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ドラゴン・クラン(Ⅱ )よちよち編  作者: 木苺
番外編 清明の結婚
92/92

新婚生活

清明の領主(やかた)の面々は すでにキャラハンと顔なじみであった。

 なにしろ すでにキャラハンは 清明に招かれて館に滞在していたから。

 結婚式にも 館の侍女たちに身支度してもらって出席したくらいだ。


(スカイが 清明とキャラハンを 領主館のホールから会場の入り口前へと 転移させたのである)


それでも結婚式を終えて、正式に領主婦人として館に足を踏み入れるキャラハンを

使用人一同、整列して迎えた。


清明が ミューズのアイデアを気に入って、新婦を抱えて家の玄関をくぐることにしたものだから、スカイは、結婚式後 わざわざ二人を領主館の玄関前に転移させた。


玄関前についた二人は自然に顔を見合わせ、うなづきあい、清明は キャラハンをさっとお姫様抱っこした。


清明が新妻を抱えて 我が家への最初の一歩を進めることはあらかじめ伝えてあったので、いつもはいないドアマンが、玄関ドアの前で待機しており、ステップを上ってくる清明に合わせて、さっと 玄関の両開き扉をあけ放った。


キャラハンは 軽くうなづいて ドアマン役を務めた従僕達に謝意を伝え、

清明は 堂々と玄関を通り抜けた。


この日は特別に、レッドカーペットが 入口から奥へと敷かれていた。

 執事による演出である。


その赤じゅうたんの両側に 使用人たちがずらりと並んでいた。


家令ラウド・スチュワード

  清明が「ご隠居」と呼ぶ、コンラート領全体の差配役、どちらかと言えば接客系


執事ハウス・スチュワード:館の管理と男性使用人の人事(事務係)


・バトラー:清明の秘書兼身の回りの世話(主に商売関係の事務)


一般的な貴族家の使用人の名称を使ってはいるが、実際の役割分担は清明流に少し変えてある。


厩舎長マスター・オブ・ザ・ホース


・庭師:庭園と農園・温室の管理


従僕フットマン:男性使用人


以上が男性使用人たち。


その向かい側に並んだ女性使用人たちの内訳は、

侍女レディース・メイド:公爵夫人の身の回りの世話係

  着付け・ヘアケア・スキンケアなどの美容部員&貴族関係の社交の知恵袋

  公爵夫人の個人的な相談役&話し相手


家政婦長ハウスキーパー:侍女・厨房関係以外の館の女使用人たち(=女中)の人事・統括


・料理長:コックや買い出し係など厨房関係のまとめ役

  清明の所では たまたま料理長は女性で、厨房で働く男女のまとめ役・人事統括責任者でもあった。

  それゆえ、新婦様お出迎えの列では、厨房関係者は 女性側の列の料理長のあとに連なった。


・女中:女性使用人


清明の代になってから、女性の使用人たちの職務体系も手直しされ、長らく家政婦長と料理長が同等の立場にあった。


キャラハンを迎えるにあたって侍女が採用され、侍女長も、家政婦長・料理長と同等とされた。


また、将来、キャラハンが独立した事業を起こす際には、性別不問でキャラハンの個人秘書も雇うであろう。この場合 個人秘書たちは キャラハン直属となり、コンコーネ家の使用人とは別枠になるかもしれない。


これだけの使用人がずらっと並んで、新公爵夫人をお出迎えした。


・・

すでに この者達とはキャラハンも顔なじみであったので、出迎えの列の前をさりげなく通り抜けて夫婦の部屋に入った新郎新婦。


「さすがに あれだけの列の(あいだ)を通り抜けるのは緊張するわね」キャラハン


「全くです。

 全員並ぶと 壮観でしたね」清明


夫婦の部屋には、寝室はもちろん居間にも、主人たちが中にいるときには、平常時は呼ばれない限り使用人たちは入って来ないことになっている。


それで お茶を飲みたければ、あらかじめ部屋に用意しておいてもらうか、自分達で入れなければいけない。


キャラハンは めいめいの部屋に戻って着替えている間に お茶をいれてもらおうかと思ったのだが、清明が 自分の手で花嫁の衣装を脱がせたいと言ったので 真っ赤になってしまった。


なにしろ、清明は キャラハンを横抱きにしたまま、階段を上って2階の夫婦の部屋にまで運んできたのである。


ちなみに 夫婦の部屋のドアは、領主夫妻を出迎えた後 小走りで先回りした侍女二人が扉前で待機してあけてくれたのであるが、居間から寝室につながる部屋のドアは、清明が キャラハンを片手で抱えなおして自分で開けた。


清明がそこまで頑張って新婦をベッドまで運んだ以上、

キャラハンは清明の希望をむげにもできず・・

しかし 清明は ドレスの脱がせ方など知らなかったので・・


「あーこんなことこなら 予行演習をしておけばよかった」とぼやきつつ

キャラハンの指示に従って ドレスを脱がせることになった。


「もう 恥ずかしい」と言いつつ、大切なドレスを傷つけずに脱ぐためには

清明に細かく指示しなければならなかったキャラハンは、いつのまにか冷静になってしまった。


めでたくドレスを脱がせ終わった清明は 真面目な顔をしてベッドに座り込んでいるキャラハンを見て ドキドキするやら、ためらうやら

(そういえば この先 どうするか決めてなかった(-_-;) )


もじもじしている清明を見て ぷっと噴き出すキャラハン

つられて笑い出す清明


「ウェディングドレスを脱がせるのは、花婿(はなむこ)の夢だとあこがれていたのですが

 このあと どうしましょう?

