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27.怪しい奴ら




 ムーラン教ラッシュビル教会の一室で、私は目の前の女をどうやって説き伏せるか思案していた。

 肌の色が病的に白く、その血走った目を見るとまさに狂信者という要望だが、彼女の思想もまさにそれだった。


「ジュリエラ様、異教徒たちを殺させて。早くしないと私が神に召されないわ」

 教会で七大聖人と呼ばれる彼女ら狂信者は、教義の一つ、この世界の清浄化こそ神に召される道だと信じて疑わない者たちだ。清浄化とは、彼女たちの理解はスラテリア教信者以外をなくすことを言う。


 全く、こんな頭のおかしい奴らを作るなんて、オルネー様は何を考えているのかしら。

 違うわね、この狂信的な考え方は、アゾス様の影響よね。


 とはいえ、彼女たちの戦闘力は高い。狂信的な思いそのままに命を危険に晒して厳しい修行に励むからだ。

 使いどころを間違えなければ、有益な連中であることには間違いない。


「シブレー、少し待ちなさい。オルネー様にはこのカルザン領で基盤を作ることを指示されているわ。あと2年はかかるわね」

 不満顔の狂信者シブレーだが、私の言葉には従うだろう。ただ、彼女たちが忠誠を捧げているのは教皇アゾス様に対してだ。

 不満から予測不可能な行動に出られても困るので、何とか納得させたい。


 今回、聖地で進む儀式の準備で人員が不足し、急遽各支部に人員補充の命が出された。

 ラッシュビルは規模が小さいため、割り当ても少なかったが、それでも約50人を集めて送らなければならなかった。

 まだ、スラテリア教であることを隠して布教し、政治、経済の中枢に入り込めていない段階ではリスクが高いがしょうがない。

 案の定、いくつかの家族が捜索依頼を冒険者ギルドに出したようで、冒険者が嗅ぎまわっている。

 こういう仕事の方が彼女向けだろう。


「シブレー、嗅ぎまわっている冒険者を始末してください。彼らは、聖地での儀式を邪魔する者です」

 シブレーは私の言葉に嬉しそうな顔をする

「わかったよ。ジュリエラ様。神に抗う者に鉄槌をくだすわ」


 狂信者め、派手にやりすぎるなよ。



 ―――U歴351年1月11日―――


 翌日も街中でノノエの両親の居場所を探した。ノノエは学校があるので、昼過ぎに迎えに行く約束をしている。

 捜索依頼を受けた冒険者にも行く先々で何人かに会ったが、魔物討伐を受けれないなりたての者が多くて、捜索もあまり進んでいない。

 ま、冒険者として、最初の依頼は人探しが定番だからな。


 そんな中、昨日ノノエを突き飛ばした奴に遭遇した。

 彼も行方不明者を捜索するベテラン冒険者で、捜索がうまくいかず、いら立っていたそうで、話をすると素直に謝られた。

「すまなかった。今度、嬢ちゃんにも謝るよ。俺が探している行方不明者は、姿を消す前、そのノノエの両親と会っていたことがわかっていてな。それで家に行ったわけだ。その夫婦も行方不明になってるとは……」


 このベテラン冒険者はボールズといい、普段は魔物討伐や商隊の護衛をしているが、付き合いのある商人から頼まれて行方不明者の捜索をしているそうだ。

「俺の捜索している人は、最近見かける怪しい宗教、ムーラン教にハマっていたらしくてな。その嬢ちゃんの両親もそのつながりで付き合いがあったようだ。俺はその線が怪しいと思っている」

