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ドラゴン・クラン(Ⅱ )よちよち編  作者: 木苺
     ドワーフ女性とデュラン
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カンカンのその後

ボロンは 会談に関する報告をドワーフギルドに提出するとともに、ドランゴンクランメンバーのミューズ・清明・スカイにも回覧文書として回した。


デュランも ドラゴン・クランに休暇届けを出して、1週間ほど実家に戻り、母にカンカンの一件を話し 己の心のわだかまりを話した。


デュランママは、デュランの母親としての立場でカンカンを呼び出し、思いっきりしかりつけた。

 彼女の行動により デュランがどれほど心の古傷をえぐられたか。

 彼が これまでどんな思いで生きてきたのかを伝えて。


実のところカンカンは、デュランのことを最初は「小柄な人間」としか思っておらず

後に 噂でデュランがハーフドワーフと知り、なんとなく人間よりのドワーフで、外見から察するに自分と同世代なのかな?くらいに思っていた。

 そして 王宮での会談で デュランやボロンから聞くまで、自分がかつて相談に乗ってもらったドワーフ女性がデュランの母だとは知らなかった


そして デュランのことを人間よりの存在と考えていたからこそ、自分が彼の自称婚約者を名乗っても 王宮の人間なら「それは私の思いこみ」程度に判断して流してくれると思い込んでいたのであった。


カンカンは 己の浅慮を恥じ デュランの母に平身低頭して謝ると共に、デュランに対しても申し訳ないことをしたと デュランの母の前で謝罪した。


「デュランへの謝罪は 彼への文書でなさい。それをあの子が読むかどうかはわかりませんが」


「はい」


「それとね あなたのお父さんの引退問題に発する工房の取り扱いに関しては

 ドワーフギルドに相談に行きなさい。

 

 あなたが これまで工房の発展に尽くしてきたことに対しての対価が何も支払われていないことは

 大問題だわ。


 家内労働者に対する未払賃金の支払い申し立て案件として訴える権利があなたにはある。

 それ以外の件名にすると 各自の見解の相違による泥沼案件になってしまうと思うの」

と デュランの母は カンカンに助言した。



・・・・

カンカンは 王宮の一件の報告と、父の引退に伴い発生した事案が自分にとっては不当な仕打ちであると思うという訴えと、デュランの母から助言を受けて「未払い賃金の支払いの申し立て」をドワーフギルドに対して行なった。


・王宮の一件に関しては、ギルドの担当者から、「短絡発想にすぎる」と叱られた。


 もちろん ドワーフギルドの役割についての広報活動の不足があったかもしれないが

 そしてそのことに関しては ドワーフギルドとしてもこれからの検討課題とするが

 この一件は ボロンの仲介がなければ、深刻な 人間の代表機関王宮とドワーフギルドとの対立・人間とドワーフの種族間抗争の火種になっていたかもしれないと 厳重注意を受けた。


 担当者からの注意に啞然としているカンカンに対して 

 「今時の若いもんは! もっと歴史を学べ! 先人の苦労を知って 今の平和を維持するために必要な「わきまえ・分別」を養え!」とさらなる 叱責が飛んだ。


・カンカンの「自分は不当な仕打ちを受けている」という訴えに関しては、家庭内争議に関する相談員が対応し、「あなたの気持ちは受け止めますが、実利を目指すなら デュラン母の助言に従ってドワーフギルドの裁定を受けるのが 最も合理的です」との説明がなされた。


 カンカンもまた 相談員と話す中で 自分の不満の解消と 現状打破のための方略とは異なると気づいて 気持ちを立て直すことができた。


 平たく言えば 父から己の存在が認められることを期待したとしても、それがかなうかどうかは

父の価値観と感情に関わる問題であって、自分個人の努力ではいかんともしがたいこと

 そして 父と娘の感情問題については 第三者の助言も介入も 当人が聞き入れる気持ちにならなければ無意味なことを認めた。


 一方で 現実的な解決策 未払賃金の支払いに関しては、ドワーフ族の家内工業に携わる家族労働の評価問題として、ドワーフ社会の中で共有できる課題であり、ドワーフ族の発展の為にも、ドワーフギルドとしても積極的に介入して 公平な解決を図る案件であることを理解した。


