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ドラゴン・クラン(Ⅱ )よちよち編  作者: 木苺
番外編 清明の結婚
91/92

結婚式

王国には 特にこれと言った宗教はない。


それゆえ 結婚式は人前結婚であり、その形式はケースバイケースである。


清明とキャラハンは、王宮の「結婚の間」で結婚式を挙げた。


王宮の「結婚の間」というのは、貴族たちの結婚式用に貸し出される大広間のことである。


結婚式の進行はスカイ国王が行なった。


スカイは清明の友人であり、公爵家の結婚式を国王がとりしきるのも「格」にふさわしいことであったから。


結婚式の衣装は、二人で決めた。

あれやこれやと目移りしたが 最後はシンプルに

 清明は 白のタキシード

 キャラハンは 白のドレス

   ハイネックの長袖、肌の露出はないけれど、

   首元、袖 見ごろ、裾回りと 細かくレース模様を切り替えた生地が

   すっきりとしたラインを産みだし、キャラハンのスラっとした体躯を引き立て

   ゆったりとした裾が優美さを醸し出す逸品


   ベールの代わりにティアラをつけ

   胸元には 大粒の琥珀のペンダントが揺れる。

    濃いはちみつ色をしたドロップ型の琥珀はキャラハンのお気に入り

    もう一つのお気に入りは 紫外線を当てると蛍光を発する琥珀だが、

    それは夜会用。

    昼間の結婚式では 大粒の琥珀の方を身に着けている。


  手にするブーケは白薔薇6本 

    その心は「あなたに夢中・互いに尊敬と愛を分かち合いましょう」


  ちなみに 清明の胸ポケットを飾るのは白薔薇1本のブートニア

    「一目ぼれ あなたしかいない」


♬ ♬

祖国への愛があふれる「フィンランディア」の冒頭 金管楽器の重々しい音色が会場に響き渡る。

この選曲は清明である。キャラハンは 麗々しすぎると恥ずかしがったのだが。

中央の扉が開き、清明が差し出す掌にキャラハンの手を預けた二人の姿が現れる


曲はモルダウの川の流れを現す部分に切り替わり、二人はレッドカーペットの上を静かに歩みだす。

 「わが祖国」はキャラハンの趣味だ

  2曲を組み合わせた編曲はキャラハンが自分で行なった。


赤じゅうたんの両側の椅子に座っていた客たちは、トランペットの音とともに立ち上がり

モルダウの曲とともに歩みだした二人に拍手をしたり、早くも花びらをまいて迎える。


二人は絨毯の先に立つ スカイの元まで進み(一同着席)、お辞儀をした。

 

スカイは観客に向かって問いかける

 「この二人の結婚に異議ある者は 今名乗り出よ

  さもなくば 永遠に口をとざすべし」


「異議なし!」客を代表して デュランとボロンが次々と声を上げる。


次にスカイは二人に問いかけた。


「病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も

 二人は互いに、愛と敬意といたわりを示し、ともに助け合い 共に家庭を築き維持していくことを誓いますか?」


「はい!」二人は 声をそろえて答えた。


「ここに 二人を夫婦として認め 祝福します。国王スカイの名において。


 さあ 皆 共に祝おうではないか、門出に立つこの二人を!」スカイ


そこで 客たちは全員立ち上がり 万歳を三唱した。

 「ばんざい!」ボロン

  「万歳!」一同

 「ばんざい!」ミューズ

  「万歳!」一同

 「バンザイ」スカイも清明の横に立って、二人の方を向いて叫んだ

  「万歳!」一同


そして 流れる子供達の歌声

 「二人でいつも腕組んで、行くて春かな空仰ぎ♬~♬ FIGHT!」

 これは コンコーネ領 領民代表として招待された児童合唱団が歌っている。



「それでは 新郎新婦と共に 祝いの席へと移動しましょう!」

スカイの掛け声とともに 一同は、子供達の歌声に包まれながら 清明とキャラハンを囲んで 隣の宴会場へと移動した。

(客体の最後尾を歩く児童達は 友達参加を合唱していた。

  「一人 一人が腕組んで♬~」


・・・

中央の長テーブルの上座の端には新郎新婦が座り、

テーブルの両側には 清明の親族代表として老夫婦やキャラハンの母親、ドラゴンクランの面々が並んだ。列としては、

 清明   :スカイ・老夫婦・デュラン

 キャラハン:ボロン・母・ミューズ

  これは 老夫婦が スカイより上座に座るのを遠慮したのにあわせた席順である


そして 長テーブルを囲むように置かれた丸テーブルに、その他の招待客が座っていた。


(コンラッドは ゴンと一緒に 龍の庭でお留守番である

 キャラハンの父は、かつての浮気相手と再婚してすっかり尻にひかれており今妻の意向で欠席)


