48.ウホロヴォ
神殿に乗り込んだ時、その奥の方でまばゆい光が、天に上るのが見えた。
「コースケ、まずいかもしれん。急ぐぞ」
これまで、敵への遭遇に備えて、慎重に進んでいたが、パドラさんに言われて、一気にスピードを上げる。
「異世界人召喚に成功したんでしょうか?」
「どうかな?さっきまであった膨大な魔力が嘘のように消えている。召喚術が終わったのは間違いないだろうが……」
4人は神殿の広い通路を抜け、大きな広間に出た。巨大魔法陣が描かれた召喚の間だ。
その中心で何か巨大な生き物が動いているのが見えた。
「随分と大きな日本人だな、角まで生えてるぞ」
パドラさんは日本人で押し通したいようだ。
「パドラ、あれはたぶん異世界の魔物ウホロヴォ。400年前に1度、闇宗教の団体が召喚して、獣人国に現れたという伝説が残っている」
「僕も聞いたことあるよ。獣人の勇者が倒したんだ」
「弱点は何かあるのか?」
「勇者は光の剣で倒してたよ」
うーん、少ししか光らない剣ならある。まあ、何とかするしかないな。
「パドラさん、俺が前に出ますんで、動きを止めたら、いつものやつお願いします」
「わかった。最大出力のストーンキャノンを決めてやるぜ」
「パドラさん、竜じゃないんで、出力抑え目、弾数重視でお願いします」
「おう。まかせとけ」
俺は収納空間から、パドラさん用の弾丸を40発ほど取り出して、地面に置いた。パドラさんが作ったのを預かっていたものだ。
そして俺用の武器も取り出す。
俺のカルザン領神聖国侵攻部隊隊長就任祝いで、パドラさんにもらった俺専用の日本刀だ。
パドラさんが、3日ほど魔力を込めて、丹念に作った逸品で、作った本人もその出来栄えにびっくりしていた。
「俺はなんて恐ろしいものを作ってしまったんだ……」
何でも分子レベルで物質と魔力のコントロールが奇跡的にうまくいったらしく、アニメのセリフのような言葉をつぶやいていた。
俺はその剣に『鬼切丸』と名付けた。
鬼切丸に魔力を通すと鈍い光を放ち始めた。光の剣と言えるほど眩くはないけど、一応光ってるからいいだろう。
さあ、準備完了だ。
魔物ウホロヴォに向かって、ゆっくりと進んで行くと、尻餅をついて、後ずさる男がいた。
「いったい何を召喚したんだ?」
男がこちらを見た。50歳くらいで随分と仰々しい服を着ている。
こいつが教皇か?
「誰だ?カルザンか?」
「ああ、お前は教皇アゾスで間違いないな?」
「いかにも」
「で、あれは何だ?」
「異世界人召喚に失敗した。やったのはベルゼマという男で、すでに魔物の腹の中だ」
ウホロヴォは新しく現れた敵を警戒しているのか、動きを止めてこちらを窺っているようだ。
「大司教のオルネーが召喚をやったんじゃないのか?」
「オルネーは閉じ込めておる。それよりもカルザンの、やつを倒せるか?」
「さあ、どうだろうな?そろそろ来るぞ!」
ウホロヴォが動き出し、こちらに向かってきた。
思ったよりも早い。
けん制で『ストーンキャノン』を連射するが、まるで効果が無いようだ。
あの体毛は防御力も高いらしい。
よし新しい魔法を試してみよう。
『メテオ』
空間魔法で上空に大きな岩を発現させ、一気に魔物にぶつける。
この魔法の発想は俺とパドラさんだが、リーリン先輩とラウラーラ師匠が実現してくれた。
大質量の岩の攻撃に、さすがに無傷では済まなかったのか、ウホロヴォは下がって体制を整えていた。
俺は、『クイック』で速度を上げて、一気に距離を詰める。
4本の手が俺を殴りつけようと動くが、かわして、その中の一本に鬼切丸で切りかかった。すぅっとバターに温めた包丁が通る感じで腕が切断された。
なんちゅう切れ味だ……
切られた腕が痛むのか、ウホロヴォは、大きな声を上げて、叫び、口を大きく開いたままこちらに向いた。
口の前で小さく赤い火花が散ったと思うと、赤いレーザーのような咆哮破がこちらに向かって飛んできた。
はやっ!
何とか回避して、剣を構えると、大きく飛び上がったウホロヴォは、俺に向かって、上から体をぶつけてきた。
大きく回避するもウホロヴォが下りてきた衝撃で地面が大きくえぐられ、俺の身体もまた、その衝撃で吹き飛ばされた。
ふと見ると、教皇が見当たらないが、少し離れたところから、サキさんが手を振っていたので、無事捕らえたのだろう。
教皇を気にしなくてよくなったので、威力が大きな魔法を使おう。
これはパドラさんのお婆さん、ライラさんと、ラウラーラ師匠と一緒に作った火魔法と土魔法の混合魔法だ。この魔法は森などでは使えず、近くに建物があっても危険だが、ここは建物に囲われているけど、広い広場のようになっているので大丈夫だろう。
ウホロヴォに対して、『アイススピア』を連射する。
ダメージはないが、一瞬、足を止めることはできた。
俺は片膝をついて、地面に手を当てると呪文を唱えた。
『ヴォルカニック エラプション』
前方に1mほどの穴が開き、中から赤いマグマが噴き出して、一直線にウホロヴォに向かって行った。
ウホロヴォは、魔物の本能なのか大きく飛び上がって、マグマを避けるとそのまま後方の建物まで回避した。
う~ん。回避されたか、やはりもっと逃げる場所がないところで、大規模にやらないとダメだなあ。この魔法は、1対1には向かないな。
期待したような戦果は出なかったが、奴の周りの地面は高熱のままなので、しばらく奴は下りてこれないだろう。
思った通り、奴は建物の上から、赤いレーザー咆哮を繰り返して発射するだけで、こちらに向かってこなかった。
「パドラさん、そろそろいいですか?」
「ああ、いつでもいいから、足止め頼むぞ」
「わかりました。拘束魔法で捕まえますんで、お願いします」
「サラン、サキさん、少し奴の気を逸らしてください。俺が反対側から捕まえるから」
「うん」
「うん。任してよ」
サランとサキさんが建物を飛び移りながら、ウホロヴォに近づいていく。
サランはサキさんに体術の指導を受けていた。今、体術ならこの2人にかなうものはいない。回避に集中されたら、誰も攻撃を当てることができない。
だからウホロヴォに近づいても安心してみていられる。
俺は、奴が神殿の外に逃げ出さないように、退路を塞ぐようにして、奴の背後に近づく。
サランとサキさんは、奴の3本の腕攻撃をかいくぐりながら、巧みにウホロヴォを誘導して、俺の前まで連れてきてくれた。
よし、今だ。
『トライアングル サークルケージ』
ウホロヴォを中心とした空間に3重の光の輪が生じると、一気に収縮してウホロヴォを拘束した。
俺もサキさんもサランも離脱しようと、急いでウホロヴォから距離をとった瞬間、パドラさんがいる方角から、光がはなたれた。
空気を切り裂く爆音がしたかと思うと、ウホロヴォは、一瞬にして、肉片になり果てていた。
あいかわらず、とんでもない破壊力だ。




