36.神聖国
私たち8人はアミアン郊外の家を与えられた。
「この家は教会の物だから、自由に使っていい。後に担当部署の者が君たちに会いに来ると思うが、それまではゆっくりしていてくれ。長旅おつかれ様」
そういうとローブの男たち、メッスとベルダンは行ってしまった。
私たちは旅の疲れを癒した。
家は、それほど新しいものではないが、10部屋ほどあり、1人1部屋確保できた。
夕方、リビングに集まって、話し合った。
「俺たちは、無事逃げれたと考えていいのか?」
高田さんの意見に三矢さんが答えた
「全く東王国の追手に襲われる気配がないから、もう安心していいのではないかしら?」
「逃げてきたルートもほとんど街道に出ることもなく、街にも寄らなかったから、ここにいることを知りようがないんじゃない?」
市屋さんの意見はもっともで、私たちは連合国内の森や草原を駆け抜けた。
途中、大きな河を越えたが、それも隠してあったボートに乗って、渡った。
「これから、どうしようか?この国で何か仕事でも見つけて生きていくかい?」
真田さんの心配は、皆も、考えていたことだろう。
「後で、担当者の人が来ると言っていたから、その人に相談してみればいいんじゃない?もしわからなければ、メッスとベルダンを探して彼らに聞いてみましょう」
由紀も彼らのことは信用しているようだ。
「そうね。彼らに聞いたけど、冒険者になって魔物退治でもしながら、それなりに食べていけるみたいだから、あまり心配しなくてもいいと思うけど」
奈々は珍しく楽観的に考えている。
そこに今まで黙ってみんなの意見を聞いていた山下君が話し始めた。
「神聖国は、何のために俺たちを助けてくれたんだろうな?」
旅をしながら、私たちは打ち解けて、山下君とも気兼ねなく話せるようになり、彼が東王国を逃げ出すことになった経緯も聞いたが、山下君の話し方が、ずいぶん深刻な感じに聞こえたので、皆、押し黙った。
「前にも話したが、俺は、この国の依頼で召喚魔法陣を壊した。ずっと考えていたんだ、彼らは、召喚魔法陣を壊した俺をここまで連れてきてくれたわけだが、わざわざ、危険を冒してどうしてそこまでしてくれたんだろうな」
旅の途中で、私と山下君が集団召喚で多くの人が死んだこともみんなに話した。話を聞いたみんなは、それを壊した山下君を称賛していた。
確かに、神聖国の目的がわからない。メッスとベルダンの気さくな様子にあまり気にならなかった。
「まあ、後で来る担当者に聞いてみましょう。単に異世界人が珍しかったかもしれないし、私たちの魔法に関心があるのかもしれないじゃない?私たちは戦争で、それなりの戦果を挙げていたわけだし」
由紀が明るく言う。確かに聞けばいいのだが、その答えが私たちにとってあまり都合がよくないこともあり得るということだろう。
「まあ、そうだな。すまない。少し深刻になりすぎていたようだ」
由紀の言葉に素直に謝る山下君。こういう素直なところがあることを旅の間に発見した。仲良くなったせいか皮肉屋のような側面があまりでなくなってきた。
そろそろ夕食をどうしようかと話し始めた時、家に来訪者があった。
後で来ると言った担当者かと思って玄関を開けると、白い聖職者の切るようなローブに身を包んだ女性が3人ほど立っていた。
「教団の者です。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
扉を上げて、入室を促すと礼を言いながら落ち着いた足取りで部屋に入ってきた。
歳は25歳くらいだろうか、黒髪、黒目で美しく、日本人のような容貌をしている。
「初めまして、スラテリア教団の大司教を務めております、オルネーと申します。東王国の転移者の皆さま、神聖国はあなた方を歓迎します」
皆、顔を見合わせる。大司教っていうことは、教団でも偉い人なんだろう。
予想になかった来訪者にびっくりしていると、オルネーさんはいたずらに成功した子供のように微笑んでいた。
「びっくりしたみたいね。無理を言って、あなたたちを連れてきてもらったかいがあったわ」
口に手を当てて笑いながらオルネーさんは続いて、更にびっくりすることを言った。
「私も東王国に召喚された転移者なのよ」
オルネーさんが連れてきた2人の女性が用意してくれた夕食を食べながら、オルネーさんの話を聞いた。
「私は7番目に生き残った転移者だったのよ。ようやく召喚魔法陣の破壊に成功したって連絡があったけど、あなたがやってくれたのね」
召喚魔法陣の破壊と、私たちの逃亡支援はオルネーさんが指示したことだった。
「オルネーさんありがとうございます。私たち助かりました」
「いいのよ。それにごめんなさい。全員は助けられなかったわ。私たちが転移者を救う準備をする間、ララノアにはできるだけ異世界人をとどまらせるよう指示を出していたんだけど、あなたたちがこんなに早く逃亡を計画するほど追い詰められていたのを知らなかったわ」
意外な人の名前が出た。
「もうすぐ帰国してくるけど、ララノアは私が送り込んだ人間よ」
ララノアは私たちに良くしてくれた。そういえば、逃亡する前に性急な行動をするなと言われた気がする。
「救うってどうやって?」
山下君が質問するが、話し方が固いので、まだ、オルネーさんを信用してはいないようだ。
「もっと教団の人間を送り込む準備をしてたのよ。結局ダメだったんだけど」
私たちは25人で脱出を試みて、結局7人しか残らなかった。もし、巻き戻してやり直せるなら、もう少し逃亡を遅らせたのに。
「あの、今後の俺たちの生活のことなんだけど……」
真田さんはそのことが本当に気になるようだ。
「ここにいる間は心配しないで、この家もずっと使ってもらってもいいし、もし仕事がしたいのなら、教団への就職も斡旋するわ。後は冒険者をやるかだけど、生憎この国には冒険者ギルドが無いのよ。神聖国は宗教国家だから、合わないようなら外国に行ってもいいと思うわ」
とりあえず、当面の生活の不安が解消した真田さんや三矢さんは安心した顔をしていた。
山下君は相変わらず難しい顔をしていた。
私も由紀も奈々もちょっと微妙な顔をしていただろう。
だって話がうますぎるんだもの。