「こういう問題は 申し立てがあって 初めて 関係者そろっての話し合い・調停・裁定につながるのです」とドワーフギルドの相談員は言った。



・カンカンに対する未払居給料の支払いに関するドワーフギルドの裁定


①カンカンの父の引退に伴い 工房を閉鎖するか 工房の経営権を譲渡する前に、

 まずは 一介の鍛冶師(カンカンの父)の鍛冶場に過ぎなかったものが、「工房」として王宮技術院からも納品を認められるほどの存在に成長したカンカンの業績に対する未払給料の 即時支払い命令が出された。


さらに カンカンの功績に関する査定と 彼女に支払われるべき給料総額の算定も ドワーフギルドによってなされた。


 カンカンの父は 手持ちの現金をすべてつぎ込んでも カンカンへの支払い金にたりないから

 それくらいなら 工房の経営権と工房に付随するすべての資産をカンカンに譲渡すると言った。


②それに対して カンカンの父の弟子は 工房の経営を自分が引き継ぐことはすでに既定のことだと主張した。


 しかしながら 工房の経営権移転登録に必要な社印をカンカンが隠し持っていたので

 それらは まだ書面で届け出がなされておらず 単なる口約束扱いであった。


 というわけで ドワーフギルドは、カンカンの父の工房の経営権の移転の前に カンカンへの未払給料全額が即金で支払われなければならないと勧告した。


③一方 カンカンの父の工房の職員たちは、カンカンの父の弟子から一方的に 給料の切り下げ・雇用条件の変更(カンカンが実施した給料制から 以前の徒弟制への改悪)を通告されたことへの異議申し立てを行なっていた。

 その訴えを受けたドワーフギルドの担当者は 経営の前近代化を推し進める人間を工房経営者として認めることはできないと 裁定を下した。


④そこで カンカンの父は、ならば 工房の経営権をカンカンに移譲すると言ったが、

 カンカンは 経営権の委譲の場合、問題の弟子も含めた不良職人の雇用義務が発生するからいらない、

 未払給料は 現金一括もしくは 即金化できる資産の形で支払って欲しいと言った。


 (このあたり、デュランママに相談して、工房の経営権と工房に付随する資産的価値の違いに関する助言を受けたり、それぞれの評価・見積もりの方法を教えてもらったカンカンの思慮の反映である。


  一方 カンカンの父の弟子も、カンカンの父に対して 工房の経営権だけカンカンに渡して

  工房の資産は 鍛冶師である自分が受け継ぐとこっそりと申し出ており、それを受けて

  カンカンの父も 最初の主張に替えて、経営権だけをカンカンに譲ると言い出したわけである)


⑤それやこれやの末に、カンカンの父は工房の解散を決定し、職人達には、1か月分の給料(基本給相当部分)が退職金として支払われた。

  この基本給相当部分というのは、ドワーフギルドが職種別に定めた最低賃金のことであり

  工房解散時の、職員への退職金としては この支払額の決定方法は妥当なものであると

  ドワーフギルドでは認められていた。


 そして 工房とそれに付随する資産が カンカンへの未払給料全額相当として譲渡された。


⑥カンカンは、これまでの未払給料の代わりとして受け取った工房関連の資産を使って

 新たに 工房を立ち上げることにした。


 しかし 工房立ち上げ時の職人達へ支払う給料分の現金の持ち合わせがなかった。


 そこでカンカンは ドワーフギルドに工房創業ローンの申請を行なった。

 申込書には 過去のカンカンの営業実績に基づく今後半年間の営業計画と、新工房でも職人として働きたいと名乗りを上げた父の工房時代の職人たちのリスト(雇用条件付き)が記載された。


 ドワーフギルドの鍛冶工房部門の責任者は、カンカンへの融資に関してドラゴン・クランに協力を打診してきた。

 曰く「カンカンの事例は 従来家族経営であった鍛冶場が、多数の職人を雇用する工房として大規模化するに伴い、生産現場と経営部門の分離と業績の評価に関する位置づけが、工房経営者の代替わりの時に表面化する事例の先駆けとなるものと思われる。

 それゆえ カンカンの新工房立ち上げを援助することにより、このようなケースのモデルケースとして 工房経営の留意点や経営権の円滑な移転に向けた注意点をまとめてほしい」ということであった。


 さらに「ドワーフギルドとしては 鍛冶師でもないカンカンに融資するのはリスクが高すぎるという意見も根強い。

 ドラゴンクランには デュランという鍛冶師が居るのだから 彼を派遣して、カンカンの工房が  鍛冶工房として成立できるかどうか見極めてほしい。

 カンカンの経営者としての能力も 将来性は期待できても 現状においては未熟であり

 今の彼女への能力評価は せいぜいが優秀な営業員止まりなのだから」という注文までついた。



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