47.異世界人召喚
深夜近くになって、何とか座標特定用の異世界人4人の召喚が終わり、休んでいるとアゾスが召喚の間に乗り込んできた。
「すぐに戦力となる異世界人の召喚を始めるんだ」
「無理だわ。もう魔力がありません」
「だったら、君たちには任せられない。すぐに出ていくんだ」
「ちょっと、私たちがやらなければ、一体だれが召喚するのよ?」
慌てて、理由を聞くと、アゾスは余裕ありげな表情で言い放った。
「この召喚魔法陣を扱えるものはほかにもいる」
「神聖国の召喚術の先生では東王国の術式は使えないわ」
ララノアがいうことはその通りで、私たちに召喚術を教えてくれた神聖国の召喚術師ではできないだろう。
「ちゃんと東王国から連れてきているさ」
そこで、入り口から入ってきたのは、知らない男だったが、ララノアがびっくりした表情をして言った。
「ベルゼマ……神官長……どうしてここに?」
「彼は、混乱した東王国から逃れて神聖国まで来た。どうしても召喚魔法の研究を続けたいそうだ。ベルゼマこの魔法陣は動かせるか?」
「はい。問題ございません」
「じゃあ、やってもらおう。東王国式で構わんから大量の強力な能力を持った異世界人を召喚してくれ」
「安全用の術式を解除すれば、異世界人の生存率は下がりますが、東王国の物よりも大きな魔法陣ですので、強力な能力を持つものが何人も生き残るかもしれません」
その言葉に戦慄が走る。私を召喚した時と同じような大量召喚術、一度に30人召喚されて、私一人しか生き残らなかったあのやり方を、この巨大魔法陣で試せば、いったい何人の異世界人が死んでしまうかわからない。
「それはダメよ。人が死ぬわ。少し待てば、安全に召喚できるわ」
私の声を聴いたアゾスが怒鳴り声を上げる。
「だまれ!異世界人など獣人やエルフと変わらん。人ではない者が何人死のうと関係ない!」
アゾスの言葉にびっくりする。私はこいつのことが苦手だったが、ここまで狂ったやつだとは思わなかった。
「お前たちを拘束するのはやめておく、7大聖人や他の孤児院出身者が動揺するからな。神殿の奥に軟禁しておけ!ベルゼマ、すぐに召喚に取り掛かれ!」
兵に周りを取り囲まれたが、私と娘は催眠以外の能力が弱く、兵に抗うことができない。
何もできずに捕らえられて私と3人の娘は、神殿の奥まで連れていかれた。
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深夜を過ぎた。
サラン、リーリン先輩、ナレンダ師匠、ラウラーラ師匠、ケンブ、シブレー、それに、パドラさんとサキさんを加えて、俺たち9人は神殿に侵入するための行動を開始した。
目的は、教皇アゾスと大司教オルネーの捕縛だ。
宗教国家なので、いきなり教皇や大司教の殺害が、今後の信徒、国への影響を予測しづらい。その為、できるだけ捕縛という形をとりたい。
神殿に続く道を警戒しながら進んでいると、目の前に5人の女が姿を現した。
全員が白い修道服のようなものを着ていて、シブレーの服装とよく似ていた。
彼女たちが7大聖人で間違いないだろう。
「ここは通せません。神の名の元に粛清します」
身構える5人の女、それを見たシブレーが前に出た。
「神に抗う者が神の名の元に粛清などおこがましいですよ。アスティお姉様」
「シブレー、あなたこそどうして神を裏切ることができるの?」
紫の髪のすらっとしたアスティと呼ばれた女が、シブレーを問い詰める。
「彼こそが本当の神ですよ。あなた達こそ神に敵対して正気でいられるなんて、信じられません」
「話しても無駄ね。皆、やるわよ」
その声と同時に5人が動き出す。
「コースケや、神殿の中で、大きな魔力が集まっているようじゃ、早く行った方が良いかもしれん」