食事は、丸テーブルでは 中華卓を使った盛り合わせスタイルであったが、

長テーブルと 合唱団メンバーのテーブルだけは定食のように個人別にセットにしておかれていた。


 (中華卓とは、丸テーブルの中央に、一段高い回転式のミニ丸テーブルが据えられていて、

  大盛料理は回転盤の上に、各自の杯や取り皿などは、丸テーブルの自分の前に配膳される形式)


これは 乾杯やスピ―チのあとは、各テーブルにあいさつに回らなければならない新郎新婦と、子どもたちが行儀よく食べやすいようにとの配慮からである。


まず最初に、友人代表としてボロンが立ち上がって乾杯の音頭をとった。


次に コンコーネ一族を代表してご老人がキャラハンに 歓迎の言葉を述べた。


続いて キャラハンの母が、二人の門出を祝いに集った客たちに感謝の意を述べた。


そのあと 新郎新婦から全体への挨拶。

そして 客席周りが始まった。


清明の姉たちは、ン十年ぶりにあった弟が立派に育ち、結婚までしたことを祝った。

「いつのまに! としかいいようがないけれど、これから どうぞよろしくね」と


姉様(あねさま)たちのお姿を拝見するのは これが初めてです。

 こちらこそ どうぞよろしく」清明


「君の眼をなおしてくださっただけでなく、結婚式の進行までひきうけてくださった国王には 感謝のことばしかないよ」と姉婿たち。


「ほんとに いつのまに!」これしか出てこないコンコーネ家のめんめんであった。



一方キャラハンの客は 同僚たちである。


「こんこん会(いち)の大物をつりあげるなんて、キャラハンもやるわね」


「部署一の働き手が寿(ことぶき)退職で、人事が大変だよ。

 アルバイトしたくなった時には いつでも声をかけてほしい

 君なら 大歓迎だ」上司



「ウェディングドレスきれい♡ お姫様みたい」これは子供達


「領主様もかっこいい。

 新年の祝いに領主様が見せてくださる剣舞の時と同じくらいかっこいい」同上


コンコーネ領の子供達にとって、清明の剣舞はあこがれの的なのだ。



来賓の中で 一番心のこもった祝いを述べてくれたのは、ドワーフギルドの面々だった。


コンコーネ領のギルド長だけでなく、王都やドラゴン・クランが登録している地区のギルド長、

そして、若き日の清明が利用していた支部の受けつけ嬢や、出納(すいとう)係・ギルド長とその家族が参加していた。


「その節は 本当にありがとうございました。

 皆さま方のご尽力があってこその、今の私でございます」

清明は 深々とかつての恩人たちの前で頭を下げた。

 キャラハンも つつましく その横で同じく丁寧にお辞儀をした。


「本当に 立派になられましたなぁ」

「清明さんの 努力があればこその 今ですぞ」

「清明さんのことを これから どうぞよろしくお願いしますね」

と ドワーフたち。


二人が 各テーブルを回り終わった後は、自由に客たちも立ち歩いての交流会となった。


清明が少年時代を過ごした別宅は コンコーネ領の飛び地にあったので、かつてお世話になったギルドの方々は、他領の支部の方々であった。

それゆえ、今の清明とは直接かかわりがなかったのであるが、せっかくの機会なので

ドラゴン・クランの面々とも 親交をかわした。


 スカイは国王として、現公爵領主のかつての苦境を救ってくれたギルドの方々に感謝を伝え、ギルドの人々は 清明の金銭問題を解決したスカイや、彼が領主としての務めがはたせるように教育係を務めたボロンに感謝の言葉を述べた。


