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14.河の国




 ヌルメスから獣人国までは船で行ける。

 ただし、サランの両親がいる町は、船で行ける町から離れているため、獣人国内は陸路で移動が必要だ。


 緑の河を遡って4日間、河の国の首都ヴェセルに向かい、船を乗り換えて、青の河を3日ほど下ると獣人国の港町ラクーンシティに到着する。

 連合国内はこの河の国を起点に3つの大河、青の河、赤の河、緑の河が流れていて、すべての国の都市と結びついている。

 獣人国と神聖国と山の国の首都は、大河沿いにないが、港町から首都まではそれほど距離がないため、陸路で簡単にいくことができる。


 ヌルメスの船着場からヴェセル行の船に乗り込んだ俺たちは、前回と違って、船室から外に出て景色を見ることにした。


「ヌルメス以北の航路はこの時期黄金街道と呼ばれる観光名所なんだ。どうだいすごいだろう?これを見ながら蒸留酒を一杯飲むともうサイコーだね」

 ラウラーラ師匠とケンブはすでに飲み始めているが、森の木々に金色に光り輝き、確かに美しい景色だ。

 サランも初めて見るようで、その金色の花を咲かせた森を吸い込まれるように見ていた。


 ヌルメスでの最後1週間の修行で、俺は土魔法の『ストーンキャノン』『ストーンバレッド』『ストーンウォール』などの呪文を覚えた。

 もともと使えていたが、呪文で使えた方が、威力が安定し、展開速度が速くなるので、非常に有効だ。

 さらに風魔法、火魔法、水魔法を使えるようになった。これらの魔法の呪文もいくつか覚えたが、土魔法を軸に、これらの魔法を乗せて戦う方法を極めていこうと考えている。

「それにしてもあんたは器用だねえ。4属性すべてを使えるようになる奴も珍しいが、とにかく覚えるスピードが速いねえ。教えがいがあるよ」

 師匠に褒めてもらえてうれしかったし、魔法の才能があるようでよかった。


 ただ、この世界では、魔法を比較的覚えやすいが、本当に使えるようになるには、時間をかけて鍛錬する必要がある。

 覚えたばかりで使おうとすると、例えば、ファイアボールが明後日の方向に飛んで行って火事になったり、ウォーターボールを破裂させて自分がびしょぬれになったりと、その制御ができない。

 特に戦闘で使用するには、制御するだけでなく、威力、展開速度、移動速度等を安定化、かつ、高速化させないと難しい。


 俺は、魔法だけでなく、ケンブに武技を教えてもらうことにした。

 ケンブは体術、剣術、槍術が使えるのだが、さらなる強さを目指して、ラウラーラ師匠に師事して生命魔法の身体強化を教えてもらっているそうだ。


「俺には魔法の才能がないようで、なかなか覚えられないんだ。コースケがうらやましいよ」

 ケンブはそういうが、ケンブの武技の才能はかなりのもので、サランも体術を教えてもらっているが、ケンブに全くかなわない。


「ケンブは、魔法無し、武技のみの戦いなら、この世界でも有数の使い手だろうねえ。実際の戦闘では、身体強化ができるやつが有利だから負けることもあるだろうが、別に身体強化魔法は本人がかけなくても私がかければいいんだけど、どうしても自分で使えるようになりたいそうだ」

