23.行方不明事件
「今のところ被害者は猫耳と犬耳の女の子2人です。1月前、首都郊外の公園で遊んでいたところを連れ去られたようです。すぐに捜査隊を組織して、探したが見つかりませんでした」
バレンシアさんが経緯を説明してくれる。
「獣人が匂いや音に敏感でこういう捜査にはすごく力を発揮するはずですが、今のところ何の手掛かりも掴めていません」
確かにサランも敵が近づくとすぐにわかる。
認識阻害の魔法のようなものだろうか?
―――U歴350年7月12日―――
翌日から早速捜索を開始した。
まずは、女の子が連れ去られた公園に来た。
メンバーはパドラさん、サキさん、リーリンさん、ナレンダさん、ラウラーラ師匠、ケンブ、サランと俺だ。
連れ去られたのは1月も前だから何も残っていないだろうが……
広く整備された公園だが、木々や大きな岩があって、死角が多い。
公園の向こう側には広い森が広がっている。
「森に入ってみよう。街では獣人以外が獣人の子供を連れていると目立つからな」
森に入ってしばらく進むとサキさんとサランがおかしなことを言いだした。
「匂いがしなくなった」
「僕もだよ。何だろ?鼻が利かない」
俺には、少し、何か燃えたような匂いはするが、鼻がおかしくなったような感じはない。
しばらくするとサキさんとサランが今度は頭を押さえてうずくまった。
「うう、何か頭がボーとして立ってられない」
サランも同じような症状の様で、念のため二人を連れて、森の外に出た。
師匠とパドラさんが『キュア』を唱え、少し休むと症状は治まったが、2人をここに残して、もう一度森に入ることにした。
何かが燃えたような匂いがする方向へどんどんと足を進める。
今のメンバーは誰も体に異常を感じられない。
「師匠~やっぱりこれ魔物除けの薬草の匂いじゃない?」
「そうだねえ。少し違う匂いも混じってる気がするが、魔物除けの匂いだねえ。まだ作れる薬剤師がいるのかねえ?」
「昔、山の国の薬師を助けて、いろいろ教えてもらったことがあるのよね。懐かしいわ、あの薬師のおばばはまだ元気かなあ?」
「あんたはおばばに引っ付いて、薬草学をいろいろ教えてもらってたからねえ」
ラウラーラ師匠の話では、魔物除けとは鉱山に生える特殊な草花を山の国に伝わる特殊な製法で作ることができる薬で、燃やして出る煙を魔物が嫌がり、寄り付かなくなるそうだ。
人に無害で魔物にだけ効果がある薬を作り出すのは難しいようだ。
しばらく歩くと、だんだん匂いが強くなってきて、草木の向こうに小さな小屋が見えた。
皆で隠れて小屋を見張ると、小屋から、ひょろりとした男が出てきた。小屋の横には、小さな土間のようなものがあり、そこから煙が出ていた。
パドラさんが素早く茂みから出て、『アースバインド』と唱えると蔓が男を捕らえた。
土魔法で作った鋭い槍のようなものを手に取り、男に向けて話し始めた。
「お前は何をしている?」
その間にナレンダさんとケンブが小屋のドアを開けて、中を捜索し始めた。
ナレンダさんが外に向かって手を振るので、みんなで小屋に入った。
中には、2人の獣人の女の子が眠っていた。
「どうやら、こいつが犯人で間違いないね。女の子にけがはないようだけど衰弱してるね」
リーリンさんが確認して、念のため『ヒール』と『キュア』を唱えている。
女の子は気がついたようだが、しばらくするとまたボーとして力が無くなってしまったようだ。
「やはり、あの煙が原因のようだねえ」
ラウラーラ師匠が表に出て、煙を出している土間にウォーターボールをぶつけて火を消した。
捕らえられた男が突然騒ぎ出す。
「だめだ、煙を消すとあいつが来る」
「あいつとは誰だ?」
パドラさんが強い口調で詰問する。
