6.けが
昼ご飯は小さな湧水が出ている沢のほとりで食べた。
その湧水を飲んでみると日本のコンビニで売ってる天然水とは比べられないほど美味しかった。
ホーンボアの肉も一切れを火にあぶって食べてみたが、まるで和牛の赤身のような味がした。
「うまい!」
思わず叫ぶとサランが笑顔で答えてくれた。
「おいしいでしょ?本当はココカラスの実の調味料を使って食べるともっとおいしいんだよ。今はないけどね」
「今度食べさせてくれ」
「うふふ。わかったよ。今度ごちそうするよ」
サランとデートの約束ができた。
「少し、休憩したら出発するよ」
沢のほとりの木に腰かけて休む。
サランは片づけをしたり、沢の水を汲んだりして、動き回っていた。
先ほどサランのストーンキャノンをまねてみる。
尖った円錐をぐるぐるドリル回転させて、ピストルの弾のように飛ばしてみる。
木を狙ったのにうまくコントロールできずに大きく外れる。
「コースケ、私はね、飛んでいく方向調整と威力を増すために風魔法を使っているんだよ」
サランは言いながら実演してくれた。
なるほど、風魔法で風の渦巻きを作り、それを銃身のように石の通り道にして、それを通過するときに回転を増して、まっすぐに飛ぶように調整している。
「能力が発現していない魔法も練習すれば使えるようになることが多いよ。全く才能がないとだめだけど」
俺にもいつか風魔法が使えるようになるかもしれないが、今すぐは使えないので、何とか土魔法で威力を上げる方法を考えよう。
沢を出発してからは魔物と遭遇することもなく、順調に進むことができた。
サランは何度か魔物の気配を感じたようだが、あえて、戦う必要もないので、避けてきた。
「今日はこの辺りで泊まろう」
大きな岩が2つ重なるように立っていて、その隙間に入り込めそうだった。
サランが風魔法で掃除をするように風を吹き付け、土魔法で少し地面を整えるようにして、2人寝転がれるスペースを作り出した。
「スゲー便利だな。土魔法は」
「コースケもすぐにできるようになるよ。今日はここを寝床にするけど、入り口を塞ぎたいから、コースケが魔法でやってみて」
サランはそういうともう片方の入り口の前に立ち、
「ストーンウォール」
と唱えると、見る見る地面から土がせり出して壁を作り出した。
「さあ、コースケもそっち側をお願い」
何となく魔力で地面を掴んで、引っ張り上げるような感じで何度か試してみると、すぐに1m四方くらいの壁ができた。
「君、本当にすごい才能だね……」
サランが呆れるように言うが、俺はこの土を引っ張り上げる感覚が面白くて、大きさを変えたり、厚さを変えたり、硬さを変えたりして、いろいろな壁を試してみた。
もしかしてと思って、壁を4枚発生させ、テントを作ってみる。
何とか一人が横になれる程度の大きさだが、夜風や雨は防げそうだ。
「あ~楽しいな。もっといろいろ作れるか試したい」
「晩御飯を食べてからにしなよ。そろそろ魔力切れの症状も出てくるよ」
言われてみると少しめまいがするので休むことにした。
晩御飯には、ホーンボアの肉をたっぷりと食べて、寝る前にまた魔法を練習した。
何とか、ストーンキャノンの威力を上げて、魔物をけん制するだけでなく、魔物を倒したい。
回転させたストーンキャノンの弾を土魔法で作った石の筒を通して打ってみる。
軌道はまっすぐになったが威力は弱いので、いろいろ検証を始めた。
試行錯誤の結果、レールを2本作り、その上を少し幅広にした手裏剣のようなストーンを撃ちだすような作りにした。
名付けて「ストーンレールガン」
砲身のように生成するのに時間がかかるし、石に螺旋の回転をつけると長距離では飛行が安定するが、短距離での威力にそれほど変化がないため、回転させず、質量を大きくして威力を上げた。
試しに木に打ち込むと1発1発が木を削って傷をつけ、30発ほどで、1本の木を倒すことができた。
「本当にすごい才能だね。でもほらもう魔力切れでふらふらじゃないか?こっちにおいで、お休みの時間だよ」
サランに言われるままにふらふらと寝床に入り、ぐっすりと寝た。
―――U歴350年5月14日―――
翌朝、朝食をとっていると、サランが反応した。
「魔物が近づいて来ている。コースケ、岩陰から援護して」
俺は岩をよじ登り、地面から2mくらいの高さに土魔法で足場を作って、魔物の襲撃に備える。
現れたのは大きなホーンボアだ。昨日倒したホーンボアの2倍はあり、今の足場よりも背が上にある。
早速、ストーンレールガンを打ち込んでけん制すると、それなりに効いているらしく、嫌がって離れていく。
サランがストーンキャノンで攻撃するが、このホーンボアはスピードもありなかなか致命傷を与えられない。
俺も必死でけん制して、何とかサランの攻撃が当たりそうなところにホーンボアを追い詰めることができた時、サラの背後からもう1体ホーンボアが現れた。
前方攻撃態勢でいたサランは、その新手のホーンボアの角の突撃を何とか避けて串刺しになるのは防いだものの、体当たりをまともに食らって、宙に投げ出された。
「サラン!」
サランは地面を転がりピクリとも動かなくなった。
まずい。早く助けないと。
ホーンボア2体がサランに近づかないようストーンレールガンを連射する。
やはり当たるとそれなりに痛いようで、嫌がるそぶりを見せる。
しばらくすると攻めあぐねたのか、満足したのか、2体は去って行った。
急いでサランの元に駆け寄り、声をかける。
「サラン、大丈夫か?声が聞こえるか?」
全く反応がない。
鼻に手を当てるとまだ呼吸はしている。
何か所か擦り傷はあるが大きく裂傷を負って、血が流れ出ているようなところは見当たらない。
とにかく岩の寝床に寝かせよう。
サランを抱き上げて、昨晩一夜を明かした岩の間に入り込んでサランを寝かせ、手元が見える程度の明りが入り込む隙間を空けて、入り口を土魔法で封鎖した。
生命魔法をやってみるしかないな。
寝る前に自分の身体に魔力を循環させたときの感覚を思い出しながら、その魔力を少しずつサランの体内に注入するようにした。
魔力がサランの身体の隅々にいきわたり、細胞が活性化するようなイメージを魔力に乗せて流してみる。
しばらくするとサランが痛がるようにうめき声をあげたので、魔力の出力を下げて、ゆっくりと流し続けた。
途中、サランが何度か血を吐いたので、中断しながら治療を続けると1時間ほどで呼吸がずいぶん安定し、血も吐かなくなった。
俺は続けてゆっくりと魔力を流し続けた。
さらに4時間が経過したが、サランはまだ目を覚まさない。
しかし、俺の魔力も枯渇気味になり、何よりも腹が減って、魔法を継続できなくなってきた。
サランの呼吸はだいぶ安定してきているので、一旦、治療を止めて、腹ごしらえと休息をとることにした。
土魔法で小さなバーベキューコンロのようなものを作成して、サランのやっていたことをまねて、着火石で火を着け、ホーンボアの肉を焼く。
煙は岩間の外に抜けるように土魔法でフードと配管のようなもの作成した。
魔力が残りわずかになったので、肉を食べて、仮眠をとった。
サラン、絶対に助けるからな。