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37.オルネーとララノア

 




 ―――U歴351年3月22日―――


 ララノアが帰ってきた。

 この子の青い髪と青い瞳は本当に美しい。

 9人の中では一番奇麗で、私が一番信用している娘だ。

 だから、東王国潜入、そして、宰相暗殺なんていう危険な仕事をやってもらった。


「オルネー様、只今戻りました」

「長い間、お疲れ様。もう、4年になるのかしら、東王国への潜入はどうだった?」

「とても疲れました。オルネー様も、皆も元気ですか?

「私は元気よ。今、ジュリエラが帰って来ているわ。エベルネは神殿にいるけど、後は皆、任務中よ」

「そうですか。帰ってくる途中にセザンヌに会いましたよ。順調の様でした」

「ああ、セザンヌはニルヴァーナにいるからね。クロミエとヴェセルで会わなかったの?」

 セザンヌとララノアは仲が良かったけど、クロミエとはどうだったかしら。


「会っていません。彼女とはここに居るときもほとんど接点がなかったんです。」

 一番初めに潜入任務に就いたララノアと、一番後に家族になったクロミエとは、確かに接点があまりなかったかもしれない。


「そうね。そういえば転移者たちが先についたわよ。信号機みたいな3人もいたわ」

「よかった。穂乃果たち無事だったんですね」


 ララノアは本当に安心したようで、表情を和らげたが、信号機なんて単語が通じるなんて、ララノアは良く異世界を勉強したのだろう。

 誰にでも優しい娘だが、仕事に関しては、しっかり切り捨てることができる子なので心配していない。


「さあ、転移者の能力を教えて頂戴」

 ララノアが持ち帰った転移者の能力のデータを確認する。もっと多くの転移者を神聖国に連れてくる予定だったけど、計画よりも少なくなってしまった。


「それにしてもラファーガがなぜ縄張りを変えたのかしら?」

「わかりません。そのおかげで、転移者が大分減ってしまいました。大丈夫ですか?」

「まあ、これから行う異世界召喚には、何人か異世界人の協力が必要だし、仲間になるなら戦力は多い方がいいけど、どうせ召喚すれば増えるから大丈夫よ。さて、最近の転移者はどんな能力を持っているのかしら、この由紀っていう子は私たちと同じ催眠の能力があるわね。こちらの奈々は幻覚か、まあ使えるかも。穂乃果の念話と山下の爆弾はあんまり使い道が無さそうね。他もまあ大したことはないわね」


 はー。思わずため息が漏れる。

「最近の転移者の特殊能力ってがっかりだわ。私たちの時はもっとすごいのがいたのよ。テレポートとか空間収納とか、魔法絶対耐性、何ていうのもいたわね」


「空間収納が使えるものは転移者に3人いましたよ。2人は大きなカバン一つ分の収納空間を使うことができました。もう一人は能力確認前に逃亡してしまったので、確認できていません。能力確認できていた2人も死んでしまいましたけど」

「ふーん。カバン1個分ね。あの人はもっとあったような気がするけど、まあ、いいわ。とりあえず、今いる転移者は神聖国にとってそれほど必要ないとアゾス様に伝えるわ。彼らには、神聖国に残るか外国に行くか決めるよう言っておいたわ」


「そう言えば、オルネー様、7大聖人って誰か抜けたんですか?」

「シブレーが敵に寝返ったのよ。ジュリエラに預けていたんだけど、呪術で記憶と性格を変えられたみたい。やっぱり、個人に対しては、催眠より呪術の方が強力よね」

「呪術ですか?確か山下が使えたはずですが?

「そうなの……本当だ。」

 転移者の能力については、後で、もう一度しっかり見るとして、とりあえず、ララノアに次の指示を出しておかないと。


「ララノア、あなた、早速、エベルネのところに行って、東王国の召喚魔法陣の技術を彼女に教えてあげて。どの技術を採用するかはあなたたちに任せるわ。あなたには召喚魔法実施の責任者になってもらうから、エベルネと一緒にそっちの準備もしておいてね」

「わかりました。オルネー様」

 ララノアは丁寧に頭を下げて、退出しようと動き出した。


「ちょっと待って」

 私は素早く彼女に近づき、ララノアを後ろから抱きしめた。

「お帰りなさい。ララノア」

 嬉しそうに頬を緩める彼女は、目を伏せて、私の手に彼女の手を重ねた。

「はい。ただいまお母さん」



 ララノアは9人いる私の娘の一人だ。

 私は5~10歳くらいのたくさんの孤児を集め、育て、教育し、その中から催眠の能力が発現した者、9人を娘としてかわいがった。

 催眠の能力が発現しなかった孤児は、神に選ばれた神の信徒として、教皇アゾスの元で教団の理想の為に働く者とした。


 催眠は、普通、魔力の高い者には効かないが、私には、人の心の深い部分に催眠をかけることができる特殊な能力がある。私はこれを深層催眠と呼んでいる。


 深層催眠は時間と労力が必要で、戦闘にはまるで役に立たないが、組織を作るには非常に有効な能力だ。

 そして、この深層催眠は解くことができない。解こうとすると心の支えを失い、その者は生きる気力をなくすか、暴れて自害するか、いずれにしろまともには生きられない。


 私は孤児として育てたすべての子供にこの深層催眠をかけている。

 子供たちにかけた深層睡眠は2種類だ。

 魔力が高く催眠を覚えた9人の娘には「母と共に幸せになることがすべて」という価値観を植え付け、それ以外の子には「神こそがすべて、神の理想を達成できなければ生きる価値が無い」という価値観を信じ込ませた。


 当然、全員、自分たちが深層催眠にかかっていることを知らない。


 シブレーの裏切りを聞いて、私は正直かなり焦り、帰国の途についていたジュリエラを急遽戻して、シブレーがなぜ裏切ったか詳細に調べさせた。

 シブレーは深層催眠を解除されたわけではなく、呪術で、すり替えただけだった。


 彼女に施した深層催眠は、「神こそがすべて、神の理想を達成できなければ生きる価値が無い」という価値観だが、奴らは、この「神」をスラテリア教の空想の神ではなく、人間の男にすり替えたようだ。

 これはこれで脅威ではあるが、すり替えには、希少な呪術使いが相当な時間と魔力が使って行わないとできないようなので、数人の被害は出るかもしれないが、組織に大きなダメージを与えることはないだろう。


 まだ、この子たちの催眠を解くわけにはいかないわ。




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