかもしれないけど、まだできないんだ」
「仕方ないよ。空間魔法は私も見たことがないよ」
2人で移動の邪魔にならない程度の肉を持って、移動を再開した。
5日後、ついに森を抜けた。
―――U歴350年5月26日―――
「さあ、ニル魔導国の国境までもう少しだよ。東王国側の国境の街はリガシュと言ってそれほど大きくないけど、ニル魔導国側の街のラウドラはかなり大きな街だから賑わってるよ」
森を抜けて少し余裕が出てきたので、サランにいろいろ教えてもらいながら進むことができた。
「さっきまでいた森はラファーガの森と言って、ラファーガという伝説級の魔物の住処なんだけど、ちょうどその縄張りの境界を通ってきたから、通常の魔物も警戒して少なかったんだよ。ラファーガは魔物にとっても恐怖の対象だからね。これからラウドラまではこの草原を突っ切ることになるけど、魔物は今までよりも少し増えるよ」
結局、森ではホーンボア3体と戦っただけだったし、戦闘に自信がついてきたから、どんな魔物が出るか少し楽しみだ。
今向かっている連合国は9つの国が集まって、一つの国になっているようだ。
連合国の更に西側には、国土がこの国の数倍はあって、歴史も古い王国があるため、今いるこの国は通常、東王国と呼ばれているらしい。
「東王国は正式名称をロードストーリビリア王国と言うんだけど、長くて言いにくいから、この国の人たちも東王国って言うよ」
長くて覚えにくい名前だが、俺が殺しかけたあの王様はそういう苗字なんだろう。
それにしても、俺の追手は本当にいるのだろうか?これまで、魔物の脅威以外は感じられていないな。
「今、街道を大きく外れて歩いているから追手と遭遇することはないけど、ラガシュで、コースケは逃亡者として手配されていると思うから、用心が必要だよ」
草原を歩き始めてすぐにホーングラスホッパーという魔物が現れた。
一角獣のような角が生えた大きなバッタだったけど、意外に強くて苦戦した。
サランの風魔法でじりじりと削って倒したが、素早くて俺のストーンレールガンも槍も当たらなかった。
「ふーっ。何とか倒せたけど、少し疲れたよ。魔力も消費したから休もうか?」
ちょうど昼休憩の時間なので土魔法でテントを張って休むことにした。
「コースケの土魔法テントはすごいよ。魔物に襲われてもびくともしなさそう。安心して休めるから助かるよ。ありがとう」
サランの言葉に思わず笑みになる。
魔法がほめられるとうれしいし、もっとやる気になってきた。
早く魔法の先生を見つけて教えてもらいたい。
その後、ホーングラスホッパーだけでなく、トゲトゲがある大きな芋虫のスパイキーワーム、角が生えたテントウムシみたいなレディボーイバグなどの魔物と遭遇しながら、順調に旅を続け、5日後、ついに国境の街リガシュに到着した。