28.敵との遭遇
ムーラン教の教会は怪しさ満点だ。
もう一度教会に行って、いろいろ調べたいが、あの精神異常状態になるのが怖くて踏み込めない。あれは魔法だろうか?
師匠たちに相談するために、一度カルザンビルに戻りたいが、その間に事態が動くかもしれない。
昼を過ぎたので、ノノエの家に迎えに来たが、まだ帰っていなかった。
殺人も起きたので、安全のためにしばらく両親を探すのを止めるよう話をするつもりだ。
ノノエの家の前で待っていると、ノノエと弟が一緒に帰ってきた。
「コースケさん、サランさん、父と母が見つかったそうです。これから会いに行きますが、一緒に来てもらえますか?」
「なんだって?一体どこで見つかったんだい?」
「軍の検問で見つかったそうです。もうすぐ街に到着するそうです」
街の外に出ていたということか。いったいどこに行ってたんだろう?
ライコスさんがいる軍の基地に向かった。
兵士に問い合わせると、すでにノノエの両親は基地に到着していた。
皆で会いに行くと、2人は元気そうだが、何か様子がおかしい。ノノエと弟の顔を見ても何だか嬉しそうではない。
「私たちは聖地に赴かないといけないのです。そうしないと神に召されないのです」
さっき教会で経験したばかりなので、状況は予想がついた。
早速、呪文を唱えてみる。
『ピースオブマインド』
あまり変化がない。もう一度唱えると2人は何か話すのを止めてこちらを見た。
その後も続けて10回ほど魔法をかけたところでようやく、ノノエたちのことを認識し、涙を流しながら再会を喜んだ。
それにしてもサランの時より魔法が効かなかった。なんでだろう。
結局彼らは、ただ聖地に向かうことで救われるという言葉に従って、聖地を目指していただけで、何故そう思うようになったかわからないと言った。
聖地も何となく南東の方角にある気がするがどういうところかはわからないそうだ。教会に行ったかも聞いたが、ずいぶん前に一度行ったことがあるが、信者ではないとのことだった。
「本当にありがとうございました」
ノノエと弟とその両親は俺とサランに何度もお礼を言って帰って行った。
俺はすぐにライコス将軍に相談した。
「う~ん、呪術の症状に似ているんだが……呪術は、ノラかパドラが得意だから奴らに聞いた方がいいかもしれん。いや、もし他の魔法だったらリーリンの方がわかるかもしれん。ただ、皆、カルザンビルにいるからな、すぐに、応援を頼んでおこう。ムーラン教は黒だが、問題は目的がわからんことだ。とりあえず行方不明者が街から出ていくのは注意しておこう」
ノラさんとは近衛軍団長で、ライコスさん、パドラさんと共に前領主を倒した人だ。この人も顔が怖い。
ライコス将軍と話し合って、カルザンビルから応援が来るまでは、相手を刺激せず、軍で街道の検問を強化することにした。
宿に戻って、しばらく休んでいると、サランが気になることを言い出した。
「ノノエの両親は、ずいぶん前に1度教会に行っただけだと言っていたけど、そんなので、あんなに強力な催眠状態みたいになるのかな?」
確かに、俺やサランの時とはかかり方が違う。個人差なのか、もっと、他の方法で催眠状態にされたのか。
ボールズさんが探していた行方不明者のことを聞いたが、2人は知らないと言っていた。
「もう一度、ノノエの家に行ってみよう」
辺りはもう暗くなっていたが、ノノエの家に向かった。
家には明りがついておらず、何か胸騒ぎがした。
ドアをノックしても反応がない。
辺りを探そうとしているとノノエの叫び声が聞こえた。
「お父さん、お母さん、行かないで!」
声がする方に行くと、ノノエと弟が両親に抱き着いて、両親を止めているようだった。両親は二人を全く見ず、足を進めてどこかに行こうとしている。
助けに行こうとした瞬間、そいつが突然背後に立っていた。
ひやりと背筋が凍るような感覚に驚いて、体を地面に投げ出すと、俺がたっていたところにそいつの剣があった。
「ちっ。異教徒の分際で私の剣を避けるとは」
俺はすぐに体制を立て直し、サランも俺の背後に寄ってきた。
俺に剣を刺した奴は肌も服も全体が白く、目が充血して真っ赤になった、危ない感じの女性だった。
「サラン、こいつは俺が足止めする。ノノエの両親を頼む」
「わかったよ。気を付けてね」
離れていくサランを狙って、そいつが魔法を放つが、『アースウォール』でレジストする。
俺は土魔法で剣を作って、構える。久しぶりの対人戦だ。
『アイススピア』を連射して、攻撃力の強い『アイスランス』を織り交ぜると白い女は後ろに宙返りしながら避ける。なかなか反応がいい。
『クイック』でスピードを上げて、奴の着地点に迫ると、着地と同時にこちらに向かって剣を振り回してきた。
ブレーキをかけて剣を避けると同時に、『ストーンスピア』で攻撃すると、白い女は素早く横に動いてかわす。
結構強いな。動きが素早くてなかなかとらえきれない。
白い女は俺から距離をとると、右手を前に出して『エアカッター』を唱えると同時に風の刃に後ろをこちらに向かって突っ込んできた。
俺は、『アースウォール』で防御して、少し下がりながら壁の上めがけて、『エアカッター』を放つが、白い女は壁の横を抜けて迫ってきた。
片手で女の剣を受けると同時に、『ストーンスピア』で下からも攻撃するが、白い女は一度剣を合わせただけで、また、宙返りして距離をとった。
少し戦い方を変えよう。
『スモールフレア』『ストーンバレッド』
小規模の火炎を発生させて、ダミーの礫を相手にぶつける。
炎が邪魔して礫が見えないので、白い女は大きめに距離をとる。
俺は土魔法で作った剣を投げやりに変え、女が回避した場所に思い切り投げると同時に、新しい剣を生成しながら、相手に迫る。
『エアバースト』
女は槍を躱して体制が崩れながら、魔法で暴風起こして、一瞬のうちに炎を消し、俺の突進も止めた。
よく見ると槍が掠って、女の腕から血が出ていた。
よし、追い詰めよう。
『ホーミングファイアアロー』
リーリン先輩に教えてもらった敵を追尾する魔法を5発ほど放ち、俺は素早く女の視界から外れるように動く。
女は炎の矢を2、3度躱して剣で叩き落したが、俺はすでに女の背後を取っていて、背後から腹の辺りを刺した。
「ううっ」
呻き声をあげながら女は倒れた。素早く生命魔法で止血だけして、気を失った状態のまま、土魔法で拘束する。
サランは離れた場所でノノエの両親を土魔法で拘束していた。
俺は捕らえた女を連れて、サランたちのところまで行き、両親に『ピースオブマインド』を唱えて、催眠状態をもとに戻した。
そこで、俺たちの戦いの音を聞いた軍の見回りが来たので、一緒に基地に向かった。
拘束した女を独房に入れてから、ライコス将軍に説明した。
「大手柄だ、捕らえた女の尋問はこちらでやっておこう。また催眠状態になるかもしれないから、少女と家族は一晩基地で預かろう」
俺たちも基地に泊めてもらって、尋問の結果を待つことにした。




