20.パドラ
―――U歴350年7月10日―――
翌日、4人で王宮に向かった。
事前にサランの父が連絡してくれたらしく、王宮の入り口で名前を告げるとすぐに中に案内してくれた。
待合室で待っているとその人が現れた。
「サラン!ずいぶんと美人になったね」
「パドラ、本当に無事でよかった。かっこよくなったよ」
2人は抱き合って再会を喜んでいた。
ちょっと胸が痛い……
それにしてもパドラさんという人は本当にかっこいい。
スポーツをやっているような健康的な美しさだ。
パドラさんと一緒に顔を見せたのは、奥さんのサキさんこと、獣人国第二皇女アンドラ様とパドラさんのお母さんだった。
何でも、アンドラ様は、幼少期の記憶を一時的に失って、ずっとサキとして暮らしてきたから、パドラさんたちからはその名前で呼ばれているらしい。
サランはパドラさんのお母さんとも再会を喜んでいた。
「妹たち、スーラとカーラは、じいちゃん、ばあちゃんと留守番なんだ」
「残念だよ。みんなに会いたかったよ」
「今度ぜひカルザンに遊びに来てくれ。昔住んでいた村の近くに新しい街を作ったんだ」
何でも前の領主が誘拐された獣人を大勢買って軟禁していた悪い奴だったらしく、パドラさんと家族が仲間を集めて倒したら、王様から領主をやれと言われて、領主になったそうだ。
スゲー人だな。
「師匠のおかげである程度戦えるようにはなったけど、皆の助けがないと俺一人では何もできないよ」
偉ぶってもいない。
「コースケって名前は少し変わってるけど、どこから来たんだい?」
パドラさんはサランと一緒に旅してきた俺に興味を持ったようだ。
少し悩んだが、サランの友達だし、正直に話すことにした。
「俺、実は日本という異世界から来た転移者なんです。召喚されてすぐ東王国から逃げて、ここまで来ました」
「日本から来た転移者だって?本当かい?君以外にもいるのかい?」
パドラさんはすごい食いつきだった。
「俺は召喚翌日に逃げ出したので、会ったのは2人だけですが、俺より先に100人程度召喚されたと聞きました」
「100人?そんなにたくさんも・・・」
何か思案したパドラさんは続けて質問をしようとして、サキさんに時間だと言われていた。
「すまない。この後約束があってね。もっと話を聞きたいのだけど、明日また会うことはできるかい?」
「俺は構わないですが……」
「せっかく知り合いになれたんだ。あんたはまだ逃亡者なんだし、権力者と仲良くすることには賛成だよ」
ラウラーラ師匠がかなりぶっちゃけた意見を言う。
「あはは。お役に立てれば光栄です。では明日、サランの家に迎えに行きますので、よろしくお願いします」
王宮を出た俺たちは、街を観光することにした。
昼食はサランおすすめのレストランに入った。
「それにしてもパドラってのにずいぶん気に入られたねえ」
師匠が言うが転移者にそんなに関心があるのだろうか?
「パドラと久しぶりの再会だったのに私よりコースケと話したがってた」
ちょっとふくれっ面のサランがかわいい。
「そんなことないよ。今度カルザンに遊びに来いって言われていたじゃない?妹がいるみたいだね」
「二人ともかわいいんだよ。早く会いたいよ」
昼食を食べ終え、午後は何をしようか話を始めた。
明日はパドラさんと会うことになったから、今日の内にやっておきたいことができたので、師匠に相談する。
「師匠、蒸留器を作ろうと思うんですが、蒸発用の魔道具と冷却用の魔道具を買いたいんですけどわかりますか?昨日師匠たちに秘蔵のお酒を出してくれたから、サランのお父さんに蒸留酒をプレゼントしたいです」
「よし、すぐに探しに行くよ。サラン魔道具屋に案内しな」
師匠とケンブはすぐに立ち上がり、サランに案内させて魔道具屋に急ぐ。
魔道具屋で目的の魔道具を見つけたが、結構高かった。
「冒険者ギルドに行って金を下ろすよ。まだ、ヴェセルで稼いだ魔物の代金は入金されてないだろうけど、貯えはあるからね。コースケ、蒸留器の出資は私だからね。ちゃんと酒を分けておくれよ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと師匠とケンブの分も作りますから」
冒険者ギルドで金を下ろし、魔道具屋で魔道具を購入し、サランの家に急ぐ。
ケンブは酒屋に寄って、蒸留用のお酒を購入してくるといって別れた。
サランの家の庭を借りて蒸留窯と冷却器につなげる配管を作成する。
石の材質を操作して、できるだけ熱伝導がいい素材を生成し、形状を整えていく。
蒸留窯が完成したら、早速師匠が魔道具に載せて試運転を始めた。
冷却器と配管でつないで冷却器も試運転をする。
うん。うまくいきそうだ。
ケンブが台車いっぱいに酒を買ってきたので、まずは葡萄酒から試す。
葡萄を原料とした蒸留酒はブランデーだな。
本当は、原料を発酵させるところから作りたいけど、もう少し落ち着かないと難しいな。
麦芽を使ったビールのようなお酒、芋を発酵させたお酒、はちみつ酒もあったので、順番に蒸留していく。
蒸留窯は師匠が担当し、俺が冷却器を担当する。
ケンブが買ってきた酒まだたくさんあったが、辺りは真っ暗になってきて、サランのお母さんが、ご飯ができたと呼びに来たので、作った数本の蒸留酒の瓶を持ち込んで、夕飯で試飲した。
「うまい!喉が焼けるようだよ。料理にもあうね」
サランのお父さんはとても喜んでくれた。
師匠とケンブは当然大絶賛だ。
1度蒸留しただけだから、まだ元の原料の風味がよく残っている。
品質的にはまだまだ日本の蒸留酒と比べられないが、少しずつ研究してもっと美味しくしていきたい。
今日は師匠とケンブが酔っぱらってしまったので、一人で自主練して、さっさと寝ることにした。
―――U歴350年7月11日―――
朝起きて一人で自主練をした。
師匠とケンブは二日酔いでまだ寝ていた。
朝食を食べるとサランのお父さんとお母さんはどこかに出かけて行った。
パドラさんの迎えが何時になるかわからなかったので、とりあえず、サランと一緒に家で待つことにした。
サランが突然立ち上がった。
「誰か来たよ。15人くらいいるけどおかしいな、気配を消すような歩き方をして、殺気を放っている」
パドラさんの使いにしてはおかしい。まさか東王国の追手だろうか?
昨日、食堂、冒険者ギルド、魔道具屋と結構派手に動いたので、見つかったのかもしれない。