 そして デュランは受付嬢と少しだけ仲良くなった。

 互いに 互いの経験談に親しみと新鮮な刺激を感じたのであった。



一方キャラハンの母は 感無量と言った風情(ふぜい)でぽろぽろ涙を流し、

ミューズは そんな彼女をそっと別室に連れて行き、

彼女の愚痴の聞き役を務め、(うたげ)が終わった後は、目立たぬように 施設からの迎えの人に彼女を引き渡した。


ミューズは この日の衣装をどうしようか迷ったのだが、キャラハンの母のお()り係を務めるのは女性の方が良いという医者の忠告に従い、女装しての参加であった。


それゆえ、会場の誰もが ミューズのことを女性と信じて疑わず

キャラハンの同僚男性たちは、こっそりと彼女を紹介してほしいとキャラハンに頼んだくらいだ。

 ミューズが キャラハンの母に付き添っていたので、てっきり、キャラハンの親族女性だと彼らは考えたのである。


 キャラハンは事前の打ち合わせ通り、彼女にはすでに婚約者がいるからと言って、元同僚たちをかわした。


「残念。君とはまた違ったタイプの美人だったのに。

 ほんと 君の一族って美形だねぇ」元同僚たち


「私のことを美人だなんて 初めて聞いたわ」キャラハン


「そんなこと 君にとっては当たり前のことだろうと思って 言わなかっただけだよ」


「誤解だわ。それ。

 私 お世辞の一つも言ってもらえなくて すごく残念だったのに」キャラハン


「彼らは 互いにけん制しあって自滅したのね」

キャラハンの先輩女性が小気味よさげに言った。


「だけど 今日のあなたは いつにもましてきれいよ。

 ほんとお似合いの美形カップル。眼福 眼福。

 どうか お幸せにね」


「二人の仲睦まじい様子を見ていたら ほんとに 心からのお祝いをいいたくなっちゃった。 おめでとう!」

同僚女性達も 心を込めてお祝いしてくれたので、キャラハンはこの日を迎えることができて 本当に良かったと思った。



 王国の領主たちは、そろって結婚式には出席してくれたが、披露宴の方は、庶民が集まるこちらの宴会場とは別室で 領主夫妻ばかりの食事会を開いていた。


 それゆえ 清明とキャラハンは、披露宴を中座してスカイの引率の元、領主たちの食事会にも顔を出して 結婚式への出席の礼を述べた。

 清明は、「私の大切な妻です。」とキャラハンを紹介し

 二人はそろって、「今後もご引き立てのほどよろしくお願い致します」と頭を下げた。


 コンコーネ領の隣のバリバリ領の領主婦人は、自分と年齢差の少ないキャラハンが領主婦人として隣あうことになったと歓迎してくれた。

「近々 ぜひとも うちの領主館に遊びに来てくださいね。約束ですよ」

彼女は キャラハンの手を握って言った。


バリバリ領主は 少し年かさだったので、

「妻の良き友人となってもらえるとありがたい」と清明とキャラハンに言った。


「わしは 少々やきもちを焼きやすくて、わしと同年配の領主にも妻と同世代の領主にも

 ついつい警戒心を抱いてしまい、妻は領主婦人としての付き合いに苦労しておるのだ。

 その点、新婚のお二人なら妻が浮気するかもと心配せずに招待できるから

 最初はご夫婦で、慣れれば奥様だけがうちの領に遊びに来て下さるのは歓迎だ。」


「いえいえ そうなると 私の方が心配になってしまうので、ぜひ奥様の方がわが館に遊びに来てください。」清明は笑って答えた。


「はっはっはっ、互いに美人で気立ての良い妻と結婚すると 気苦労が絶えぬなぁ」バリバリ領主


「私は 妻一筋。妻のことも信頼しております」清明


「コンコーネ領主様が剣の達人であることは有名ですから

 その奥方にちょっかいをかける男など この世で皆無でしょうねぇ」

かつて バリバリ領主の一方的な悋気に悩まされたことのあるイライラ領主夫妻も会話に加わった。

 イライラ領はコンコーネ領ともバリバリ領とも接している。


「まあまあ めでたい席でのご近所談義はその辺にして、

 今は 新婚カップルを友人たちの元へと返してあげましょう」

スカイが割って入って、キャラハンと清明を仲間内の披露宴へと送り返した。





最期は 新郎新婦が部屋の出口に立って、招待客たち一人ひとりと言葉をかわしながら見送った。


「後の片づけは僕たちでやっておくから」ボロン・デユラン


「私もお手伝いします」ドワーフギルドの受付嬢


というわけで 清明とキャラハンは、コンコーネ領の領主館に スカイの転移魔法で送ってもらった。

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