「大きなトカゲの魔物でこの辺りに住み着いたんだ。その子たちを襲ったのも奴だ。隙を見て助け出したが、奴の縄張りから出ることができなくなって、仕方なく魔よけの煙を焚いて、ここに避難していたんだ。奴はまだその子たちを諦めていない」
ラウラーラ師匠が俺をみてうなずく。
そうだ、索敵魔法だ。
半径1kmを捜索すると、500メートルほど離れたところからこちらに向かって大きな魔物が向かってくるのが分かった。
「みなさん、何か来ます」
ナリンダさんとリーリンさんが2人の女の子を守り、残りで魔物を撃退することにした。
現れたのは迷彩色のトカゲだった。
「バジリスクだねえ。ずいぶんと大物が出てきたねえ。この魔物は慎重でなかなか近づいては来ないよ、遠距離からストーンキャノンのようなものを飛ばして、動けなくしてくる。こっちの土魔法の攻撃はほとんど効かないからそれ以外で攻撃しな」
ラウラーラ師匠がみんなに教えてくれる。
リーリンさんが素早く『アイススピア』を連発してけん制すると、バジリスクは少し距離をとって警戒している。
次の瞬間、俺は右足に違和感を覚えて、足を見ると小さな針のようなものが刺さっていた。
「早速食らったね。その針の毒が回ると石になったように動けなくなるよ。『キュア』」
師匠のキュアで少し動くようになった。
「完全には治らないが、今はそれで凌ぐしかないよ」
俺は土魔法が得意だが、他の魔法も一通り使える。
『エアカッター』を連射するが捕らえることができない。
するとパドラさんが風魔法で何かやっているのが見えた。
よく見ると風の渦でできた砲身のようなものが5本宙に浮いていた。
「大師匠、ちょっと足止めお願いできませんか?アイス系で温度下げて動きを鈍くできるといいんですが?」
「任せな。コースケも手を貸しな」
『アイスストーム』を唱えた師匠に続き、俺も魔力を強めに乗せて唱える。
30秒ほどで周りの草木も氷始め、バジリスクの動きも悪くなった。
「よし、じゃ、とどめだ。『ストーンキャノン』」
あれ、土魔法は聞かないって……と思ったら、バジリスクの身体に大穴が開いて、体の三分の一程度が消えて倒れていた。
何ていう威力だ。
「とんでもない魔法を使うねえ。今の魔法は、自分で作り出したのかい?」
ラウラーラ師匠が驚いた顔で聞いた。
「いえ、仲間たちといろいろ工夫して作り上げた魔法ですよ。ベースはリーリン師匠から教えてもらったストーンキャノンですが、火魔法、風魔法、水魔法も同時に発動させてます」
ますます感心した様子のラウラーラ師匠に、リーリンさんがどや顔で言った。
「へへんっ。私の弟子はすごいでしょ師匠」
「ああ。汚れるのが嫌いとか言って土魔法を覚えなかった弟子なんかとは比べ物にならんねえ」
リーリンさんが渋い顔をした。
バジリスクの死骸を俺の収納空間に入れて、サランたちが待つ公園に向かう。
捕まえた男は念のため拘束したままだ。
サランたちはもうすっかり体調も良くなり、追いかけて森に入ろうか悩んでいたところだったので、俺たちが姿を見せると安堵した表情だった。
保護した女の子たちは衰弱していたので、一緒に王宮に連れて行って治療をすることにした。
女の子の意識が戻り、誘拐の状況を聞くとやはりトカゲに連れ去られたということだったが、その後のことは覚えていないということだった。
とりあえず、誘拐したのは、捕らえた男ではなかったので、男の尋問は、牢ではなく部屋で行った。
男も衰弱していたので、回復魔法をかけて、食べ物を与えるとものすごい勢いでがっついて食べていた。
「これからお前の話を聞くが、その前に、行方不明だった少女2人も無事で、少女たちも魔物にさらわれたと証言した。お前は少女2人を救った恩人になるが、何であんな危険な魔物から少女を救おうとしたんだ?」
パドラさんが真剣な顔で男に質問した。
男も真剣な顔で答えた。
「ケモミミの少女を助けるのに理由がいるのか?」
2人はがっちりと握手をした。