 ラウラーラ師匠もケンブの強さを認めている。


 ケンブのことを師匠と呼ぼうとしたら、全力で断られた。


 朝食前と昼食後はケンブと訓練、それ以外の時間は師匠と訓練、夕食後、夜寝るまでは、師匠に考えてもらった自主鍛錬を毎日欠かさず続けた。



 ―――U歴350年6月29日―――


 河の国の首都ヴェセルに到着した。

 この街の東側は緑の河があり、南側には赤の河が流れていて、ちょうど街の南東で緑の河と合流している。さらに北側には緑の河から分かれた青の河が流れている。

 街の中にも河の水を引き込んだ水路が無数にあって、水上交通が盛んな街だった。


 ラウラーラ師匠もいつも乗り継ぎ程度でしか滞在しないそうで、この街についてはあまり詳しくはないそうだ。

「まずは、獣人国行の明日のチケットを取ってから、宿を取ろう」

 いつものようにケンブがチケットを取りに行ったが、すぐに戻ってきた。


「ラクーンシティ行の旅客船は明日から5日ほど運休だそうだ。何でもラクーンシティに王族が来るそうで、警備のために5日間は旅客を入れないらしい」

 ケンブが状況を調べて教えてくれた。

 サランは少し思案してから、言い出した。

「珍しいことだよ。いったい誰だろう?第1皇女のバレンシア様は視察で国中回られるけど、警備で街の入場を止めることなんてふつうは無いけど」

 サランが疑問に思っているようなので、もう少し情報を集めることにした。


「ずーと寝込んでいた皇帝陛下の病気が完治し、王族みんなでバカンスだとさ、外国に嫁いだ第2皇女も帰国するらしいねえ」

「へえ、それは大ごとだよ。ラクーンシティは大騒ぎだろうね。第2皇女というのは幼少期に拉致されてずっと行方不明だったんだけど、数年前に王国で見つかったって聞いたことがあるよ」


「ラクーンシティの手前のジラフシティまでなら船も出るらしいが、どうかな?」

「うーん、ラクーンシティと首都のタイガーシティの間は高速馬車で1日あればいけるからね。ジラフシティだと陸路で首都までかなり時間がかかるから、5日待った方がいいかも」

 サランの意見に皆頷いた。

「じゃあ、5日間河の国を満喫するとしようじゃないか。まずは宿だ。イロマンツィ卿がかなり謝礼をはずんでくれたから、風呂があるいい宿を泊まろう」


 選んだ宿は、街の北側を流れる赤の河に面した2階建ての宿だ。

 2階に河を見ながら入れる風呂が作られていて、船乗り場の案内所で薦められた。

 4人部屋が空いていたので、部屋を取って、すぐに食堂へ行くと獣人がたくさんいた。


「船が運休で今日はここら辺の宿に泊まる獣人の人が多いねえ」

 宿の女将さんが教えてくれた。

「今日は、川魚のサラアユと魔獣のファングトラウトがおすすめだよ」

「じゃあ、おすすめを頼むよ。酒も一緒に持ってきてくれ。あと、少しだけ持ち込んだ酒を飲みたいんだがいいかい?」

 ちゃっかりとラウラーラ師匠が蒸留酒を持ち込んでいた。

「人数分料理を頼んでくれれば、構わないよ」


 おすすめ料理はおいしかった。川魚はカルパッチョのように生で出てきたが、全く臭みがなくおいしく食べられた。

 ファングトラウトの肉は、豚肉のような歯ごたえと味わいだったが、冷たく冷やして甘辛いたれと食べると最高に美味しかった。


「いや~この蒸留酒とうまい料理は本当に合うねえ。この年になって蒸留酒に出会えたことは本当に幸運だ」

 ラウラーラ師匠は50を越えているらしい。

 見た目は30代なのでギャップがすごい。

 ケンブは40歳で、サランは20歳だった。


 俺は、転移の影響で、身体的に変化し、外見は16歳くらいに見えるのだが、日本では25歳だった。

 転移だから歳はそのままのはずだが、体が若返って、だいぶ変わってしまっているので、何歳にすればいいかわからない。

 正直に3人に相談すると、師匠が意見を言ってくれた。


「その見た目で25歳というのはちょっと聞いた人を驚かせるし、嘘をついているように疑われるだろうね。実際に若返ったんだ、18歳くらいと言っておいた方が無難だろう」

 サランもケンブの同じ意見のようだ。


 食事をしながら、明日から5日ほどをどう過ごすか皆で話し合った結果、冒険者ギルドに行って、魔物討伐の依頼でも受けて実践をしてみようということになった。

 楽しみだ!


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