 ボールズはノノエに対する気まずさからか、いろいろ教えてくれた。

 ムーラン教か、念のため、パドラさんたちに報告しておくか。


 俺たちは、街の外れにあるラッシュビル常駐軍の基地に向かった。

 ここには軍の責任者ライコス将軍がいる。彼は、パドラさんが領主となる前から一緒に戦った仲間の一人で、俺も何度か顔合わせている。


「おう、坊主、来たのか?」

 ライコス将軍は、俺が何度かパドラさんに頼まれて、ブランデーを届けたので、俺たちのことを歓迎してくれた。何度見ても怖い顔だ。まるで盗賊の親分だ。


「お久しぶりです。ライコスさん。今日はちょっと相談に来ました」

 俺は、街で調べたことやボールズから聞いたことを話した。

「ムーラン教か、怪しい奴だと思っていたが、何か事件を起こしているかもな。いいだろう。軍からも少し人を出して、街を見回らせよう。パドラにも連絡しておく」


 軍の連絡網を使って、連絡してくれるようだ。帰り際にライコスさんが言った。

「坊主、ムーラン教がスラテリア教と関係があることがわかったらすぐに知らせろ。あいつ等とは俺も因縁がある」


 午後から、ノノエを迎えに行き、一緒に両親を探して回った。

 ノノエにムーラン教と両親の関係を聞いたが、ノノエ自身は、街でよく見かけるので、ムーラン教のことは知っていたが、両親との関係では、何も思い当たるところはないということだった。


 今日は、ノノエと、両親の知り合いを訪ねたが、失踪の手掛かりになりそうな話はなかった。何か知っていても子供のノノエには話しにくいのかもしれない。

 何も手掛かりを見つけることもできず、落ち込んだノノエを家に送り、俺たちも宿に帰った。


 その夜、事件が起きた。

 冒険者ボールズが殺された。

 場所は、酒場の多い地域から一本奥に入った人通りの少ない通りで、夜遅くに通りかかった酔っぱらいが、首がなくなっている死体を見つけた。



 ―――U歴351年1月12日―――


 俺たちがその事件のことを知ったとき、すでに他の冒険者やラッシュビルの衛兵たちが現場に集まって、死体を確認し、犯人を捜し始めていた。

 首を一刀両断した腕前から、皆、上級冒険者を疑っているようが、そんなことができそうな者は、カルザンビルに行ってしまって、ラッシュビルには残ってなかった。


「やっぱり、行方不明事件と関係あるよね」

 サランが言う通り、俺もそう思っている。

 ボールズが探していた行方不明者はムーラン教徒だったようなので、やはりその関係を調査していたのではないだろうか?

「ムーラン教を調べてみるしかないな」


 俺たちは、ムーラン教ラッシュビル教会というところを訪ねた。

 教会は誰にでも解放されていて、簡単に中に入ることができた。

 内部は思ったよりも明るく、何かお香でも焚いているのかいいにおいがした。緑の服を着た人が何人もいて、一般の訪問者に話しかけていた。


「あなたも悩みがおありですか?」

 奇麗な黒髪の女性に話しかけられた。

「この教会で司祭をしておりますジュリエラと申します。良ければ、あなたの悩みをお話しいただけませんか?」

 その笑顔と声に思わず引き込まれそうになった。とても好印象を与える女性だ。ジュリエラ司祭はサランにも同じように微笑みかけた。


 その笑顔を曇らせるようなことを言わなければいけないことに罪悪感を覚えた。

「実はこの教会に通っていた人が何人か行方不明になっています。私もその親族に頼まれて、行方を追っているのですが、何か知りませんか?」

 ノノエの両親のことを話すと、ジュリエラ司教は少し心配そうな顔をしてからこういった。


「最近は教会を訪れる方が非常に増えていて、正直、熱心な方はまだ少ないですが、とてもうれしいことです。その方々も教会を訪れたことがあると思いますが、申し訳ありませんが、よくわかりません」

 ジュリエラ司教が頭を下げたので、サランも俺も、頭を下げさせたことが申し訳なくて、司教に謝った。


 司教にお礼を言って教会を出てしばらく歩くと、俺は違和感に気がついた。

 俺は異常なほど司教に好意を持っていた。

 サランも司教に好意を持ったように見えたので、試しに司教の悪口を言ってみた。

「コースケ、あんないい人になんてことをいうんだよ。見損なったよ!」

 サランが怒りだした。やっぱりおかしい。


 サランの司教に対する好意が変だと、何かの精神攻撃ではないかと説明するが、彼女もおかしいと思いながらも感情的に彼女を悪く思えないようで、混乱している感じだった。

 こんな時はリーリン先輩から教えてもらったあの魔法がいいかも。


『ピースオブマインド』

 サランは元に戻った。

「何で僕はあんなに司教が好きだったんだろう?不思議な感じだよ」

 精神が安定する魔法だが、うまくいった。

 あの人は酔い覚まし魔法とか絶妙なものをたくさん知っているから、もっと教えてもらおう。




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