21.襲撃
サランは師匠とケンブを起こしに行った。
まともな状態だったらケンブなんかは襲撃者に気付きそうだが、やはり二日酔いで寝ているのだろう。
どうやら屋敷を取り囲まれたようなので、俺も2階に上がり、4人で部屋にこもることにした。
2階の部屋に入ってすぐ、1階の扉が開けられて、人が入ってくる音がした。
師匠は頭を押さえながらなんとか起き上がり指示をくれた。
「顔を確認するまでは大火力魔法をいきなりぶっ放してくることはないだろう。部屋の入り口が空かない様にドアを固定して、家具を置くんだ。敵が突入してきたら、素早く魔法を放ちすぐに窓から下に飛び降りるよ。ケンブは下で待ち受けている奴がいないか確認しておくれ」
ケンブが窓から下を確認すると庭から3名がこちらを監視しているようだ。
「仕方ない。ここで戦うしかないね。サラン、家が壊れてもちゃんと直してやるから安心しな」
『ヒール』『キュア』
師匠が呪文を唱えて酔いをさます。
「この魔法では酒に酔った状態は完全には回復しないんだよ。酔い覚ましの魔法は、リーリンが得意だったんだけどねえ」
リーリンさんとは師匠の弟子だが、俺は会ったことはない。
さらに『クイック』『アイアンボディ』を全員にかけて準備する。
「さあ、敵が来るよ」
2、3度ドアを開けようとした音が聞こえたかと思うと、突然ドアが風圧で開かれた。
「『バースト』だね。なかなか強い魔法使いがいるよ」
次の瞬間、剣を持った4人が飛び込んできた。
師匠が『アイススピア』、俺が『ストーンキャノン』、サランが『エアカッター』を放つが、敵の足が止まらない。
ケンブが前に出て一人と剣を交え、もう一人をけん制して足止めするが、2人が越えてきた。
俺は、買ったばかりの剣を構えて、敵の剣を受ける。
サランがもう一人と対峙し、体術で敵の剣をいなしている。
師匠は部屋の入り口に向かって『アイススピア』連射して、次が入ってこないようにけん制を続ける。
俺はつたない剣を振りながら、『ストーンバレッド』相手をけん制して、何とかダメージを受けないで持ちこたえる。
ケンブが一人を切りもう一人と対峙した。
サランは相手の剣をうまく避けて、何発か相手に蹴りを入れた。
ケンブがもう一人の腹を刺して、倒すと、後ろから俺の相手を切ってくれた。
サランの相手を師匠のストーンキャノンが貫き、まず、最初の4人を倒し切った。
次の敵は、師匠のけん制が効いて、部屋に入ってこれない。
「さあ、次が来るよ」
その時、外から火の塊が部屋の中に飛んできた。
「まずいねえ。部屋に燃え移るよ。窓から飛び降りるんだ。ケンブ、道を作っておくれ」
ケンブが飛び降り下で待ち構えている敵と対峙している隙に俺と師匠とサランも飛び降りた。
敵を抜けないでいると家から出てきた敵に囲まれた。
「ちっ、こいつら結構手練れだよ」
ケンブは待ち構えていた3人と対峙しているが、連携されてなかなか突破できない。
俺も『ストーンキャノン』を連射するが、躱されて、けん制になるけどダメージは与えられていない。
それぞれが2~3人の相手と対峙した状態になり、少しずつ追い詰められていく。
やはり、対人戦闘は、魔物の相手とはずいぶん違う。
対人戦に不慣れな俺とサランを師匠とケンブがフォローしてくれているが、その2人に敵は集中して、囲む人数を増やした。
俺とサランの相手は1人ずつになったが、特に俺が厳しい。
強力な魔法を使う隙は与えてもらえず、徐々に剣で押されていく。
とうとう右手に剣がかすって、痛みで剣を落としてしまった。
「コースケ!」
俺の近くにいたサランが叫ぶが、相手に攻撃されてこちらに来れない。
まずい!と思ったところで、俺にとどめを刺そうとしていた敵が、突然崩れ落ちた。
背中にストーンスピアが刺さっていた。
一瞬のうちに、サランと対峙していた敵も倒れ、ケンブと師匠と対峙していた敵も2人ずつ倒れる。