 この先の展開を何も 考えてませんでした」清明


「えーっと 私 自分の部屋に行って、ドレスを片付けたり着替えしてきます。

 シャワーも浴びてくるので、あなたも 部屋着に着替えて待っていてください。


 居間に お茶とケーキの用意をしていてくださるとうれしいわ」キャラハン


「了解いたしました。奥様」

清明がおどけて 執事のように腰をおった。


おかげで キャラハンも下着姿の恥ずかしさをあまり気にすることなく、自分の部屋へと向かうことができた。


夫婦の寝室の両側に、清明とキャラハンのそれぞれの部屋(バス・トイレ付きの寝室と居間)があった。


清明個人の寝室は、夫婦の寝室に接しており、清明のバスルームは夫婦用のバスルームを兼ねていた。


一方、キャラハンの居間は、夫婦の居間の隣で、廊下に出ることなく行き来できるようになっていた。


それゆえ キャラハンが下着姿で一番奥にある自分の寝室へと移動するには 結構な距離があったのだけど、

夫婦の部屋のベッドの上には ガウンが置いてあったので、それを羽織ってとりあえず移動した。


 ちなみにキャラハンの寝室とキャラハンの居間(応接室)との間に、トイレ・洗面・風呂とドレッシングルーム・衣裳部屋ウォークインクローゼットがはさまっている。

 

 なお、ドレッシングームには侍女専用のドアがあり、廊下から侍女が直接出入りできるようになっている。

 この扉は常に施錠され、そのカギは衣装係でもある侍女長とキャラハンのみが持っていた。


(こうしたこまごまとした取り決めも、婚約発表までの期間に、清明と話しあって、部屋の改装とあわせて使用人たちを新たに雇入れる前にキャラハンが決定したのであった。)




実のところ 清明は女性用の下着も脱がせてみたいなぁという、結婚への願望その2があったのだけど、初めてまじかで見た女性用の下着がとても複雑なものに見えて、手が出せなかったのだ。

 (うーん これは 予行演習が必要?でも どうやって・・

  まさか ほかの女性の下着をぬがせるわけにもいかないし・・)

 さっそく 新婚早々 新たな難問発生の気配である。



・・

キャラハンは あらかじめ侍女に頼んで、帰宅したらすぐに入浴できるように差配してあった。


侍女は、キャラハンの為に公爵夫人用のバスに湯をはり、香りのよいレモングラスの葉を束にしてつけておいてくれた。


早朝の着付けから始まって お式まで緊張の連続だったキャラハンは のんびりと湯にひたり、侍女に体を流してもらった。


そして 高く結い上げていた髪をほどき、丁寧にブラッシングしてもらい、軽く 髪留めでまとめてもらった。


心利(こころき)いた侍女に世話をしてもらうことになれると、その快適さが手放せなくなる。


侍女に用意してもらった部屋着ワンピースに着替えて、夫婦の居間に戻った。


そこには 客たちのお土産用に配ったウェディングケーキと紅茶が用意されていた。

 このケーキは 屋敷の使用人たち全員にも配ってあった。


 さっぱりとしたレモン味のフワフワホイップクリームに包まれ、中のスポンジには苺ジャムとカスタードクリームが挟まっている。そしてパリパリの薄いチョコを巻いた細い筒状のものが添えられていた。


 このケーキは 領都のケーキパーラーと館の料理人たちが協力して大量生産して、

結婚式の参加者に配ったり、館の使用人に配ったり、食器工房などコンコーネ家直営事業の従業員とその家族に配ったり、ご領主様のご成婚祝いの特別販売品として、町の人に原価価格で店頭販売した。