ラウラーラ師匠が何かを感知したようで、神殿に急ぐように言う。
「パドラ~、私もそう思うよ。何か良くない感じが神殿の奥で始まってる。5人残して、先に行った方がいいわ~」
俺はパドラさんの顔を見てうなずく
「じゃ、パドラさん、サキさん、サランと俺で先行します。この場はお願いします!」
「行かせない!」
俺たちを止めようとアスティが回り込んできた。
『アイススピア』
すかさず、リーリン先輩が魔法を連射してアスティの動きをけん制する。
「早く行きなよ~」
俺たちは神殿の奥へと急いだ。
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「安全のための術式を外した場合、何が起きるの?」
神殿の奥の部屋に閉じ込められた私は、ララノアに召喚魔法陣のことを聞いていた。
想定外の事態が発生した。
まさか私たちが作り上げた召喚魔法陣が乗っ取られるなんて考えてもいなかった。
「どの術式を外すかにもよりますが、東王国でお母さんが体験したような大量の異世界人が不安定な状態で召喚されることになると思います。ただ、あの魔法陣は、東王国の物と違うので、同じような結果にならないかもしれません」
ララノアだけでなく、エベルネ、セザンヌもずいぶん不安そうにしている。
この部屋には私達4人しかいないが、扉は固く閉ざされ、扉の向こうには兵が守っているだろう。脱出は難しい。
何とかして、召喚を止める方法が無いか考えるが、何も浮かばなかった。
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「お、おい……本当に大丈夫なのか?」
目の前の魔法陣に膨大な魔力が集まり、収縮しているのを感じる。
すでに召喚を始めて30分が経つが、未だに術は完成していない。
術師のベルゼマと他の2人も少し焦っているように見える。
「大丈夫です。最強の異世界人を召喚して見せます。アゾス様、召喚後はどのようにいたしますか?」
「こちらで呪術師を2名用意してある。彼らに洗脳してもらうのでコントロールできるだろう。召喚はいつ終わるんだ?」
「もう間もなく……うおっ。何だ、この力は!」
叫び出すベルゼマ、魔法陣はこれまでにないほどまぶしい光を放ち、辺りはまるで昼間のようになったかと思うと、突然、光が魔法陣の上に収縮して、天に上って霧散した。
光が消えると、辺りは白い靄に包まれ、先ほどまで魔法陣の中で渦巻いていた膨大な魔力も消えてしまっていた。
「ヒッ、ヒー!!!」
ベルゼマが変な叫び声をあげた。魔法陣の中心の方を見て、腰を抜かし後ずさりしながら、必死の形相をしている。
魔法陣の中心を見つめると靄の向こうに微かに動くものが見えた。
「ベルゼマ、でかしたぞ。成功したんだな?」
私の問いかけにもベルゼマは反応せず、ただただ、魔法陣にいるそいつを指さしている。
やがて、靄が少しずつ晴れ、そいつの姿が明らかになっていた。
5mはあろうかという大きさで、黒い体毛に覆われ、頭には2本のヤギのような大きな角、赤い目に大きく割けた口、4本の腕に2本の太い足。
その異世界人は、禍々しい様子をしていた。
「ベルゼマ、何だ、この異世界人は?」
「わっ私は悪くない、こんな悪魔を呼び出すなんて、魔法陣が悪いんだ!」
慌てて立ち上がり、逃げ出そうとするベルゼマをその悪魔は、素早く動いて右手で捕まえ、そして、頭からかみついた。
血をまき散らしながら、ベルゼマは息絶えた。
続いて2人の召喚術師を襲い、同じように殺された。
私は尻餅をついたまま、ゆっくりと後ずさりしながら、その場を逃れようとしたが、私の姿を見つけた悪魔と目が合った。
ダメだ。殺される。
そう思った時、突然、後ろから声が聞こえた。
「いったい何を召喚したんだ?」




