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30.教団




 ―――U歴351年1月14日―――


 シブレーが俺に笑顔を見せた。かわいいけど何か悪寒がした。

 昨日、ノラさんとサカキさんが試したいことがあると言って、シブレーのところへ行っていたが、どうやら、サカキさんの薬草とノラさんの呪術で人格を変えたようだ。

「呪術だけでやるよりも薬草を組み合わせた方が、効きが断然違うし、魔力の消費も少ない」

 ノラさんもびっくりするほどうまくいったようだ。


「コースケ、お前がこの子の神だ」

 どうやらシブレーに対して、そういう刷り込みをしたらしい。

「本当は神や教団のことを忘れさせてやろうとしたんだが、そうすると精神的に物凄い不安定になって暴れるから、仕方なくだよ。何でもいうことを聞いてくれる女の子1度は欲しかっただろ?」

 サカキさんが笑いながら恐ろしいことを言うが、サランの視線が痛い。


「彼女にとって、神の理想の体現こそが幸せで、神の代弁者たる教皇アゾス様の命令は絶対だったそうだが、すり替えてみた」

 今、シブレーの脳内設定では、シブレーは神の使徒で、教団が神である俺を裏切り、敵対していることになっていた。

「神に逆らうなど許されるわけがない。奴らには鉄槌を下してやります」

 シブレーが俺に抱き着いて、下から見上げながら言うが、神と使徒の関係にしてはキョリが近い。

 すぐにサランが間に入り事なきを得たが、サランの視線が痛い。後ろでサカキさんとノラさんがにやにや笑っていた

「教会に乗り込むときにシブレーも連れていこう。呪術が解けて、教会の洗脳状態に戻るかもしれんが、実験にはなるからな」


 その時、ライコス将軍のところに集まってほしいと兵士が伝令に来た。


 皆で部屋に行くとライコスさんが難しい顔をして待っていた。

「スラテリア教のやつらが動き出したぞ。クレイビルからラッシュビルに向かう街道にクレイビルの信者たちが集まっているそうだ。聖地に向かう信者を強引に足止めするラッシュビル軍に対する抗議だそうだ。俺たちはまだ2人しか検問で捕まえていないが、そういうことになっているらしい」


「クレイビルで教会の活動を取り締まったりしないのか?」

 サカキさんが俺も気になっていることを聞いた。

「してるさ。教会をつぶしたり、新たな教会をたてさせなかったり、邪教だとも伝えているが、それでもスラテリア教にすがる奴は多い。挙句の果てに国教教会が宗教弾圧だと文句を言ってきやがった。信者を取られているはずなのに、奴らは何故かスラテリア教に寛容なんだ。このラッシュビルでは表向きスラテリア教の教会は無いが、ムーラン教の教会は国教教会の推薦もあり、許可を出さざるを得なかった。水面下ではスラテリア教ともいるだろうさ」

 国教教会か、カルザンビルにも、ラッシュビルにもあるが、皆あまり通っていない気がする。子供のころに鑑定の儀というので、必ず、1度は行くらしいけど、それ1回した行ったことが無いという人も多いようだ。


「ひとまず、ラッシュビル軍は街道に集まったクレイビルの信者たちを監視するために人員を割くからな、ラッシュビルの教会襲撃は近衛軍とお前たちに任せたぞ」

 ライコス将軍は、そう告げると現場に行くと言って、基地を出ていった。



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 ひとまず、軍は南に向かったようね。

 近衛軍が入ってきたと聞いたときはびっくりしたけど、ラッシュビル軍に比べれば少ないし何とかなるでしょう。


 私は催眠が使える。オルネー様に教えてもらった。

 催眠術が使えるようになったのは、教団全体で9名しかいない。1人が聖地建設で神聖国に残っているが、後の8人は各国に散らばっている。王国では、カルザン領のラッシュビルに私が、クレイビルにオヨナが派遣されていて、更に王都に1人いる。


