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34. 東王国の召喚術

 




 ―――U歴351年2月20日―――


 昨日、大量の転移者が脱走した。

 軍務大臣は、彼らを止める為に東王国に従順な転移者を向かわせたので、こちらも被害が出た。

 今頃、軍務大臣と魔法大臣は、大騒ぎしながらお互いに責任を押し付けあっているだろう。


「ララノア、新しい召喚魔法陣の準備はどうですか?」

 神官長ベルゼマは、軍務大臣と魔法大臣とは、一定の距離を保ち、ただ、召喚術の実施と改良に集中している。というか、この人は、召喚術にしか興味がない。

「まだ、数カ月はかかります。足らない素材を取り寄せています」

「そうですか。早く次の術式を試したいのですが、仕方がないですね」

 ベルゼマは、毎日のように同じ質問を繰り返す。


 ベルゼマが新しく開発した転移者の能力を強化する術式は、101人目の荒井コースケの召喚に適用されたが、彼が召喚後、すぐに宰相殺害事件を犯し、逃亡したため、その結果を確認ができなかった。


 それだけでなく、彼の起こした暴挙が、召喚翌日に起きたことだったので、新しい術式が原因ではないかとも疑われて、なかなか次の召喚を実施できなかった。


 そうこうしているうちに、召喚魔法陣が破壊され、修復に時間がかかっているため、ベルゼマの焦りを生んでいる。


 今回の転移者の大量脱走によって、国の防衛力という観点でも、新しい召喚の実施は、軍務大臣としても望んでいるだろうが、彼自身が、転移者による宰相殺害事件の責任を、魔法大臣だけでなく、召喚を実施した神官長にもとらせようとした手前、なかなかすぐに召喚しろとは言えないのであろう。


 この国は、今、窮地に立たされている。

 しかし、国の中枢には、臆病な王と、責任を擦り付け合い、保身しか頭にない大臣しかいない。

 聡明で、将来を見据えていた宰相は半年ほど前に殺害された。

 そして、今、防衛力の要の転移者もほとんど残っていない。



 昔、東王国の前の神官長が、独自に開発した召喚術を使って、異世界人の召喚を始めた。彼は当初、神の御使いを召喚するつもりだったようだが、最初に召喚できたのは、大量の異世界人の死体だったらしい。

 それでも異世界から召喚できた功績に喜び、続けて何度も召喚を実施した結果、一人、昏睡状態であったが生きた異世界人を召喚できた。


 その人も数カ月で死んでしまったが、その人から異世界の様子を聞き、召喚術式に改良を加えた結果、30人の死体と1人の生きた異世界人を召喚できた。

 その異世界人は高い魔力を持っていただけでなく、瞬間転移という非常に特殊な能力を持っていた。


 より強力な力を持った異世界人を召喚し、膠着した戦争を一気に勝負をつけようと考えた軍務省と魔法省の意見を取り入れる形で、宰相が異世界人の召喚を東王国の国を挙げて実施することにした。


 ただし、召喚術は、大量の魔力を消費する大規模な魔法であったため、実施できるのは、数カ月に1回だけだった。

 また、特殊能力を獲得できた異世界人もいたが、強力なものは少なく、能力にもばらつきがあることが課題であった。


 召喚術で生きた異世界人を召喚する確率の改善と特殊能力の発現率の改善を目的に、召喚術の改良がすすめられ、何度目かの召喚で、無傷で意識を残したまま召喚術に耐えられた者が出始めた。ある時、召喚された一人が、一緒に召喚された死体を見て泣き崩れ、さっきまで自分と一緒にいた自分の家族だと話した。


 これまで異世界の死体だと思っていたが、実際は、生きた人間を召喚術で殺していたという事実が明らかになった。異世界人は、召喚における肉体的負担に耐えられなかったのだ。


 その事実が明らかになった後も、同じ方法で、異世界召喚は繰り返されたが、次第に召喚で人を殺すことに術者たちが嫌悪感を抱くようになり、また、生き残った転移者も、自分と一緒に召喚された人の死体をみて、東王国の召喚術を悪魔の所業だと糾弾し始めた。


 苦労して召喚した異世界人が、召喚主である東王国のいうことを聞かないという事態になり、一時的に召喚は中止された。


 そして、異世界人を管理し、東王国の為に働かせる研究が始まった。

 新しく召喚された異世界人は、これまで召喚された異世界人と隔離し、異世界人の研究をするための施設に入れられるようになった。


 これまでに召喚された異世界人21人は目立たないように処分されることが決定したが、彼らは、自分たちの危機を事前に察知し、国外に逃亡していった。

 東王国は暗殺部隊を派遣して、逃亡した異世界人の処分を進めた。


 新しく設立された施設では、召喚と異世界人の研究が進んだ。

 死にかけた者を召喚して、回復してやることで、異世界人に新たな人生を与え、東王国に忠誠を誓わせる方が、効率が良いことがわかった。

 召喚術式も、集団召喚ではなく、より少ない魔力で、一人ずつ召喚する術式や、身体的な変化を促し、こちらの世界に適合させ、召喚時の肉体的崩壊による死亡を回避する術式も開発された。


 しかし、本来、東王国の異世界人召喚の目的は、異世界人の持つ特殊能力を戦争に利用することだが、特殊能力の獲得、強化については、なかなか結果が出なかった。前の神官長に変わり、新しく就任した神官長ベルゼマにとって、異世界人の特殊能力を強化できる術式を開発することが使命であり、彼の夢でもあった。

 私はそんな彼に協力し、異世界召喚の研究を続けてきた。


 宰相は、東王国が、過去、大量に異世界人を殺して召喚した事実を決して表に出そうとせず、魔法省にデータを移して、我々神官にも見ることを許さなかった。異世界人に知られることを恐れたのだ。

 彼は異世界人が東王国に不満を持ち、敵対することが東王国を窮地に追い込むことをよく理解していたので、軍務大臣がもっと異世界人を戦場に投入したいと提言しても、魔法大臣が異世界人の魔法研究への協力を強制することを提案しても決して許可を出さなかった。

 彼が死んだあと、愚かな軍務大臣と魔法大臣がそれらの政策を実施した結果、異世界人は国を出ていった。



 この国はもう危ないわ。


 神聖国を離れてもう4年もたったわ。

 私が最初に出たんだもの、オルネー様、もう帰ってもいいですよね。

 目的は達成しましたよ。


 昔の異世界人大量召喚術式と、最新の召喚術式の研究データの入手、それが私の目的だった。

 そして、私たちの仇とも言える宰相の殺害にも成功した。

 あの男は多くの不幸を生み続けていた、まさに元凶だった。


 その為に荒井コースケを利用してしまったことには罪の意識を感じるが、宰相を殺害したことで、この国を窮地に追い込むことができ、さらに私達のような孤児が生まれる悲劇を減らせたはずだ。


 だけど、今度、コースケさんに会ったら、しっかり謝らないとだめね。





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