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39.脱出作戦




 衝撃的な話を盗み聞きしてから、8人で話し合いを行い、真田さんや三矢さんを含めた全員が、神聖国からの脱出に賛成した。

 まずは情報収集ということになったが、

「俺たちの特技は戦闘系なんだ。すまないが、情報収集はよろしく頼む」

 高田さんが頭を下げてきた。


 そして、5日がたった。

 神聖国の地理や周辺国の情報を集めた。由紀の催眠を使えば簡単だろうが、会話の内容から、彼女たちも催眠術が使える可能性があったので、私達の動きが露見することを恐れてやめた。

 私のテイミングした獣たちと奈々の幻覚で少しずつ情報を集めた。


 神聖国は、連合国に所属し、その他、サナル、獣人国、デキラノ、南洋国、精霊森国、河の国、山の国、ニナ魔導国の合計9か国で連合国は形成している。

 王国、帝国、東王国は連合国ではない。

 連合国は王国、帝国という巨大な国と対抗するために形成されているのだろう。


 首都アミアンは、神聖国のほぼ中央で少し西寄りという位置にあった。

 一番近い隣国は、西がサナルでその向こうには王国がある。

 北が獣人国でその先には帝国がある。

 南にデキラノでその先には南洋国がある。

 東は少し距離があるが精霊森国がある。


 サナルの南側とデキラノの間には、神聖国の領土が、回廊のように細長く延びており、その先で王国と国境を接している。


 北の獣人国はサランの故郷だ。サランがいるなら獣人国がダントツで1番候補だが、サランはどこにいるかわからない。それどころか神聖国では獣人をかなり下等だとして馬鹿にしているので、獣人国から見ても神聖国は仲のいい国ではないだろうから、国境を平和的に越えられるか疑わしい。


 2日前、ララノアとジュリエラという女が会話しているところを聞くことができた。

 ジュリエラは王国のカルザン領というところからもどってきたばかりらしい。何でも神聖国に敵対する領主がいるそうで、一泡吹かせてきたと言っていた。


 彼女たちの会話から南のデキラノにもララノアと同じような神聖国のスパイがいることが分かった。ジュリエラの話では、デキラノの首都マタガルパにはたくさんのスラテリア教信者がいて、教会組織もしっかりしているから仕事がやりやすく、更に食事もおいしくて、かわいい服や、観光名所もあるからうらやましいらしい。

 そんなところに私たちは間違っても行けない。


 やはり、私たちが目指すべきは、王国カルザン領なのだろう。ルートは2つ。

 西の小国サナルを経由するか、南西に延びる、細長いサナルとデキラノの間の神聖国領を抜けていくかどちらかだ。


「俺は、サナルに向かうべきだと思う。王国と直接国境を接しているところは、当然、神聖国側の警備も厳しいだろうからな」

 山下君の意見にみんな頷く。

 問題はサナルという国の情報が少ないことだ。そこで、自然にサナルという国の情報が聞ける作戦を考えた。


 今日はその作戦実施の日だ。


「少し運動不足だから魔物を狩りたいんだけど、いい狩場はないかしら?」

 アミアンに来てから、世話役として毎日来てくれる女性に相談する。この女性も私たちの監視をしているのかもしれない。


「ええ、それでしたら西にあるフィムの森がいいでしょう。案内する者を探してきますよ」

 できれば、案内無しで行きたいけど、どんな理由をつけたって、生贄である私たちを目が届かないところに行かせてくれるはずがない。


「西ね、わかったわ、それでは誰か案内をお願いできるかしら。その森は広いの?」

「ええ、西にずーと広がっていますよ。確かお隣の国まで行ってたのではないかしら」

「へえ、広いんだね、お隣の国って何て言ったっけ?」

「サナルですよ。小さな農業国ですけど、サナル人という民族が集まって国を作ったんです」

「そうなんだ。デキラノとかサナルとかから神聖国に来た人はいるの?」

「もちろんですよ。私も実はデキラノから来たんです。スラテリア教の信者にとって、神聖国に来て奉仕することはとても名誉ある事なんです。デキラノの信者はいつか神聖国に行きたいと思っていますよ。でもサナルのことはあまり信者から聞きませんね。もともとサナル人は何か信仰を持っていたはずですから」


 なるほど、スラテリア教もあまり浸透していないと……いけるかもしれないわね。


 誤魔化すために精霊森国のことも聞いて、お礼を言って会話を終えた。



 皆で作戦を決めた。

 明日、案内をつけてもらって、西のフィムの森で狩りをする。

 魔物を追うふりをして、西に駆け抜け、サナルの国境を越える。

 できるだけ見つからないように、王国カルザン領に入る。

 カルザン領に入ったら、とにかく領主に神聖国の情報を伝え、匿ってもらう。

 後は臨機応変にという作戦になった。


 長い逃亡生活で、皆、度胸がついた。



 ―――U歴351年3月28日―――


 朝、狩りの案内役が家に来た。

 案内役は3人、私たちを神聖国まで連れてきたメッスとベルダン、それに白いローブのような衣装を着た薄いピンクの髪をした初めて見る女性だった。

 女性の名前はショニーと言ったが、唇と耳に大きなピアスをはめていて、怖い感じで、名前以外のことを話すことはなかった。

 よく考えてみればメッスとベルダンも教会の人間ということ以外、何も知らされていない。


 早速、狩りに出発した。

 メッスとベルダンが案内につくことは予想できたため、2人への態度が、ぎこちないものにならないよう事前に皆と確認をしていた。

 ショニーについては、まあ、初対面だからいいだろう。

 本人もあまり話す方ではないようだ。


 小1時間で森に着いた。

「あまり奥には行くなよ。サーベルタイガーやホーンベアがでるからな」

「その程度の魔物なら、今までいくらでも狩ってきたわよ。早く強い魔物とやりたいわ」

 由紀が強い魔物を求める戦闘狂のようなことをいう。事前の打ち合わせで、由紀は魔物と戦いたいがために暴走する役になっていたが、何かわざとらしい。

 由紀の顔を見ると吹き出しそうだったので、上を見ながら歩いた。


 ピーコとライガには森の奥まで先行してもらっている。

 逃走ルートと強い魔物がいないかの確認のためだ。

 サナルの国境まで平地であれば歩いて2日ほどの距離がある。

 森の中であること考えると通常4日というところか。

 生命魔法で回復しながらひたすら走るとどれくらい短縮できるかわからないが、走り出したら止まることはできない。

 できるだけ奥地まで行って、走る距離を短縮したいが、サナルの国境を越えてもこの3人は追いかけてくる可能性は高い。


 メッスとベルダンは私たちと変わらないほど足が速いが、生命魔法は使えないはずなので、体力勝負に持ち込めば勝てるだろう。

 問題はショニーの能力がどんなものかだ。


 しばらく普通に魔物を狩り、昼が過ぎた頃、メッスが言った。

「だいぶ奥に来てしまったな、ここで昼飯にして、後は戻りながら魔物を狩ろう」

 午前の狩りは、計画通り由紀が暴走して、奥へ奥へと進むことができた。


 ここで仕掛けるしかない。


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