 本当は私もラッシュビルみたいな田舎じゃなくて、王都か、水の国のヴェセルか、デキラノの首都マタガルパに行きたかったなあ。

 でもこんなことを言うと、まじめなオヨナは私に怒るのよね。


 催眠は、薬草と一緒に使えば、かなり深くかけることができる。

 薬草を使って深くかけると、一度、術から覚めても、特殊な魔道具の鈴の音を聞けば、再び術にかけることができる。


 私たちが使う催眠の弱点は、魔力が高い者には効きにくいことだ。

 オルネー様の催眠は強力で、少しくらい魔力高い者が相手でも効果があるので、7大聖人クラスを作り出すこともできる。

 しかし、オルネー様でも、もっと魔力が高い者に対しては、ほとんど術が効かない。


 この催眠を使って、ラッシュビルで信者を少しずつ増やしてきたが、信者の聖地派遣はやはり早すぎたようだ。

 拠点を放棄するのはもったいない気がするが、ただで逃げかえるわけにはいかない。


 さあ、ラッシュビルから逃げ出す前に、一騒動起こすわよ。



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 ラッシュビル軍がラッシュビルを離れると、街で異変が起こった。

「500人を超える人が、街の中央広場に集まって、聖地に向かうと騒いでいるようだよ」

 サランが街に出て、情報を得てきた。

 ムーラン教の信者であることを宣言して、神聖国に向かうと言って、行列を作って行進を始めたらしい。


 ノラが連れてきた近衛軍は50名ほどで、500人もの群衆を止めることができない。

 俺たちが何もできないまま、集まった人々は街を出てクレイビルに向かった。クレイビルからラッシュビルに向かって街道を進んでいる群衆と合流するつもりだろう。

 合流してから、神聖国に向かうのだろうか?


 ラッシュビルからクレイビルまで人が歩いて通常5日ほどかかる。

 念のため、俺たちは群衆の後をついて歩いた。

 ほとんど会話もせずただ歩く人々は不気味で、間違いなく催眠状態にかかっている。

『ピースオブマインド』で解除しても魔道具で再度かかってしまうし、人数が多すぎるので、しばらくは様子を見ることにした。


 夜になっても群衆は歩くのを止めなかった。

 強力な催眠により、限界まで歩き続けるようだ。

 まずいな。教会の連中が何を考えているのかわからない。



 ―――U歴351年1月15日―――


 結局、夜通し歩き続けた群衆は、ライコス率いるラッシュ軍を追い抜いて、次の日の昼にはクレイビルから集まった群衆と合流した。

 この夜の行進で数十人が倒れて合流できなかった。


 2つの街を結ぶ街道のちょうど中間地点当り、ここには、ラッシュビルから450人以上、クレイビルからもほぼ同数の群衆が合流し、その場に座り込んでいる。


 クレイビル側の群衆の後ろに、パドラさんやラウラーラ師匠たちがいた。

 どうやらクレイビルでの異変を聞きつけ、駆け付けていたらしい。

「この騒ぎはなんだろうな?」

 パドラさんも首をかしげている。


 しばらくして、何人かが鈴を鳴らし始めると、群衆は次々と倒れ始めた。

 慌てて軍人たちが確認すると、1,000人近い群衆のほとんどが、気を失ったり、寝てしまったりしていた。

 群衆はそのまま起きることなく夜になった。

 夜になってぽつぽつと起き出した人々は、口々にここはどこだ?何でこんなところにと言い出した。


 結局、彼らは正気に戻って、聖地を目指さず、街に帰りたいと言い出した。、ただ、体力の限界まで歩かされて、ここまで連れてこられただけだ。

 ノノエの両親と同じようになぜこんなことをしたのか自分たちもわかっていないのだ。

 ラッシュビル軍とクレイビル軍がキャンプを作り、彼らに食事をとらせ、馬車を何往復も走らせ、数日掛けて全員街に戻した。


 翌日、軍に馬を借りて、慌てて街に戻った俺たちは、ムーラン教ラッシュビル教会に乗り込んだが、すでに誰も残っていなかった。


「やられたな。スラテリア教勢力はラッシュビルからいなくなったように見えるが、地下に隠れただけかもしれん」

 俺たちはラッシュビルの軍基地に集まって、パドラさんの話を聞いている。

 ライコスさんが、カルザンビルのパドラさんに応援要請をした時、クレイビルからも応援要請が来て、クレイビルとラッシュビルに分かれて動いたそうだ。

「500人の移動は教会に逃げ出す隙を与えただけでなく、スラテリア教の力を見せつけられた。今後、ラッシュビルでもクレイビルでもいつでもこういうことが起こせるということを俺たちにわからせた。俺たちは、いつ起こるかわからない住民の大移動に対応するためにある程度軍を残しておかなければならなくなった」


「スラテリア神聖国が何かをしようとしている。そろそろ俺たちも本格的に動くべきだろうな。神聖国をつぶすぞ」

 パドラさんの言葉に、皆、頷き返した。




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