師匠とケンブはすぐに残る敵を倒して、危機を脱した。
庭の入り口から、パドラさんが歩いて来た。
「よかった。何とか間に合ったようだね」
座り込んだ俺に手を差し出してくれたので、手を出すと、立ち上がらせながら『ヒール』を唱えてくれた。
右手の痛みが引き、一瞬で傷が消えた。
あっけにとられていると、パドラさんは燃えている2階に向けてウォーターボールを放ち、火を消した。
走って庭には行って来るサキさんに向かってパドラさんが叫ぶ
「サキ、衛兵と師匠たちを呼んできてくれ。得意の尋問をやってもらおう」
サキさんはUターンして、走って行った。
「助かったよ。あんた強いねえ。あんたの師匠に会ってみたいものだよ」
ラウラーラ師匠もパドラさんの強さにびっくりしたようだ。
「今師匠を呼んだからすぐきますよ。6歳の時からしごかれましたからね」
パドラさんは土魔法で倒れている敵を素早く拘束しながら、傷がひどい敵にはヒールもかけている。
ふと、俺が昨日作った蒸留器に目をやるとパドラさんが俺に聞いて来た。
「あれは蒸留器じゃないか?君が作ったのかい?」
「はい。そうですが、蒸留器を知っているんですか?」
「ああ、蒸留酒の製作に成功したのか?」
「品質はまだまだですが、何とか飲めるものができました。師匠たちは大絶賛でした」
「すごい!ぜひ俺にも作ってくれ」
すごい食いつきでお願いされた。
しばらくすると何人もの人が走って庭にやってくるのが見えた。
「パドラ~、また襲われたんだって?相変わらずだね~。って、師匠!何でここにいんの?」
パドラさんに話しかけていた女性が、ラウラーラ師匠を見て、突然声を上げた。
「ん?リーリンじゃないか?ひさしぶりだねえ。あんたこそこんなところで何してんだい?」
パドラさんもびっくりしたようで慌てて確認する。
「ええっ。リーリン師匠の師匠がラウラーラさんってことですか?」
「ああ、リーリンは私の弟子だよ。あんたみたいな弟子を育てたなんて驚きだね」
「師匠、何でこんな奴らにやられてるの?弱くなった?あっ、またお酒飲んで2日酔いになってるでしょ。も~仕方ないなあ『ソバーアップ』」
「おっ。スッキリした。やっぱりあんたの酔い覚まし魔法は最高だね」
何か楽しそうに話しているラウラーラ師匠とリーリンさんだが、その後ろにもう一人、肌が浅黒い女性がいた。
「ナレンダ、私の師匠のラウラーラだよ」
ナレンダと呼ばれた女性は頭を下げて挨拶をする。どこかで見たことあるような。
「ああ、初めまして。ってもしかしてナランガという男を知らないかい?」
そうか、精霊森国の『万国料理ニナ』のナランガさんと似ているんだ。
「ナランガは私の弟ですが、お知合いですか?」
「いやー。世間は狭いもんだね。ナランガにはいつも美味しい料理を食べさせてもらっていたよ」
俺たちは襲撃者を捕らえた衛兵と一緒に全員で王宮に行くことになった。何人かの衛兵をサランの家に残し、サランの両親には説明をしてもらう。
王宮に着くと、リーリンさんたちは襲撃者の尋問に向かった。
ラウラーラ師匠とケンブも付いて行った。
俺とサランは、パドラさんと部屋で、俺が襲われた経緯を説明した。
東王国での出来事、ニル魔導国での襲撃など詳細に話をしていると結構な時間を費やした。
「なるほど、東王国の追手ということだね。師匠が尋問してるから、すぐ裏をとれると思うよ。あの人の尋問はえげつないから……」
パドラさんが嫌な顔をしながら言う。どんな尋問をするんだろう?
そこで一人の衛兵が部屋に訪れ、サランの両親が王宮に着いたことを知らせに来た。
「サラン、両親と話をしてきてくれ。家については俺が支援して直させるし、君やコースケ君の安全は俺が保証するから、安心させてやってほしい」
サランが部屋から退出し、俺とパドラさん2人きりになった。
「少し、外に出よう」
2人で部屋から出て、中庭に向かった。