 もちろん 原材料の手配とパーラーの人件費とパーラーへの謝礼は、コンコーネ家負担である。


俗に「領主がぜいたく品を購入して領地に金を回す」とほざく阿呆がいるが、それは完全なるまちがいである。


ぜいたく品の売買で(うるお)うのは、ごく一部の片手の指でも余る程度の数の販売人と仲買人だけである。

 ぜいたく品というのは、素材を安く買いたたき、低賃金の過酷な労働搾取で製品を完成させて、商品を売り込んだ商人だけが多額の資金を手にする仕組みになっているのである。


まっとうな賃金で人を雇い、適正価格で購入した素材を加工して 恒常的に売り(さば)くブランド品は、地域産業として経済の活性化につながる。

 さらに素材産地にも定収入をもたらし、底の経済発展にも寄与する。


しかし ぜいたく品というのは、金持ちの虚栄心を満たすための一品ものであることに価値があるのである。


だからこそ ずる賢い商人が濡れ手に粟の金儲けを狙って 言葉巧みに売り込むことにより価値が生まれる。つまりは 売込み商人だけが金儲けするのが、ぜいたく品の購入。


 売込み商人は 自分の懐に入れた金をろくなことに使わない

 ぜいたく品の購入は、アンダーグランドで 人を傷つけて回ること人間たちを活性化させるのが落ちである。

 その典型が 象牙や毛皮目当てのゾウやトラの乱獲など、野営動物の絶滅問題である

 あるいは オートクチュール素材やプレタポルテの搾取労働が問題視されているのだ。



一方 清明のように、地元の経済が特需による変調をきたさぬように、かなり早い時期から原料の手配をして、

例えば、まず増産農家や炭焼き達に準備金を支払い、炭増産のために伐採した分の植林費用まで負担して植林の結果と乱伐をしていないかを見届け、

前払いで調理人たちを雇い、

完成品を従業員たちへの福利として無料でくばったり、

日ごろケーキに手が届きにくい層にも買いやすいようにと、原価価格=平常価格の半額以下(ふつう ケーキ類の原価率は30%未満と言われる)で販売したうえ、

売り子増員の為のアルバイト代も支払い、さらにケーキ屋の作業日分の燃料まで公爵家で負担するような 金の使い方は、

領民全体に広く金もしくは恩恵をいきわたらせる、領主の差配である。

 (飢えるほどの貧困層はいなくても、特別なことがない限りケーキを購入しない節約層のいる

  コンコーネ領であった)


 (注:原価率30%というのは、ケーキの販売価格が450円なら、ケーキの原価は150円ということ)


そこをはきちがえて、「領主が服や食べ物やその他の贅沢品を購入して 民に恩恵を施す」なんていうのは 欺瞞に満ちた大嘘に過ぎない。

 むしろ 領主の無駄遣いにより、資源が浪費され、地域の生産力が落ちてしまうのがおちだ。

 天然資源も運搬に使われる資源も 浪費すれば すぐに消えてなくなり再生できないのである。


 地力を落とさず、再生可能な範囲でそれらのものを消費するには、質素倹約が必須である。


 そういう意味では、侵略してでも領土拡張を続けなければ民が飢えるなどという国家は、

 「存在そのものが害悪=浪費による環境破壊集団」といえる。


 それが スカイの国が領土を拡張せず 人口肥大もおこさず調和を重視する国家運営を続けてきた根本的理由でもあった。



それはともかく、軽装(=着流し)に着替えた清明とキャラハンは 改めて二人で夫婦の部屋で

初めての時を過ごした。


これまで、夫婦の部屋のしつらえは行なっても、縁起を(かつ)いでそこの利用は控えていた二人であった。


「ケーキおいしい♡」


「紅茶も 良い味わいだ。

 それに 君もいい匂いがする」


「レモングラスって ほんと レモンのような香りがひきたつのよね。

 レモン味は出ないけど」キャラハン


「君が手掛けた庭のハーブ園の 今後の成長が楽しみだね」


「そうね。

 これから 私たちと一緒に、庭も部屋も成長していくのね」


「今日から1週間は 館でハネムーンだ。

 気が向いたら 2・3日二人で一緒にどこかに出かけてもいいね」清明


「ほんと 予定のない休暇って ひさしぶり。

 楽しみだわ」


「うん 新婚準備で今まで 忙しかったからねぇ」清明


食べ終わった食器類をワゴンに乗せて廊下に出したあと、二人は手をつないで夫婦の寝室に向かった。


プライバシー確保のために、わざわざ 居間の入り口周辺は 少しだけ廊下よりも引っ込んだ場所に作ってあり、居室前アプローチには、ワゴンなどが置けるようになっている。


そして 二人で過ごす時間は うち鍵をしっかりとかけて くつろぐつもりだ。



二人の寝室の窓辺には、ピンクのアスターの鉢植えが置かれていた。

 花言葉「甘い夢」 これは家令からのプレゼントであった。

 ちなみに アスター全般の花言葉は「変化・信じる恋」である。

ここまで ご一読いただきまして ありがとうございました。


「ドラゴンクランよちよち編」は これで終了です。


この物語の数年後、清明とキャラハンに双子の子供ができてしばらくしたころのお話

「わんぱくドラゴン」を 現在書いておりますので、 それが一段落したら

再びお会いできることを ゴンちゃんともどもと 楽しみにしております。


本当に今日まで お付き合いいただけましたことを 心から感謝しております。

 ありがとうございました。

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